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厄災の落日

 特撮世界体感型VRMMORPG『エネミーオアジャスティス<ENEMY OR JUSTICE>』。

 家庭用VRゲーム機<サイバー・リンク>が発売された直後に発売された12本の対応ソフトの一つであり、そのタイトル通りプレイヤーは悪の組織サイドか正義の味方サイドに別れて悪の組織は世界征服を、正義の味方サイドはその阻止をと、生き残りを賭けた戦いを行うゲームである。



 発売当初こそ一部のコアな特撮ファンやゲームマニアにしか受けなかったが、某巨大玩具会社のタイアップによるヒーロー・怪人アバター配布や某特撮監督が自身のロールプレイ動画を編集し、動画サイトに投稿した事により世間への認知度が爆上げする事になる。



 元々このゲームはデータ量が同時期に発売されたソフトよりも圧倒的に多く、選べるヒーローアバターにしろオーソドックスなスーツ型からメタリックなアーマータイプ等500種類にも及び選べる怪人アバターも改造人間型・宇宙人型・妖怪型etc…と700種類。合わせると1200種類になる。



 また、このゲームのウリの一つとしてアバターデザインがある。

 自身のアバターは勿論、相棒や配下のNPCキャラのデザインや設定も作り込めるのだ。

 たとえば自身をドラゴンを思わせる鎧を着こんだヒーローアバターにして相棒のNPCキャラを布面積の少ないお色気キャラにする事だってできるのだ。

 

 

 このデザイン機能はエネミーオアジャスティスの人気に拍車をかける事になる。

 公式サイトによるデザインデータの配布からプロアマを問わず漫画家やイラストレーターがデザインしたアバターや武器データを様々な場で公表し、一大ムーブメントを起こした。



 勿論、ゲームの内容も負けてはいない。『究極のごっこ遊びを貴方に』をフレーズにプレイヤー達の戦場となるのは日本を元に作られた架空の国ヒノモト。現実の日本とほぼ同じサイズであり、エゾ、トウホク、カントウ、チュウブ、キンキ、シコク、チュウゴク、キュウシュウ、リュウキュウの9つのエリアに区切られている。各エリア内には現実の都道府県にあたる場所が1つの国として機能しており、統一国家の体を表している。

 各プレイヤーの活動拠点は大体がゲーム開始地点である自身の住居とリンクしているエリアが拠点となる事が多く、他のエリアを拠点とするプレイヤー達との共闘が重要となるので大体のプレイヤーは悪・正義問わずギルドを組む事が多い。



 プレイヤー人口が増加の一途を辿る一方、それに伴い悪・正義の戦局は疲弊していった……かと思われたが、事態は急変する。



 サービス開始から2年目、チュウブエリア陥落の報がプレイヤー達に衝撃を与えたのだ。

 これまで各エリアの戦況は大体が五分五分かどちらかが優勢のどちらかだったが、チュウブエリアの悪サイドプレイヤー達が敗北、全滅したのだ。その中にはランカーと呼ばれる全国ランキング10位に入るプレイヤーが2名居た事もあり、当初は正義サイドプレイヤー達の流した誤報だと思われたがチュウブエリアの正義サイドプレイヤー達がキンキ・シコクエリアへの侵攻を開始した事により勢力バランスは一変し、全国の悪サイドプレイヤー達は敗走の一途を辿る事になるのであった。










 秘密結社デュアルディザスター。

                                    

 大首領K2(ケージ)を頂点とし、動物の特性を持つ怪人体に変身できるホムンクルスと呼ばれるNPCの配下で構成されるキンキエリア最大勢力を誇る悪の秘密結社である。

 プレイヤーであるK2自身もランカーであり、全国ランキング3位の実績を持っており、配下であるNPCの数はゆうに10万を超え、彼を慕う同じ全国ランキング10位以内に入るランカー4名のプレイヤーにランキングこそ入っていないものの国内最大の生産系組織と資産家組織の2名。計6名のギルドメンバーを束ねる全国でも類を見ない大組織である。

 キンキエリアのトップ組織となって1年近く経つがその間のエリア内悪プレイヤーの勢力比は常に80%以上をキープし、同じ勢力比を持つシコクエリアと合わせて全国の正義プレイヤー達に2大不可侵エリアとして恐れられたほどだ。



 しかしそれも過去の話。



 チュウブエリア陥落後、正義サイドのプレイヤー達はシコクエリアへの侵攻を開始した。

 現実世界の日本と同じく周囲を海に囲まれ、天然の要塞と化しているシコクエリアに対し、正義サイドは圧倒的な物量による攻略を開始した。

 エゾ・トウホクエリアのプレイヤー達に後詰を託し、カントウ・チュウブの全戦力を送り込んだのだ。

 4カ月の攻防の末、ついにシコクの地は陥落する事になる。





 秘密結社デュアルディザスター本部基地最下層玉座の間――

 本部基地の最奥にして最も重要な場所であるこの場所は西洋の宮殿をイメージされて作られており壁は白や金を基調にした作りに、灯りはシャンデリアをモチーフとした照明設備がイメージを崩さないよう幻想的な輝きを醸し出している。

 入口の巨大な大理石でできた扉から一直線に紅いカーペットが正面の突き当りに存在する椅子にまで伸びている。

 その椅子に右足を左足に掛けて深く座り込む人影が1つ。

 秘密結社デュアルディザスター大首領K2である。

 黒い旧ドイツ軍の軍服をイメージした衣装に身を包み、左目には眼帯を付けており、それには組織のイメージエンブレムである狼を模した模様が金糸で縫いこまれている。

 


「まさか本当にここを戦場とする時が来るとはね」



 やれやれと、右手の人差し指で前髪をクルクルと巻き上げながら物思いにふける。

 元々この場所は敵プレイヤーとのレイド戦を意識して作られている為、部屋は広く、天井は見上げるような高さがある。

 しかし今まではここまでくるプレイヤーは皆無であり、大体が基地到達前に配下のNPCかギルドメンバーの誰かに捕捉されて撃破されるのが普通だった。

 


「最終防衛ラインも時間の問題……か。最後の仕事は如何に多くの残存部隊をキュウシュウまで撤退させられるかか」



 コマンドコンソールに表示される大雑把なマップに自軍を表す青い点滅が一つまた一つと消えていき、敵軍の赤い点滅が近づいていく。恐らくここへも後10分もしないうちに到達するだろう。

 K2はデュアルディザスターの全力を持って徹底抗戦を決意し、より深く椅子に座り込みコマンドコンソールの一番下の表示をクリックした。

 すると目の前に淡い光を放つ砂時計が出現し、K2はそれをゆっくりと手に取り滅びの言葉を口にする。



「プロテクトコード<ラグナロクは黄昏を迎えた>」



 その瞬間、砂時計は回転を始め内部の砂が外部に流れだし時を刻む。

 残り時間1800秒、それがこの基地が消滅するまでの残り時間となるのだった。今頃ギルドメンバーやこの戦いに参加した臨時の同盟組織のプレイヤー達のコンソールにも同様の時間が配信されている筈だ。


 



 後30分もしないうちに全てが終わる。

 後は一人でも多くの敵を巻き込み組織の力を知らしめる……まさしく悪の組織としての本懐と言ってもいいシチュエーションに軽く武者震いをしたところでゲーム内通話システムであるフレンドコールのコール音が鳴り響く。



「はいもしも――」

『ケー君、どーいう事なんコレ?キッチリカッチリ説明してもらうで』

「ま、マリさん落ち着いて……」


 

 通話相手であるギルドメンバーのマリはギルド古参プレイヤーの1人でありリアルでも交友のある数少ないプレイヤーである。

 彼女のアバターは栗色の髪をサイドポニーに纏めており紺を基調としたスーツをイメージした服に身を包んでいる。リアルではバリバリのキャリアウーマンだという彼女はアバターの姿でも言葉通り様になっている。

 そんな彼女だからこそ数少ない生産系悪の組織にして日本最大級の規模を誇る<エンパイア・ワークス>の社長兼首領を務められているのだ。



『カッコつけすぎやで自分……うちらだってまだあきらめてへん。ケー君だけの責任ちゃうんやで』

「それでも……俺、ギルマスですから。少しはカッコつけさせてくださいよマリさん」

『んぅー、卑怯やで。そんな事言われて止めれる訳ないやん』



 通話画面のマリのほっぺがプクーと膨れ上がり不機嫌顔になる。



『そん変わり全部終わったらすぐに私のとこに来るんやで。1週間で基地と装備用意したるさかい』



 このゲームにおける死亡時のデスペナルティは重く、所持アイテムに所持金は勿論拠点となる基地まで失われてしまうのだ。通常の戦闘における敗北でのペナルティがこれであり、今回の様に自爆によるデスペナルティがどれだけの損害を出すのかは前例が無い分K2自身も想像できないのだ。



「そ、それじゃあまるでヒモみたいな――」

『問答無用。えーから黙ってうちに養われとき』



 マリとの他愛もないやりとり。

 それはすぐそこに迫っている決戦を忘れさせてくれた。

 口元には笑みがこぼれ、温かい気持ちにさせてくれたのだ。



「わかったよマリさん。その時はお願いするね」

『まーっかせとき。だからケー君も――』



 直後、入口の扉が爆破され大きな大理石の破片が当たりに散らばり猛スピードで部屋に入って来たサイドカー付バイクから2つの人影が飛び降りる。乗り捨てられたサイドカー付のバイクがけたたましいエンジン音と共にK2の真横を通り過ぎて後方で大きな炎を上げて爆発した。

 


「まったく、無粋な連中だね正義の味方ってのは」



 K2が嫌味を言う中、バイクに乗っていた2つの人影はゆっくりとこちらに歩みを寄せる。

 それに合わせてK2自身も椅子からゆっくりと降り立ち、玉座の間から一歩前に出る。羽織った黒いマントを大胆なオーバーアクションでひるがえして目の前の敵に目を向け決意を新たに立てる。



「我こそが秘密結社デュアルディザスター大首領。世界を覆う厄災なり」 



 この戦いが全ての始まりだとはこの時の僕は知る由もなかった。





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