困惑と心
短めです…
本日、晴天。
登校の道のりで、周囲の目線が集まる中心には私と信悟がいた。
…忘れていた。
信悟は人気がある。
女性と関係を築いている気配や、話ているところがほとんど無いこと。そして、なによりも俺としか登校していることがないことにより、一時期ホモ疑惑が浮上していた。
だが、そんな噂をはね除けるほどの性格と容姿を兼ね備えている。
…そう。今までは、男の俺が一緒だったから大丈夫だった。
けれど、現在隣にいるのは女性なのだ。
それがたとえ俺であっても女性なのだ。
昨日、学校で女子に言われた言葉を思い出す。
「ねぇ、やっぱり優希君って…
優希ちゃんなの?」
「へ?」
「いや今まで、ただ男装してただけなんじゃないかって、噂になってるよ?」
「え?……えぇぇぇ!?」
そう言われた…。
しかも、質の悪いことに今回のこの噂…何を隠そう、発生源が担任なのである。
一度職員室に行った俺は先生に事情を聞いたが…
「あ~あの噂か…確かに俺だ。」
「何してんですか!?」
「まぁ、落ち着け。いいか?
このまま今の噂が流れて、本人が認めたとしよう。
そうすればお前は、男→女ではなく、男装していた女→女になるわけだ。
こっちの方が色々と楽だと思わないか?」
「それは…確かに。
けど発生源が城川先生では、怪しいような…」
「サラッと失礼だな…。
まぁとりあえず、そこは心配するな。
色々と根回しをやっといたからな。」
…はぁ
怪しいと言っても、信頼出来ない先生ではないため、とりあえずは引き下がった。けれど、学校中にしかも信憑性があるように、こうも早く広めていたとは…。
一体どんな根回しをしたのか、気になるが今は目を背けることにした。
先生の言う通り、なるようになってくれたほうが悔しいが楽だ。
…これが、今に至る原因。
「・い…おい!」
「え?」
「大丈夫か?
すごいボーっとしてるみたいだけど…」
「あぁ、ごめん。大丈夫だよ。」
…俺の今の身長は約161cm
筋肉の質も変わっているらしく、あまり重い物が持てなくなっている。
信悟を見上げて、少し考えた後に思いきって聞いてみた。
「なぁ、信悟は好きな人っていないのか?」
「いるよ。」
「へぇー…、告白とかしないのか?
信悟なら大丈夫だと思うし。」
「ん~けど、相手は結構な訳ありでな…
今は無理だと思うんだよな。」
聞くとあっさりと答えてくれた。
そっか、好きな人…いるのか。
まぁ、そんなのは個人の考えだからな…私がどうだろうと、信悟が想う相手をどうこう言う資格はない。
けれど、なんだろう…どこか苦しい。
俯いていると、次は信悟が聞いてきた。
「優希は、いないのか?好きな人。」
「私は…いる。のかな?」
「なんで俺に聞くんだよ。」
「だって相手は男だし…そりゃ、医者には問題無いって言われたけどさ…
元々、男だっただけに色々と悩んじゃうよ。」
「ははは」っと渇いた笑い声を出した信悟は、何処か焦っているように見えた。
結局、その後は互いに何故か気まずくなり話すことなく学校に着いてしまった。
校門の前、一人の女子生徒が近づいてくるのが見える。
「優希ー!」
彼女の名前は岩崎 心結
小学校から仲が良い女友達。ちなみに私が、元々男であることを知っている。
「あ、おはよー。
ずっと校門で待ってたのか?」
「そうだよ~
あぁ、ようやく至福の時が来る…」
そう言って心結は私の背中と首に手を回し、抱き付こうと迫ってきた。
もちろん私は、心結の肩を手のひらで押し、ある程度の抵抗をしてみせるが、彼女はお構い無し。
「あ~、し・あ・わ・せ…」
そんなことを抱きつきながら呟く。
…今まで、誰かに抱きしめられたことがほとんど無かった私にとって、心結のこういったスキンシップは心地いい。
何よりも、温もりが癖になってしまうし、それに色々と柔らかい…。
そんな私達を見て信悟は言った。
「優希…今変な事考えてたろ?」
「いや?別に考えてないよ。」
「はぁ、女子はいいよな~
気軽にスキンシップがとれて。」
信悟の言葉に周囲の人達が一瞬、ピタリと止まった…気がした。
その日、再び信悟のホモ疑惑が上がったことは言うまでもない。