騒動3 可愛い勇者!?〈リデル目線〉
一大事でございます。こんなにお待たせするとは!!
誠に申し訳ございません!!
いますぐ第3話はじめましていただきます!!
いつか――しめないと――あの野郎ぉ(作者)。ゴホン。こちらのことでございます。
ではどうぞ。
あああ――なんということ。
はっ!!私、メイドのミタリーでございます――あぁ。本当にどうしたらよいのでしょう――。
皇子が――リデル様がとうとう勇者ユアナ様と未知との遭遇をなされたという一大事。
それなのに――あぁ、それなのに。
それが見られません!!あああ。許されることではありませんっ!!
それに、リデル様の――お好きな紅茶の茶葉を切らしているとは――メイド人生始まって以来の一大事――許されることではないのです!!
皆様――あぁ、皆様!!もう少しだけ――もう少しだけお時間をくださいませぇっ!!
◆◆◆
〈リデルサイド〉
疲れる――どうしてあのメイドは――ミタリーはここまで出没するんだ。
毎朝、毎朝。どんな時間に起きようとも、必ず俺の部屋の扉のすぐ外にいる。
毎日、毎日――あの女の顔を真っ先に拝まねばならないという――気が滅入るってもんじゃない。
いやその前に――あれだけ「勇者召喚」などという馬鹿な真似はするなとマリーンに厳しく言っていたはずなのに――あのもうろくジジィ。
それにこんな地下に、怪しいオカルト部屋を作りやがって。
俺が皇帝になったら、真っ先に首にしてやるぞ――。
◆◆◆
「マリーンっ。あれほど「勇者召喚」などという眉唾…マリーン。その子供は誰だ?」
オカルト部屋に入った俺の開口一番。
怪しい魔法陣の更に奥――祭壇らしき台にあぐらをかいた小僧が1人。
まさかこれが「勇者」とか言うんじゃあるまいな――。
「リデル皇子、この方が「勇者ユアナ」様でございます」
「はぁ?」
俺は真顔でそう言ってのけるこのジジィが心底恐ろしくなった。
自分の妄想を実現しようと、どこぞのガキを拉致ってきやがったのか?!
「あんた誰?!」
「無礼でございます、ユアナ様。この方はこのアスィミ皇国第二皇子、リデル様でございます」
ふてぶてしく――というより、完全に怒り心頭のそのガキは――やけに声が高いというか――女声というか。ってか胸大きくないか?まさか本当に女――か?
俺が呆然と見入っていると、そのガキ――ユアナとかいう少女――なんだろう。
祭壇から降り、ツカツカを俺の方に歩いてきた。
あ――マジ、大きい胸だわ。間違いなく女の子だな。と、しょうもない理解の仕方をする自分がある意味情けない。
「このジジィなんとかしてよ。ボクは自分の世界でサッカーの試合中に、このジジィにここに誘拐されて来たんだ」
自分の世界――本当に「異世界」から来たというのか?しかも着ている服はこの世界のどの国の文化にも当てはならないデザインだし。
サッカー?試合中というからには何らかの「競技」なのだろうか?
それに誘拐――か。確かにな。これは立派な「誘拐」になるのだろうな。
ってことは――このジジィ。「勇者召喚」に成功したのか。マジで?!
でも――この少女が「勇者」って――無理ないかぁ?まぁ――違うだろうな。このジジィのやったことだし。と言うことは、俺が青筋立てて震えているジジィに言えることはただ一つ。
「それは大変申し訳ないことをした。
おい、マリーン。今すぐユアナ殿を元の世界に帰して差し上げろ」
俺の答えに、ユアナが「おっ!」と言い、マリーンが「はっ?」と2人同時に異なるリアクションで対応していた。
「あんた話がわかるじゃん」
「それは無理でございます」
この異なるセリフもほぼ同時。
「どうして無理なんだ?」
まずマリーンへの返答。
「召喚の術でさえ、準備や術の最適な日程の施行に2ヶ月もかかっているのでございます。
それを簡単に戻せなどと……」
「呼んだのはお前だ。戻せないとは言わせない。
お前は今俺のことを、この国の第二皇子と紹介したな。だったらその第二皇子からの命令だ。今すぐ戻して差し上げろ」
「そ…そんな殺生なっ!!」
今までの強気の姿勢はどうしたっ!!
マントの裾を口に加え、しなりを作り、瞳を潤ませるジジィ。気持ち悪いわっ!!
「やれっ!!」
「む…無理です!!」
「やれっ!!!」
いい加減、このくそジジィに俺もキレてきた。
「そ…そんなぁ……」
「しなるなっ!!気持ち悪いっ!!」
こんな俺とジジィのやりとりを見ながら、ユアナはため息をついている。
「リデルさん…だっけ?この爺さん頭弱いんじゃ?」
「なんてことをっ!!」
ジジィ――否。マリーンはユアナには強気の姿勢を崩さない。
「あぁ。妄想グセのある危ない爺さんだ。だが意外と魔導術は本物だったりする。
君には多大の迷惑をかけた…」
「本当にすんごい迷惑だ……でもこの爺さんで大丈夫なの?」
ユアナの意見には一理ある。
確かにマリーンに戻せとは、不安が大量に残りまくりだ。
「他にいないところが悲しい現実だ。
このジジィ…マリーンにはなんとかさせる。
2~3日待っては貰えないだろうか?その「サッカー」とかいう競技のタイミングで上手く戻せるよう昼夜問わず調べさせるから。
ここでこのジジィ…マリーンを問い詰めてても埒があかん」
「まぁ…ボクも見ていてそう思ったけど…あんたがボクのこと面倒みてくれるなら、考えてもいいよ」
「…当然だ。俺の監督不行届でもあるからな」
とりあえず、話がそんな方向で纏まりかけると、マリーンが急に安堵のため息をついた。
「マリーンっ!!お前はすぐにユアナ殿を戻す術を探せっ!!今すぐにだっ!!それが見つかるまで、眠れると思うなっ!!早く行けっ!!!」
「えっ、そんな…今、ご自分の責任と……」
こいつ――このジジィ――本気の殺意が俺の心を漆黒に蝕んでいく。
「今すぐ…俺の剣を血で真紅に染めたいらしいな…貴様」
「い…いいえ。私はお茶目な性格なので……言ってみただけかなぁ…的な?」
「今すぐ調べやがれ……」
「御意っ!!」
マリーンが脱兎のごとく部屋を飛び出していく。マジで嫌だ――俺。
と――言っても仕方がない。このユアナをどうにかしないといけないし――。
「本当に申し訳なかったユアナ。俺が責任をもって面倒をみる。今から俺の客人となるが…よろしいか?」
胸はあるが――ゴホンっ。まだ10代はじめの年頃だろう。
「いいよ。じゃ、ちゃんと自己紹介するね。
ボクは千歳優愛菜。ユアナって呼んでよ。年は16歳…」
「はっ?16歳っ!?
12~3歳ぐらいかと思ってた…背、小さいな、君」
「失礼な奴っ!!せっかくいい感じの皇子様って思ってたのにさっ!!」
「……すまない。そんなに怒るな、ユアナ」
頬を膨らませ、俺を睨んでいるユアナ――あれ――意外と可愛いのか?
「なんだよぉ。君もボクの胸を見てるんじゃないだろうな?さっきのもうろく爺さんみたく」
「そんなことあるか。特にあのジジィと一緒にするな」
まぁ――少しは見てたけど。
「で…君の部屋教えてよ」
いきなり俺の部屋?随分大胆というか――なんというか。まっ、とりあえず落ち着ける場所は必要だろうな。
「そうだな…と、その前に……」
俺は羽織っている藍色のマントをユアナの体に掛ける。
もう9月 (セプテンプリオス)も半ばだ。ユアナの服装では、こんな地下室じゃひんやりと寒さを感じるだろうからな。
「……ありがと」
「こっちに来ていきなり風邪をひかせては、戻ってからサッカーとかの競技で差しつかえが出るだろう。 かっこはともかく羽織っていなさい」
ユアナの頬が少し赤くなった――のか?可愛いところがあるじゃないか。
「では俺の部屋で茶でも振舞おう。ユアナの口に合えばいいけどな」
「…うん。ありがと」
意外と素直で可愛いな。その方がこちらもありがたい――。
とは言うものの。突然の可愛い珍客を前に、マリーンが仕出かしたこの出来事の後始末を、俺は必死に考えていた――。