さもなくば自爆する
勢いで書いて投稿。
一発書き(休憩なし)のためあまりのクオリティの低さに驚いてくださると嬉しいです。
本音はこのタイトルが書きたかっただけです。
あるところに、超が付くほどダメな考え方をしている男がいた。
彼は自らの汗水垂らして働く両親を見て、ずっとこう思っていた。
(俺は、絶対に働きたくない!)
と。
幸いなことに、彼は無駄に頭が良かった。
故に彼は私立の有名小学校を卒業し、有名中学、有名高校とエリートコースを突き進み、そして世界有数の名大学へと入学していった。
名大学へ来た彼はまず最も才能に溢れていそうな人物を調べ上げ、一人の人物に当たりをつけると、半ばストーカー紛いな事をしながらその人物のことを調べていった。
そんな毎日が三年続く。
三年後、彼が目を付けていた人物が企業を起こして大学を退学する時に、彼もほぼ同時期に大学を退学し、その人物のところへ詰め寄ってこう言った。
「これらの情報をバラまかれたくなかったら俺を養え」
彼は三年で集めたその人物に対する綿密な、それはもう綿密過ぎるほどの個人情報を叩きつけた。
普通に犯罪である。
だが、やはり無駄に彼は頭が良かった。
その人物が自身の脅迫に屈するであろう性格であると知っていおり、また、状況なども全て計画を立てて脅したのだ。
そして、その人物は幸か不幸か、女性であった。
この瞬間から、彼のヒモ生活が幕を開ける。
毎日毎日、起きて寝て食ってだけを繰り返し続ける彼。
しかし要求された部屋は六畳間のアパートで食事はカップ麺等だ。
彼に寄生されている彼女はその無駄に質素な生活に驚いた。
養え、と言いつつ何をさせられるかわからない、と身構えていた彼女は安心し、その安心感からこのダメ男を少し養うくらいなら、いいかな、と思うようにまでなっていた。
この生活が何年も続けられる。
そんなある日、彼の住んでいる地域で大規模な地震が起きた。
彼の住んでいるアパートは崩壊し、彼はあっけなく死んでしまう。
彼を養っていた彼女は彼の葬式で泣いた。
こうして、働きたくない、という最低な信念を貫いた彼、紺衣凛はこの世を去った。
凛は今、不思議な場所にいた。
そこは雲が浮いており、空は全体的に黄色かった。
ふわふわと体の感覚は曖昧なくせに意識だけはハッキリしている。
そんな状態で、凛はこの穏やかな場所を一瞬で気に入り、ずっとここで寝ていたいと願った。
その時、
「ふーむ、それはちと厳しい願いじゃのう」
と言いながら、一人の老人が雲に乗って浮いていた。
まず思ったのが、髭が長い、という感想であり、次に思ったのが、毛深い、ということだった。
「いや、確かに、わし、髭長いし髪ふさふさじゃよ? だって神じゃもの」
空気が凍った。
いや、そう錯覚するほどの心地良いと感じていたこの場所が薄ら寒くなり、凛は無意識に身体を抱きしめて震えようとして、自身の身体が無いことに気付いた。
「や、そんなにならんでも……。あぁ、お前さんの身体なら、あれじゃぞ? 無いぞ? だって、ほら、地震で潰れちゃったじゃろう?」
そう言われて、あぁ、と凛は思い出す。
そういえば自分は地震でアパートが崩れて死んだのだと。
なら、ここはどこだろう、と推測し、考えるまでもなく目の前の存在が神的な何かだろうからあの世だろうという結論を出した。
「ほほほ。そのとおり、わしは神じゃ。正式には端末っぽい何かじゃがな」
そう言う神っぽい何かに、凛は疑問を浮かべる。
何で自分はここに居るのか、と。
「あぁ、そうじゃったそうじゃった。のぅ、お前さん、異世界に行ってみんか?」
その言葉に彼は即刻こう返した。
「ならずっとここに居させてください」
「ほ!?」
神っぽいなにかが驚愕しているが、彼は自分が何ら不思議なことを言った記憶はない。
何故なら「異世界に行かないか」と聞かれて此処という異世界に居させてくれ、と頼んだだけだからだ。
強引すぎる言葉遊びである。
「やー、すまんのぅ。それはちと勘弁じゃ。そうじゃなぁ、お前さん、他にどこか希望はあるかのぅ?」
いや、そもそも何故行くことが決定しているのか。
「あ、それ? 実はなー、わし、暇じゃったんじゃよ。ずーーーーーーっと此処に居続けての? なーーーーーーんにも無いこの場所でぼけーーーーーーっと居るのってもの凄く暇なんじゃ。普通狂うぞ? だけどわし、端末とはいえ神じゃし? 狂うなんてこと無縁なんじゃよ。だからの? 何とか暇を潰せることはないかと探してみると、なんと! 人間がここに迷い込んでおるではないか。ちょうど良かったのでほれ、お前さんを異なる世界にとばしてそれを眺めてようかと思っての」
なるほど、と凛は納得した。
確かに此処で百年程ならのんびりと耐えられるだろう。
しかし、千年、一万年、となればさすがに無理だ。
神っぽい何かの言い分は理解した。
「ほ? 理解してくれたか……。よし、では、異世界行きは決定じゃな。しかし、ただで行っても面白くなりそうにない。うーむ。わし、此処に来てちょうど三那由他年目じゃし、3つ、好きな力を与えてやろう。ただし、その世界に直接働きかける力は無しじゃ」
どうやら神っぽいのの中では異世界行きが決定されてしまったらしい。
凛はもうどうしようもないな、と諦めて、もらう力について考えてみた。
「質問ですが、異世界って奴隷制度が導入されてますか?」
「ん? うむ。そうじゃな。されておる方が良いのか? なら、奴隷がいる世界にとばすとしよう」
よし、これで計画の第一段階が達成された。
凛は内心でガッツポーズをして、質問を続けた。
「質問二つ目です。直接働きかける力とは?」
「そうじゃのー、なんというか、原住生物への精神汚染などじゃなぁ。お前さんが自分で精神を破壊するのは良いが、精神を破壊するような力を直接与えたりは出来ん。反則じゃ」
凛は内心、何にだ、とツッコミを入れながら考える。
つまり、与えられる力で原住民の精神を操ることはいけないらしい。
そして、凛は計画を立て始めた
「一つ目は、『自分の意思がどんなものの影響も受けない力』で」
「ほぅほぅ」
「二つ目が『念じた時に俺に全ての存在を消し飛ばす程の自爆をさせる力』」
「ほ!? なんじゃそれは?」
「ようは俺が念じれば自爆できるようにしてください」
「むむ、お前さんがすぐに死んではわし、つまらんのじゃが」
「なら、三回だけ自分が無傷で自爆できるようにしてください。あ、爆発範囲は意思で決めれるように」
「別に回数制限など……」
「そんな使う気ありませんから。それに、俺の人生なんてどうせつまらないですよ?」
「むぅ。して、三つ目はなんじゃ? やはり不老不死か?」
「あ、そういや三つあったっけ。別にそれほど生への執着がないからこそあの力にしたから、えーーと……じゃあ、『完成された美を持つ容姿』をください」
「ふうむ、どれも微妙じゃのう。良いのそんなもので」
凛は何も問題は無いと頷く。
自分には絶対的な信念があるのだ。
「まぁ、本人が良いのならば、良いが。ふぅむ。完成された美? むぅ。よし! では、とばすぞい」
「はい」
凛は何かに引っ張られるような感覚を覚えるとともに信念を思い出す。
「俺は、絶対に、働かない」
そうして、凛の新たな生活が始まる。
気が付くと凛は森の中に突っ立っていた。
キョロキョロと辺りを見渡し、小川を発見するとそこに近寄る。
完成された美を持つ容姿、とやらを見るためだった。
凛は僅かな違和感とともに、水面を覗き込む。
絶世、と言えるほどの美女が映っていた。
瞳は黒く長い髪も黒、肌は透き通るように白い。
そうした条件をふまえて、最高の美女、と言える容姿だった。
凛はその自分のあまりの美しさに一瞬自分であることを忘れ、水面に映る自身へと手を伸ばした。
細く長い指の手が水に濡れる。
と、波立つ川底になにか光るものが見えたので、拾い上げてみる。
コインのようだった。
とりあえず、持っておくことにする。
そして、凛は自分の胸元を見る。
胸があった。
カップはおよそEといったところか。
正直、凛は女になるなど全く望んでいなかったが、あの神っぽいのの基準で言えば『完成された美』とは女なのだろう。
だが、些細な問題ではない。
もともと凛は性欲が無いに等しかった。
何を見ても時間の無駄としか思えず、疲れることをしたくない。
なぜ快楽を求めるために疲れる必要があるのか。
そんな考えを持っているため、男から女になろうと、さして気にするほどではない。
いや、自分の計画からすると、むしろプラスになるのではないかと凛は思った。
しばらく色々と考え、凛は森を出るために歩き始めた。
女の足ではもの凄く歩きにくかったが、特にそれ以外の問題もなく、街の入口のような場所に出る。
「なるほど……中世ヨーロッパ、ファンタジーの定番とも言える世界か」
入口では兵士が立っている。
槍を持っているあたり、さすが中世だ、と思いながら、眺めていると、兵士がこちらの隠れている茂みに手を向け、二、三言呟いた。
すると、バレーボール大の水球が現れこちらに飛んで来る。
慌てて茂みから飛び出し、自身が無害であることをアピールする。
ファンタジーの定番世界だと思っていると、普通にファンタジー世界だったようだ。
「魔法、か……。まぁ、俺の計画には関係ないけど」
そう言いつつ、凛はゆっくりと近づいてきた兵士を見る。
「……なぜ隠れていた?」
「別に隠れていたわけじゃないですよ? ただ、貴方を眺めていただけですわ」
女言葉を想像して喋っていく。
普通ならこの凛の容姿と台詞の合体技でイチコロだったのだが、この兵士は鼻を鳴らすだけだった。
「ふん。あいにく、オレは熟女に興味はない。街に入りたいのならさっさと税を払え」
どうやら真性の紳士だったようだ。
ちなみに、凛の容姿はどう見ても十代後半か、高く見積もって二十歳程なので、凛を熟女と言った兵士の紳士レベルがわかる。
「ったく。俺を篭絡したくば、脂のノった六歳の美女を連れてくるべきだったな」
どう考えても末期だった。
「あーー、税、税……」
凛は少し考えて、握りしめていた金色のコインを渡す。
「ちっ! 金貨なんて出しやがって。だから熟女は嫌いなんだ」
兵士はブツブツ呟きながら凛へジャラジャラと銀色のコイン何十枚か渡した。
凛は持ちきれなくなり、手からこぼしてしまう。
面倒になったので、凛は「全て差し上げます」と言って街へ入っていった。
街へ入ると、そこはいつか教科書で見た中世の街並みだった。
奥を見れば城があり、その立派さにしばし呆けてから凛は早速計画を開始した。
まず、凛は街に入ってから感じる下卑た視線を辿り、慎重に人を見極める。
その視線の数は多く、困難を極めた。
何故なら凛は有り得ないほどの美人であり、また、ワンピース一枚という薄着だったからだ。
凛は何度か確認して、自ら裏路地へ入っていく。
人通りの少ない場所へ自ら向かって行く凛を、そういう輩は追いかけていった。
凛が裏路地の少し開けた場所に辿り着くと、数人の男たちが追ってきた。
凛は彼らに無表情で問いかけた。
「なんですか、貴方たちは」
「あぁ? さぁ、なんだろうなぁ? ひっひっ。こんな上玉は久しぶりだァ」
凛は次の言葉を真剣に聞き分ける。
「今夜はいい酒が飲めるぜェ」
「ビンゴ」
凛は小さく笑ってそう呟くと、必死で抵抗する演技をしながら彼らに捕まったのだった。
凛を捕まえたのは人身売買を生業としたゴロツキだった。
彼らは性欲と金銭欲の間でしばし葛藤し、最終的には凛は奴隷に落とされた。
奴隷の証の首輪を付けられ、牢に入れられる。
凛は内心で笑いが止まらなかった。
全て自分の計画通りだったからだ。
そして、この時から、凛の奴隷という名の寄生生活が始まる。
後に奴隷商から頼むから平民に戻ってくれと懇願されたという『奴隷女帝』伝説の幕開けだった。
凛は牢に入れられてからもそれなりな食事が用意され、そのことにあまり不満はなかった。
しかし、凛はどうしても枕がない寝床を許せなかった。
なので、凛は声を上げる。
「おーーい! おい、おーい!」
「なんだぁ? うるせーなぁ。なんだよ嬢ちゃん。早くご主人様に……」
「枕をよこせ。低反発なんて高尚なものはなくてもいい。だが、せめて綿が入ったやつがいい」
凛はもはや女言葉を使う気などサラサラなかった。
「はぁ!? テメェ、女、立場わかってんのかよ? お前は奴隷だ。つまり、俺らの所有物なワケ。だから……」
「御託はいいから枕出せ」
「ちっ。『黙れ』」
凛のあまりに不遜な物言いに牢番は『命令』した。
奴隷の証である首輪には命令への服従効果が発揮される。
この服従効果は無条件で命令を実行させるのだ。
しかし、凛は全く変わらない態度で要求を続ける。
「枕を寄越せ。さもなくば自爆する。消し飛ばして欲しいのか?」
「あぁ!!?」
とうとう門番の切れやすい堪忍袋の緒が切れた。
「テメェ! ちょっと品質保証のために良く扱ってやれば、いい気になりやがってぇえ!」
その声に何人かの奴隷商の仲間が集まってくる。
凛が嬲られる姿を見て楽しむためだ。
「いいのか? 自爆するぞ?」
凛の飄々としたもの言いに牢番の男は
「やってみろや!!」
と言いながら凛のいる牢の中へ入っていった。
「いいだろう」
凛がそう答えると、
カッッッッ!!!!!!!!!!!
凛の牢の中は光に包まれた。
凄まじい衝撃が起き、牢の鉄格子がビリビリと震える。
が、光も衝撃も何もかもが牢の中に留まっているのだ。
奴隷商たちは驚きのあまり声が出せない。
やがて、光が収まると、変わらぬ姿で凛が
「枕を寄越せ。さもなくば自爆する」
と繰り返した。
牢の中には門番の姿はなかった。
凛が考えた計画は、あえて奴隷となり自分の所有者に養ってもらおうというものだった。
奴隷とは人間扱いされないことが多く、良くてペット扱いだ。
しかし、奴隷は扱いは酷いが、完全な庇護下へ入ることができる。
それはつまり、養ってもらえるということだ。
そう考えればあとはどう命令を聞かないようにすればいいのかを考え、脅せる武力も得るだけだった。
これで一生何もせずに養ってもらえる。
全て、凛の思惑通りに進んだ。
更に言えば、凛は知らないが、奴隷にするには一応それなりの名目が必要だった。
今回のように、一般人を拐って奴隷に落とすことは違法行為であり、奴隷商たちは公することができないのだ。
結果として、
「枕の綿が少ない! もっと入れたものが欲しい! さもなくば自爆するぞ!」
「ぐ、あーー! お前奴隷だろ!? なんで俺らに……」
「いいのか? 自爆しても? お前ら諸共消し飛ぶぞ?」
「が、ぐぅ……」
奴隷商たちは凛に寄生されるのだった。
「俺を捨てて逃げようなんて思うなよ? 俺の最大自爆範囲は世界全てだ。逃げれば国ごと消し飛ばしてやる」
「あ、悪魔め!!」
こうして、奴隷商たちは悪夢の日々が続いていく。
奴隷商たちの朝は早い。
何故なら凛の朝食を寄越せという声で起こされるからだ。
「おい。今日、お前の番だろ?」
「はぁ? お前だろうが」
そして、その声を聞いてから彼らの凛という爆弾(本当に爆発する)の世話の擦り付け合いが始まるのだ。
「お前、最初はおれがアイツの専属世話役になるって言ってただろうが!」
「言ってませんー! それを言うならお前だろうが! 牢に入れてからオレがアイツを買おうかな、とかボヤいてただろうがよ!」
「言ってみただけだろーが馬鹿! 商品に手をつけるなんて有り得ないだろ。冗談もわからねーのかよ」
「いーや! あの時お前は本気だった。必死で奴隷の売上の計算してたし、闘技場ギャンブルの大穴探してただろう?」
だんだんとヒートアップしていく彼ら二人の話に、凛へ朝食を配給してきた奴隷商の元締めが加わってきた。
「おい、その話、本当か?」
「お、お頭? いえ、そんな……」
「お頭。本当です。コイツはアイツが欲しいって言ってました」
「ちょ!? おまぇ……」
元締めの問いに言い合っていた一人が濁し、もう一人がそいつを売った。
「よし。ならやる。すぐやる。今すぐやる」
その言葉に元締めはすぐに反応し、彼の手を握る。
「え」
「大丈夫だ。お前は今までよく働いてくれた。その礼をやるだけさ。あぁ、安心しろ? 本来なら金貨500枚超え確実の奴隷だったんだが、この商売を始めた時からの付き合いが長いお前だ。特別にお前の全財産でいい」
元締めは凛を買うと発言した(ことがある)彼に向けて肩を叩きながら笑いかけ、そう言った。
そして彼は即座に理解した。
おれを切る気だこの人、と。
「い、いえ! いえいえ! そんな! おれがあんな上玉なんて……。それに、お頭は一度も商品に手をつけないじゃないですか。やっぱり一番の商品はお頭が持っているべきだと思うんです」
その瞬間、元締めも理解した。
こいつ、オレを見捨ててこの仕事を辞める気だ、と。
「馬鹿言うんじゃねぇよ。こんなに付いて来てくれたんだ。オレはお前と上下関係はないとも思っている。そして、対等だからこそ、言ってやるんだ。お前に、や・る、とな」
「いえいえそんな、おれごときがお頭と対等なんて……」
「いやいや」
「いえいえ」
二人の擦り付け合いを見ていた一人は気配を殺して逃げ出した。
隠れ家から逃げた彼はもう戻る気はなかった。
そして、思うのだ。
「真面目に生きよう」
そして彼は裏から手を洗うことを決意し、冒険者ギルド(職業斡旋所)へ向かったのだった。
奴隷になって1年
凛の生活は変わっていた。
寄生先を大貴族である公爵に変えたのだ。
眠っている隙(もはや奴隷商たちは凛を襲う気にはどうあってもなれない)に奴隷商たちが裏市場へ凛を売り出し、目をつけられたのだ。
そこで、凛は公爵の趣味によって開かれたパーティーで大々的に犯されかけたが、やはりいつも通りにこう言った。
「金があるなら低反発枕を作れ。さもなくば自爆する」
そして、凛を買ったことを公爵は後悔した。
パーティー会場の窓からとてつもない光が漏れた時、凛を売った奴隷商たちは公爵に合唱して祝杯のために酒場へ向かった。
凛のわがままに、自爆を見せられた公爵は逆らえず、低反発枕の開発と生産に乗り出し、途中から、「あれ、もしかして、これ、いい儲けになるんじゃねーの?」と思い始めた公爵は本気で低反発枕を作り上げた。
何度も諦めかけた。
凛の罵声(「これじゃない」「完成系の話聞いてた?」「まだか? 遅いぞ」「低脳」「デブ」「ド低脳」「グズ」「無能」)に唇から血が出る程に耐え、凛のわがまま(「ハム食べたい」「暑い」「寒い」「風呂入りたい」「果物食べたい」「石鹸使わせろ」「甘い物食べたい」)に汗水垂らして応え続けた。
公爵としてのプライドが高く、今まで評判の良くなかった彼は凛に寄生されることによって今まで自分がどんなに好き勝手やってきたかを思い知り、自身を見つめ直して改善していった。
その結果、彼は痩せ、評判が上がり、低反発枕という王族の使う枕を完成させた。
しかし、何故凛は捨てられなかったのか。
それは凛の容姿があまりにも優れていたことと、誰も凛を欲しがらないこと、自爆、という三つの理由からだった。
凛の容姿は「美」ということにかけて完成品とも言え、彼女以上に美しい者は存在しないのではないか、と囁かれるほどのものだったのだ。
そのため、絵や骨董品などのように、芸術品として扱うのならば相当自慢になるのだ。
だが、それは一番軽い理由である。
重要なのは二つ目。
凛を誰も欲しがらないこと。
公爵は何度も凛を奴隷商に返却しようとしたが、彼らはいつの間にか消えていた。
ならば、裏市場で、と思ったのだが、『爆弾女神降臨事件』によって凛の情報が流れ、拒否された。
貴族間でなら! と思い、交渉しようにも既に凛という『奴隷』の面倒くささが噂されており、誰ももらってくれなかった。
最後の理由によって、捨てようものなら世界消滅の危機だ。
公爵は過去へ戻って自分に腹パンからのアッパーカット、回し蹴りのコンボを入れたくなった。
半ば本気で過去へ戻る魔法も研究したりした。
無駄に終わったが。
公爵は今、枕の売上げで、別に養うぐらいいいかな、と思っている。
奇しくもこの思いは凛の前世での宿主だった彼女と同じ気持ちだった。
二人がもし出逢えば美味い酒が飲めるに違いない。
こうして、見事寄生に成功した凛は一切働くこともなく、ぐーたらしては今日もこの台詞を言っている。
「さもなくば自爆する」
『奴隷女帝』『完成された美の女神』『怠惰の化身』『最も美しく最も強力な爆弾』
幾つもの呼び名で凛は異世界にて歴史に名を刻みつけたのだった。
ちなみに、神は凛の生き様に終始爆笑していた。
公爵の後、本当は噂を聞きつけた龍が凛を攫ったりとかを考えていたのですが、書いてる途中でトイレに行きたくなって早く終わらせるために辞めました。
すみません。