騒動8 メイド根性!!
またお会い出来ました!!嬉しゅうございます!!
メイドのミタリーです。
今日は皆様に喜んでいただきたく――体をはって頑張りますので。
どうか私の活躍――あまさずご覧下さいませっ!!
おはようーございまーすっ!!みなさーまぁ!!
いまーわたーくしー……きゃーっ!!
失礼いたし―――ましたぁ―――っ!!
ちょーっと、城のそと――えーとぉー…城の壁ともうし……し…死ぬかとおもいました……城の壁ぇに…もう少しで…リデルさぁまぁのぉ――テラスのぉ――もうちょぃぃぃっいいっ!!
「何をしとるかぁぁっ!!」
見つかってしまいましたぁぁっ。
◆◆◆
〈リデルサイド〉
「で……朝に少し変化を加えようと、隣の部屋のテラスから、俺の部屋のテラスに壁伝いに移り、俺たちを起こそうと……?」
「はいっ」
この笑顔――腹立つ。
メイドのミタリー――心底この女が恐ろしい――「覗き根性」もここまで来ると呆れとか感動とか通り越し――殺意も失せる。
どうせ部屋に張り巡らせた「遮音」の魔導術に気がつかず、音が聞こえないので、強硬手段に出たんだろうが……不法侵入とかいう言葉はこの女の辞書には皆無なのだろうな。
それに外であれだけ大騒ぎすれば、馬鹿でも気がつくだろうに。
こいつが――「一体誰と会話していたのか」――詮索する気も起きないが――。
マリーンは父上にこれまでのことを報告し――1週間の謹慎処分となったが――俺としてはそうとう甘いとしか感じない処分だが。
この女――あのまま窓を開けた勢いで、下まで落とせば良かったか?
でも絶対生きてるよな――この女なら。
世界が滅んでも生きていそうだし――。
ちなみにここは3階だ。
◆◆◆
改めましておはようございます皆様っ。メイドのミタリーでございます。
先ほどは大変失礼申し上げました。
隣の部屋のテラスから、リデル様の部屋のテラスに移ろうとしていたもので――。
悲鳴を上げたものですから、それは気がつかれてしまいましたけど。
それでも私。お部屋への侵入、成功ですわっ!!
さぁ、ここから、メイドのミタリーの――お部屋チェックまいりましょうっ!!
うふふ、楽しみですわぁー!!
◆◆◆
「用件は済んだだろうミタリー。さぁ、俺はこれから忙しい。
食事はここで済ませる。昨日同様、2人分頼む」
ユアナの着替えも済んだあとで本当に良かった――今は俺のベッドの上で俺とミタリーの会話を眺めている。
と、俺がミタリーの襟首を掴んで部屋から追い出そうとしたときだ。
「ちょ――――っとお待ちくださいませぇっ!!リデル皇子ぃぃぃっ!!」
「……なんだ?」
お前はカブキ役者か――。オーバーなアクションで叫びやがって。
「お茶の用意がまだでしたっ!!」
「食事のときでいい」
「リデルぅ。ボク、喉渇いたぁーっ」
タイミングよくユアナが言ってくる。
ミタリーが可哀想になったのか?まったく――。
「扉の前に用意がございますのでっ!!しばしのお持ちをっ!!」
と、ミタリーは扉を開け、用意していたワゴンに乗ったお茶のセットを運び込む。
完全な確信犯だな――本当にどうにか出来ないか――このメイド。
「ようやくリデル皇子お気に入りのダージリンの茶葉が手に入りまして。それでちょっと驚かせてみたかったのですよ」
「……余計なことはせんでいい」
嘘つきやがって――部屋を覗くためだろうが。
「へぇ…リデルのお気に入りの紅茶なんだ」
「まぁ…いつも飲んでるってだけだがな」
◆◆◆
もうお2人ラブラブイチャイチャですね。ヤキモチ焼いてしまいます。
と――お部屋のチェック、チェック――あら。あまり変わりありませんわねぇ。
「…何、見てる?」
「はい。ユアナ様もいらっしゃるのでしたら、このお部屋では手狭かと?」
「…十分な広さだろう」
恥ずかしがっちゃって、もう。
早く2人きりになりたいものだから。
◆◆◆
「…十分な広さだろう」
早く出てけ、この女っ。余計イライラしてくる――。
◆◆◆
「ユアナ様。今度よろしければ、ハーブティなどいかがでしょう?
体に良い、楽しいお味のお茶の用意がたくさんございますよ」
「ほんとっ!?飲んでみたいなっ!!」
「はいっ。今度お持ちしますね」
こうやって――少しづつ、少しづつ。ユアナ様とも仲良しになって――皆様への情報ゲェーットいたしますね――楽しみです。
◆◆◆
ようやく嵐が去った――何だこの疲労感は。朝からどっと疲れた――。
「面白い人だね。ミタリーさん」
「覗き趣味を生きがいとしてる…とんでもなく迷惑なメイドだ。
メイド仲間たちにも要注意人物として危険視されているらしい。
確かに…朝からそのために隣の部屋から、この部屋のテラスに移るなんて…正気の沙汰じゃないだろう……もはや病気の域だな」
「うん…それはすごいよね」
ユアナもミタリーの行動の強引さに辟易していたからな。
「これだけは言っておく。あのメイドに情けは無用だ。
こちらの足元がすくわれるだけじゃない。骨までしゃぶられる」
「どんだけ凶暴なメイドさんなんだよ、ミタリーさんって……」
「凶暴なんじゃない…ある意味「凶悪」だ」
「なんか、この国ってさ。面白い人多いね……」
ミタリーやマリーンという、「変態」を「特化」した連中しか会えていないからなユアナは――。
「あの2人は――「別次元の産物」と考えてくれ。あとは普通の連中だ」
「別次元ね…ボクはいきなりすごいもの見たわけだ」
「そういうことだ」
◆◆◆
うふふふ。情報を色々ゲットいたしました。
少しは皆様にも伝わりましたでしょうか?少なくとも「朝のまったりした恋人の時間」なんて雰囲気は伝わったのではないでしょうか――。
さぁ、この調子でガンガン行きましょうっ!!と――あれは――近衛騎士の方ではありませんか。
私の隣を挨拶もなしに駆け抜ける――これは事件の匂いっ!!
追いかけましょうっ!!
◆◆◆
「皇子っ!!」
これはアキュリスの声か?
近衛騎士団の1人――俺の護衛も務めるアキュリスの切羽詰った声に異変を感じ、ユアナとの会話を打ち切って扉を開けた。
「どうしたっ!?」
「城の南門近くに…数体の「デナモス」らしき化け物が……」
「…またかっ!!」
「『石使い(メイスン)』たちが対応していますが…皇子のお力を借りなければ「浄化」は無理かと…」
「今行くっ!!」
息の荒いアキュリスの言葉を遮り、俺は短く答え部屋の中に――と、ユアナが俺の剣と「ビャッコ」を持って後ろに立っていた。
「……ユアナ?」
「ボクも行くよ…大丈夫。ボク強いから」
「駄目だっ!!遊びじゃないっ!!」
「行くよ…だって、ボク「勇者」なんでしょ?」
まっすぐな瞳が俺に問いかける。
そのために自分はここに呼ばれたんじゃないか――と。
それは違うという思いを伝えようとして――。
「もしもそのお力があるのなら…是非お借りしたい、勇者様っ!!」
「アキュリスっ!!」
追い詰められているのか、ユアナの言葉に反応し、アキュリスが是非ともという期待の表情でユアナを見ていた。
「あるよっ!!」
ちっと舌打ちをする。時間は――ない。
「行くぞ、ユアナっ」
「うんっ!!」
俺とユアナはアキュリスを伴い、部屋から飛び出した――。
◆◆◆
一大事ですぅ――これは一大事っ!!
とうとう「勇者ユアナ」出動ですっ!!楽しみですっ!!
南門まで追いかけますので――皆様しばしお待ちくださりませっ!!