十五話:知ってた
「なぁ、どうすんだよ……」
「知らないよ。誰かいい案がある人。挙手して」
「ない」
「あるわけないでしょ。こういうことは、初めにそういうこと発言した人が考えるべきよ」
「考えがないから聞いてるのに……」
四人は各々の感情を表したような表情を浮かべていた。
呆れたような顔、絶望したような顔、面倒そうな顔、そして苦笑い。
誰一人として好感のある顔色は見受けられない。
広い空間。人工的に作られた石造りの広場があった。
四人はその中で、とある物に目線を向けた。
「久シブリノ外ハ、騒ガシイナ」
その奥の方から片言のような、慣れない大陸共通言語を喋り近寄ってくる一つの影。
頭には一本の角。漆黒の翼と、闇を体現したような全身。
異形とはこのことか、と言わんばかりの容姿をしていた。
「なんだアイツ、仮装か?」
「何を言ってるんだよエドモンド……」
「そうよ。あんなの仮装じゃないわよ。ただの馬鹿だわ」
「それも違う」
とんちんかんなことを言うアリスに、シェリーが思わずツッコむ。
「ドウシタノダ、小童ダモヨ」
「……あ、いえ、別に」
喋りかけてきた異形に、リュカが思わず返事をする。
いつの間に右手に握られている剣には、真っ黒なオーラが纏われていた。
「……思い出したぞ。あれって、どう考えても魔人だよな!? 教科書通りの外見だぞ? これが俗にいうテンプレってやつなんだろ、リュカ!」
ようやく現在の状況に気付いたエドモンドが興奮気味にリュカに尋ねる。
しかし事実を馬鹿にさえ指摘され、思わず天を仰ぐ。
「そんなことどうでもいいよぉ! ていうかどうしてくれるんだアリスゥウウウ!! まただ! しかも今回は洒落にならねえええええ! うわああああああ!」
「リュカが壊れた」
絶叫じみたリュカの発声に、坦々とシェリーが呟いた。
そしてリュカのその言葉に、バツが悪そうにしながらも、
「う、うるさいわね! 好きでやったわけじゃないわ!」
アリスがやっちまった、という表情をしつつ気丈に答えた。
「好きでも嫌いでもどうでもいいいいいい! 打開! このピンチを打開するアイデアある人挙手! お願い!」
「「「――――」」」
リュカの発言に、誰一人として応答はない。
四人の滑稽な場面に、魔人と呼ばれた一人の男は「クックッ」と喉を鳴らすように笑う。
そしてひとしきり笑ったと思うと、
「面白イ人間ドモヨ。我ハ人間ノ血肉を求メテイル。早急ニ差シ出セ」
「……んな無茶な」
魔人の発言にエドモンドは呆けたような表情で答える。
「ナニ、オ前タチが自ラ差シ出セバ良イノダ。――オレ、オマエラ、マルカジリ」
「遠慮するわ! そしてその恰好は似合ってないから、やめた方がいいと思う!」
「……貴様、ナカナカ言ウデハナイカ」
「アリスゥウウゥウ……。火に油、注がないでぇ……」
リュカの言葉むなしく、魔人、四人の双方が徐々に戦闘態勢を取り始める。
真っ黒なオーラが吹き荒れる様子を目の当たりにしながら、
「ああ、何でこんなことに……」
こうなる前までの全容を、リュカは瞳に涙を浮かべながら思い出していた。
*****
「何だよこのダンジョン。モンスターなんか一匹もないじゃねぇか」
「宝も無いし、しけてるわね」
エドモンドとアリスがつまらなそうに喋りながら歩く。
一本道のダンジョン。綺麗に舗装されているそこには、敵も、宝も、何一つとして存在していなかった。
四人はダラダラと道を進む。
リュカも気配を探すが、四人以外の生き物の反応はなかった。
虫の一つさえ居ない。
明らかに異常だった。
「……なんかヤバい気がするんだよなぁ」
「分かる」
リュカとシェリーは油断することなく一本道に注意を払っていた。
明らかに今まで来たことのあるダンジョンとは違った。
とはいいつつ、異常さは見当たらないのだから、無駄なことだとアリスは言いたげだ。
「大丈夫よ。アンタ達は無駄に心配しすぎ」
「……でもさぁ」
「何かあったらドカンと吹き飛ばしてやるわよ」
「――――」
壊したら評価がDになることをもしかたら忘れているのではないだろうか。
そんなことをリュカは思いつつ、いつでも弓矢を構えられるように進む。
「なんか暇だよなぁ。なあリュカ、良かったら森でやってたように――」
「却下だ」
しりとりは無駄に魔力を使ってしまう人がいるので、止めておいた方がいい。
それはエドモンドも分かっていたようだ。
「だよなぁ。あーあ、すげぇ暇なんだけどー」
「本当に暇よねぇ。あーあー、何かしろ極大魔法をぶっ飛ばしたいわー」
「――――」
うるさい。
幼馴染コンビがとても面倒だ。
「そういえばダンジョンって、地属性の魔法で地形変更させても元に戻るらしいわね」
「やめて」
アリスがとんでもないことを言いだしたので、シェリーが止める。
リュカならともかく、シェリーの発言には、アリスはあまり強く出られない。
――数十分歩く。
何もない。
それは決して変わらなかった。
真っ白な道。
永遠かと思うほどに続く直線の中で、リュカが「待って」と静止をかけた。
「何よリュカ。お宝でも見つけたの?」
「いや……これ見てよ」
と、彼が指さす先には淡い光を放つキノコがある。
リュカが枝や水場を探す際に収集していた、ヒカリゴケと呼ばれるキノコだ。
食用ではないが、摘んでも淡い光を一週間ほど放つ性質を持つ。
「これ、直線を進む際に途中から落としてたんだ。道の隅に」
「……つまり?」
「僕たちは同じ道を歩かされている。いわゆるループ(・・・)。魔法で次元が歪まされてるね」
「驚いたわ」
こうした魔力を用いた小細工を、リュカが全く気づけないことにアリスは驚愕した。
リュカの洞察力、注意深さ、魔力探知能力は、学園内でも随一だ。
そんな彼でさえ綻びや違和感を覚えさえないほどの魔法は、相当な練度と時間をかけて構築されている――とアリスは思った。
……私にはできない芸当だ、とも。
「戻るか?」
「いや、どこに綻びがあるか分からないから無理。何より、戻ってもここに帰って来ると思う」
エドモンドの発言には、リュカは速攻で返答する。
「どうする?」
「――――」
シェリーの言葉には、リュカは返せなかった。
打開方法はあるが、それにGOサインは出しにくかった。
それはとある人物の暴走を促さすし、何よりまだ裏がありそうで恐ろしかったからだ。
「……駄目だ、ね」
かといって、この一本道をループさせる魔法の綻びは、何一つとして見破れない現状、脳裏に浮かんだ打開方法を選択せざるを得なかった。
自分の実力の無さにリュカは辟易とするが、仕方ないと決心する。
「アリス」
「何よ」
「……ファイアボムを、一○歩進むごとに一定間隔で撃ってくれないかな」
「――ッ!?」
「正気かよ、リュカ」
リュカの発言にシェリーが声にならない悲鳴をあげ、エドモンドがまるで幽霊でも見たかのような表情で、リュカに言葉を放つ。
「高練度の魔法――多分無属性だけど、綻びが見当たらない。恐らく分かりにくいように設計していると思うけど、魔法の干渉があれば、構築されている魔法に揺らぎがでると思うんだ」
魔力は基本的に混ざり合わない。
混ざり合うことを基本としない限り、干渉しあうのが魔力だ。
魔力は人間の本質と繋がる。
人間の本質が混ざり合わないのは明白。
「いいのね? それで」
「……うん。ごめんね。こういうのは僕がどうにかしないといけないんだけど」
「別にいいわよ。ちょっとイライラしていたし。それに、魔法を許可されるのは、それはそれで嬉しいものよ。基本はNOの方針だしね」
そうしてアリスが先頭に出てくる。
薄っすらと彼女の周りに赤い魔力の本流が蠢きだす。
「『ファイアボム』」
放たれる炎の塊。
それが十メートル先で着弾すると、弾けるように炎が四方に飛び散った。
熱が四人の頬を撫でる。
「……ん」
「やったじゃないリュカ。今のは私でも分かったわよ」
たまたま運が良かったのだろう。
恐らくだが、ループの綻びをリュカとアリスは感じた。
微かだったが、僅かに魔力が揺らぐ感覚を覚えたのだ。
「解除する時間、くれる? 魔法構築してる魔力散らしてくる」
「いいわよ」
アリスが許可を出して、そのまま壁に道の横、壁に寄りかかるように座った。
シェリーとエドモンドも出来ることはないと考えて、その場に座る。
今度こそ仕事を、という意識でリュカはループを解除するために歩みを進めた。
なかなか書きにくいですね。
お休みも仕事してました…^^;
次更新も不定期ですが、宜しくお願いします。




