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十二話:一日の終わり




「お腹減った……」

「あれ、熊って食えるんだっけ……。リュカ、食わせてくれよぉ……」

「まだオークの肉余ってるから、それ食べてよ」


 二つの補助魔法の重ね掛けによって疲弊し、エネルギーを使い果たした近接タイプ二人が、食料をよこせとせがむ。

 討伐した大熊の首は、近くの木にさらされている。

 こうすることで、よほどの馬鹿な魔物以外は寄らない。

 加えて結界を張りなおしているため、今日はゆっくり眠れるだろう。


「食べたら二人はさっさと寝ようね。……アリスはどうする?」

「私も先に寝るわ」

「分かった。見張りは僕がしよう」


 いくらここいらのボスを倒し、結界を張っているからとはいえ、見張りなしは流石に馬鹿のすることだ。

 今回、三人と比べてあまり動いていたリュカが見張りに名乗り出た。


「僕は半分見るから、あとの半分は三人で分担してね」

「りょーかい……オークうめぇ」

「――――」


 感嘆の声をあげるエドモンド。そしてもくもくとオークのふくらはぎ当たりをかじるシェリーに、思わずリュカは苦笑いした。

 といっても、この二人の時間稼ぎはかなり優秀だった。

 致命傷は与えられないことを判断し、アリスの一撃を待つための、露骨ではない(・・・・・・)時間稼ぎは見ていても、本気で倒そうとしているぐらいに見えた。

 しかし実際は体を一歩引き、すぐさま後退して仕切り直せる形で常に居た。

 ああいったパワータイプは真正面からぶつかるよりも、魔法タイプに任せた方が楽なことを二人とも、これまでの実践形式のクエストで分かってきたのは大きい。


「私は先に寝るわ。おやすみ」


 ふわぁああ、とあくびをしてアリスが二つ立てていた二つのテントの左側へと向かう。

 アリスもアリスで、今日は魔法をぶっぱなしまくっていたため、疲労が蓄積されていたのだろうと、リュカは察する。


「……ま、その程度で済んでることが驚きだけどね」

「何の話だ?」

「アリスの内包魔力量の話」

「あー。アイツはマジもんで化け物並みの魔力量だしな」


 呑気にそう言うエドモンドではあるが、普通に考えれば失神して倒れこむほどの魔法を連打していたのだ。

 それが初級魔法ならいざ知らず、中級魔法もぶち込んでいた。

 まずリュカにもできないし、学園でも出来る人物は数限られるだろう。


「……肉食ったら寝るわ。見張り宜しく」

「ごめんね、リュカ」

「いいよ。今日一番働いてないのは僕だし」

「――――そうか。なら頼むぜ」


 別にそういうことではないのだが、否定したところで納得しないのがリュカだ。

 そこらへんは分かっているエドモンドが、素直に頼みこんだ。


「それじゃおやすみ」

「おつー」

「おやすみ」


 片やふらふらと、片や足取り重そうにテントに向かう姿を見送ったのち、リュカは小さく吐息を零して夜空を見上げた。




*****




 梟の鳴き声が遠くから微かに聞こえる。

 火が消えないように一定時間ごとに枝を火に突っ込みながら、リュカは黙って周りの気配を伺っていた。

 義理ではあるが母親に出会うまでは、孤高に生きていた彼。

 治安など保障されていない、まさに生き地獄で暮らしていた彼にとって、一晩寝ずに過ごすことは日常茶飯事だった。

 寝て起きたら人さらいにあっていた、ということも無い話ではないからだ。

 よほど安心できる場所で寝られる時以外は、こうして人の、動物の気配に耳を澄ませ、神経を尖らせて生きてきた。


「……夜は冷えるな」


 いつも過ごしている王国の中心と比べて、朝晩の寒暖差が大きい。

 白い吐息は出はしないが、それでも肌を撫でる風がいつもより冷たく感じる。

 

 ――昔からは、想像できなかったな。


 五年前。

 拾われるまでの生活と一変したこの生活に、リュカは苦笑した。

 あの時は毎日が生きるか死ぬかの瀬戸際だった。食料、寝床、仲間、家族。その全てが存在しえなかったあの場所から抜け出すことが出来、今では個性的ではあるが、頼れる仲間と信頼し合ってクエストを実行している。


 ――ありがとう、お母さん。


 しみじみとリュカはそう思いながら、再び上を向いて息を吐いた。

 雲ひとつない星空。

 街頭で照らされている街並みから見る景色とは違う眺めが、いやに感傷的にさせているのかもしれない、とリュカは感じた。


 ……ふと、後方から足音。

 

 気配を感じ取っていたリュカとしては、それが身内であることは分かっていた。

 歩く足音、そしてやけに大きく感じる魔力。


「おはよう、アリス。気分はどう?」

「よくはないけど、リュカにばっかり見張りを任せるのはどうかと思うし」

「大丈夫だよ、僕は慣れているから。それにこういうことするのは僕の役目みたいなとこもあるし」

「――――」


 アリスはリュカの発言にムッとした表情を浮かべながら、彼の横に腰を落とした。

 見つめる先の炎に枝を入れ、小さく『ファイア』と唱える。

 轟、と一瞬だけ炎の勢いが強くなり、勢いが先ほどより強くなった。


「そういうこと言うの、やめたほうがいいわよ?」


 アリスの発言に、リュカは頭を傾げた。


「そういうことって?」

「だから……火の番を夜中の間ずっとやったりするのが自分の役目とか、そういうこと言うのはやめなってこと」

「……何で?」

「別に私たちは、そういう理由でアンタをパーティに入れたわけじゃないからよ」

「――――」


 リュカは何かを言おうとしたが、すぐに口を閉じた。

 不機嫌そうな顔をしている。

 この状態でアリスに何を言っても無駄だろうと察したからだ。


「私たちのパーティは、リュカ。あんたみたいに考えて、状況を判断して行動できる奴は居なかったわ。……いや、確かにそういう輩を引き入れた時もあったけど、すぐに抜けちゃうのよね」


 そりゃそうだろ、という言葉も言わないことにしたリュカ。


「魔物討伐者育成学校に入るまでは普通の学校の、魔物討伐部っていう部活に入っていたわ。魔物討伐者とか冒険者になる人は誰もが入っていたから結構人が居たの。……途中まではごり押しで良かった。でも卒業前の最後のクエストでエドが怪我したの」

「……そうだったんだ。全然知らなかった」


 エドモンドがそういういったことを言うことがなかったからか、リュカは知らなかった。


「そりゃそうよ。言ってみれば、三人のミスが祟った結果だもの。そんなこと言うはずがないわ」


 まあ、それはいいのだけれど。

 と、アリスは話を続ける。


「魔物討伐者育成学校に入ったからには、もう少しまともに援護なり回復なり出来るやつが欲しいと思った。一番は回復持ちでサポート出来る子を志望してたんだけど、そういった子は入る前からスカウトが多いの。もちろん、私たちのパーティに入れることはできなかった」


 アリスの独白じみた会話を、火を見ながらリュカは耳を傾ける。


「回復技能を持っている人は無理だと思った。だから、視野が広くて判断が早く、サポートできる奴を入れようと思ったの。……そういう条件で見てたら、リュカ。アンタが一番だったわけ」

「そうかな? 僕以外にも――――」

「謙遜しすぎ。アンタの探査技能、支援魔法技能、そして魔物と対峙する上での意識……場慣れって言うのかしら。同学年ではぶっちぎりだったわよ。ただ地味だったから目立たなかっただけ」

「地味……」


 ずーん、と暗い雰囲気を流すリュカに、またか、といった顔を浮かべるアリス。


「とにかく! リュカ、アンタは優秀だった。それに気づかないのは見てくればかり気にする馬鹿ばかりよ。逆にアンタを入れたがっていた奴もいたでしょ? それはもうしつこく」

「それって、ルリのこと?」

「そうよ! あの女狐、いつも私の後追いばかりしてさ。リュカのことだって、私がパーティに入れたから奪いたくなっただけに違いないわ。アンタが私のパーティに入ってから、いかに自分の方がリュカを有効活用出来るかグチグチ言ってきてたし」

「――――」


 無言に徹する。

 ここで茶々を入れては何が起きるか分からない。


「……話が逸れたわね。えっと、何が言いたかったのかというと、私たちのパーティはアンタなしじゃ立ち行かないぐらいに、アンタを信用してんのよ」

「うん、それは分かった」

「なのにあんたは荷物持ち、火の番をせっせと、それはもう小間使いのようにやるじゃない?」

「だって、戦闘だとみんなの方が負担が――」

「それが違うって言いたいのよ」


 アリスが困ったような顔でリュカを見つめる。

 彼女の珍しい表情を見て、そんな顔も出来るんだとしみじみ思ったリュカ。


「戦闘面においては、アンタだって支援魔法でサポートしたり、遊撃したりしてるじゃない。それこそ、相手の隙を突くような一撃を、虎視眈々と狙っている。神経はすり減らしてるはずよ」

「そんなこと言っていたら、みんなだってそうじゃないか」

「そうよ。だからアンタが一人で馬鹿みたいに火の番をずっとやる必要はないの」


 ここでアリスの言いたいことが、リュカにはようやく分かった。


「……僕はみんなと対等だと思ってたのに、一歩引いたところで付き合ってたのかな」

「どうかしら。多分、染み付いた癖のようなものだと思うけど」

「癖、ね」


 それはあるかもしれない、とリュカは感じた。


「ただ、パーティは頼り頼られの関係性。優劣なんてないわ。誰かが欠ければ、立ち行かなくなることはなくてもパーティとしての質は落ちる。だから、一人ひとりがパーティ内で負担を共有する必要があるわ」


 ――だから、ね。


「アンタ一人に背負いこむようなことをさせたくなのよ、私は」

「……アリス」

「な、何よ! 何でそんな『こんなに可愛かったけ、コイツ』みたいな顔で私のこと見てんのよ! やめなさいよ、それ」

「そんな顔してないって」


 顔を真っ赤にするアリス。

 否定をしながらも、リュカは思わず笑みを零した。

 

「もっとみんなを頼るよ。ただ、今日に関しては本当にみんなの方が疲れてたから、僕が長い時間を負担するのは間違ってないでしょ?」

「……そりゃ、まあ」

「だから僕が疲れた時は、みんなが僕の分まで火の番とか荷物持ちとか食料探しとか、色々と宜しくね?」

「――ッ! 任せなさいよ、それぐらい朝飯前だわ!」


 言いたいことが伝わったことに喜んだアリスは、リュカのその発言に、満面の笑みを以って答えたのだった。




更新遅れましたぁ。

昨日おとといは仕事でなかなか書けませんでした^^:


明日はさくっと更新します。


ブクマ・評価・感想・誤字報告などあれば宜しくお願いします。

ではでは^^

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