驚愕
…カーテンと窓の隙間から差し込む、朝の日の光で俺 中村 優希は目を覚ました。
ベッドから起き上がり、まだ眠くしょぼついた目を擦る。
擦る指先に髪の毛が触れ、ふと思った。
あれ?俺、こんなに髪長かったかな…
そう思いつつも立ち上がると、次は誤魔化しきれない違和感を感じた。
いつも見ている景色と、違う…。
部屋が変わったわけではない。視界に入る物の高さが、いつもより高いのだ。
俺は慌てて自室から出て、洗面所にある鏡を覗いてみる。すると…
……誰?
鏡の向こうには、見知らぬ女性の驚きを隠せない顔があった。
試しに右頬に手をあてる。鏡の女性も同じく右頬に手をあてる。
俺…?
「優希、遅刻するよー?」
「……」
姉である 彩希の声が耳に入らないほど、俺は驚いていた。
「優希?」
「……」
姉が洗面所に入り、俺を見る。
「姉ちゃん…俺…」
朝起きて初めて声を出したが、思った通り、それは女性のものだった。
「声高いけど、風邪でも引いたの?」
「え?あぁ、うん。風邪引いたみたいで…」
風邪を引いた。そういうことにしておけば暫くはばれない。
咄嗟に姉の言葉を利用し、振り返る。
この行動を俺は数秒後に、後悔するとは知らなかった。
「……」
振り返ると、姉は驚いた顔で、ついでに言えば声を失っていた。
「姉ちゃん?」
そう呼んで、すぐに気づいた。
鏡に映る俺の姿は、俺自身が遮り、姉には見えていない。
それに、身長に関しては、もともと163cm。
恐らく161cm程度にはなっているが、この程度の変化に気づけるのは、自分か、よほど俺を見ている人間かのどちらかである。
つまり。俺は、自ら自分に起きた異変を姉に見せる結果となっていた。
「…姉ちゃん。その、なんて言うか…俺って、女…じゃないよね?」
「……」
高校2年のある日の夏。俺の運命は、大きく変わってしまった。
その日、俺は学校を欠席し、病院に行くこととなった。もちろん、親と。
受付を通り、診察の順番が俺に来て、素直に診察室へと入る。
「えーっと…中村優希君?」
「はい。」
先生は、明らかに動揺していた。
「…そうだね。まず、精密検索をしてみようか。
結果は二日後に出るから、とりあえずは、そのままかな。」
…その後、俺は精密検索を終わらせ、次の場所へと向かった。
性別変更の申請である。
まぁ、何故こんな早い行動をとったかというと…
先程の診察で、レントゲンの結果を知らされたからである。
正直に言うと、腹部。それも内部に女性生殖器。つまり子宮があるべき場所にあったからだ。
医者はもちろん、俺や親も驚いていた。
そして、医者は言ったのだ。
「これは…遺伝子から来てるはずだから、戻らないんじゃないか?」
その言葉が、今に至る原因である。
…受付の視線が痛い。
性別変更の申請…つまりニューハーフの申請。
ずっと昔から、この容姿や身長、声色からいっそのこと、女なら良かったのにと思うことがあったが…今この瞬間、男でありたいと思った。
結局、そのまま申請を済まし俺は、晴れて?女性となったのである。
問題は明日。
学校への登校…来ないで欲しいと願えば、それらへの時間はすぐに近づくのであった。
ちなみに家族は皆、俺の異変に対してすぐに慣れたようで、姉と母に関しては
「私、妹が欲しかったの~!!」とか、「ずっと、女の子ならよかったのにって思ってたの!」などと言い出す始末。
病院やら申請やらを済ました後は、姉に女性の振る舞いや身だしなみを教えてもらった。
幸い歩く姿勢は、武道をやっていたので特に問題は無い。
…ただ二つ、これだけは越えたくない一線があったのだが、「女の子なんだからしっかりお風呂に入りなさい。」と一喝され、一つ越えてしまった。
鏡に映る自分を見て、興奮する変な自分がいたことは秘密である。
風呂から出ると、すぐに、もう一つの一線が登場。
下着だ。
…白にフリルのついた可愛らしい上下。
これを身につけろと言わんばかりに、姉は置いていったのである。
「……」
さすがに、全裸で家の中を歩くわけにはいかず、結局、その一線をも越えてしまった。
その後、姉に下着を見るために脱がされたのは言うまでもない。