騒動29 これが最後の「騒動」でございます!!
連続でございます、皆様。メイドのマリーです。
なんかこうも連続だと――少々疲れが――でも、頑張りますのでっ。
「さて…そろそろ出てきてもらってもいいかな」
突然なのですが、そう言ってシュウ様が立ち上がりました。
「その植え込みにいる人。あんたなんだろ…リデル殿下の命狙ってんの。
殺気が垂れ流しになってるぜ」
シュウ様が庭の一角にある――特に薔薇が多く茂る場所に目を向けられました。
まさか――こんな近くに――リデル皇子様たちのお命を狙っている輩がいるなんて。
「俺でも気がつかなかったぞ……」
リデル皇子様も剣術は――とても優れた腕をお持ちの方。
当然ユアナ様は「ビャッコ」に召喚されるほどの腕前の持ち主。
その方たちでさえ――お気づきになられなかったというのに――。
世界を破滅に追いやろうとした――「デウス・エクス・マキナ」という人物を倒された「英雄」――シュウ・ヘラクレス・タカモリ様だからこそのことなのでしょう。
そして――キャ――っ!!
周りに不気味な姿の生き物がたくさんっ現れました!!
これが『ディアボロス』とかいうのでしたっけっ!?
こ、怖いですっ!!
って――カロ様――いえ、カロが私を庇うように、私の前に立ってくださいました。
「大丈夫。すぐ終わるよ」
と、怖がる私を安心させるようなお言葉までかけてくださいます。
本当はとてもお優しい方なのですね、カロは。
「こんなことに『ブルゾス』を利用して…」
アマラ様がたぶんご自分のお力を使われようとされたと思うのですが、リデル皇子様がそれとお止めになりました。
「俺にやらせてくれないか?『ブルゾス』を戦わずして『ガイア』に還す。
その考え方には俺も賛成だ。
それにそのやり方なら、俺の能力『クリオネ(祝福)』は一番力を発揮出来る」
「大丈夫、リデル?」
「任せろ、ユアナ」
心配するユアナ様へ微笑み、リデル皇子様は凛々しいお姿で『ブルゾス』たちに対峙されました。
「…辛い思いをしてきたな…今…母なる者へ還る道を教えよう。
さぁ…戻るがいい……」
そうしてリデル皇子様が両目を閉じられると――雨のような――キラキラと光る優しい光が噴水のようにリデル皇子様を中心に飛び出して。
その輝きが『ブルゾス』に降り注ぐと――次々に塵のように『ディアボロス』たちが消えていきます。
これは一体どうなっているのでしょうか?
「『祝福』か。確かにこの「浄化方法」には合っているかもしれないな」
ナオト様が笑顔でそんなことをおっしゃっています。
「こんなに『ディアボロス』を呼び出したんだ…もう力は残っていないだろう」
シュウ様が気配を感じる場所へと足を踏み出されようとしたときでした。
「シュウ様。ここは私にお任せくださいませ。今までリデル皇子たちを見てきたのでございます。大体どなたかの目星はついております」
「…ミタリーさん」
えぇっ!!ど、どうしたんですかミタリーさんっ!!?
まるで別人のように――シュウ様に申し出られていらっしゃいます。
「もうこんなことはお止めなさいませ、マリーン様。
こんなことをされても、もう何の意味もございません。ご自分が惨めになるだけでございます。
もう全ては終わったのでございますよ、マリーン様」
その名をミタリーさんが口にした途端――リデル皇子様が「まさか」とおっしゃいました。
そして――その茂みの影から姿を現したのは――怪しい黒いマントを羽織られたマリーン様でした。
その手には剣をお持ちになられています。
「もう少しだったのに…全部あなたがいけないんですぞ、リデル皇子っ!!
あなたは少しも私の偉大さを理解されておられない。
そればかりか蔑んでもいらっしゃる…しかしどうですかっ。今までの『ブルゾス』を呼び出したのは私なのですぞっ!!
正体もわからせず、わたしはここまで出来る大魔導師なのですぞっ!!
少しは私を尊敬なさいませっ!!」
そう口にされるマリーン様の目は――血走っておられ――その表情には悔しさからなのか――とても追い詰められた焦りのようなものを感じました。
「尊敬?ふざけるなでございますよ、マリーン様」
再びミタリーさんが口を開かれました。
「人は相手の…その行動、振る舞い、言葉、気持ち…それらに感動し、感銘を受け…初めて尊敬という念を抱くのです。
強要されて持つ感情ではありません。
失礼ですが、あなたは今までご自分のちっぽけなプライドを傷つけられたことで、自分勝手に力を振るわれていただけ。
あなたのお持ちになっているお力など、この場にいる方たちに比べれば月とスッポン。
それを尊敬しろなどと…片腹痛いでございます。
リデル皇子の行いはあなたのその身勝手な思いを感じ取られ、当然のごとく行われたもの。それを逆恨みし、皆様にご迷惑をかけてまでしたことでございます。
尊敬ではなく、あなたが反省なさいませ、マリーン様」
はい――確かに。
今のミタリーさん。私、思わず尊敬しちゃいます。
そして。
ユアナ様が驚くマリーン様に歩み寄っていかれます。
リデル皇子様は「ユアナ」と叫ばれますが、ユアナ様は構わずマリーン様への歩みを止めません。
シュウ様たちは――そんなユアナ様を見守っておられるようです。
「マリーンさん。
確かにあなたの力はすごいと思う。でもそれだけ……。
でもね。ボクはあなたに言いたいことがあったんだ。
ボクはあなたのおかげでここに来られた。
リデルに会えた。アキュリスさんやマリーたちにも会えた。
そして今は、まさかボクの世界の友達…秋や直人さん…諦めてた天楽にまで会えたんだよ。全部あなたのおかげなんだ。
あなたには散々酷いこと言っちゃったけど…ごめんさい。そして、ありがとう。
しばらく姿が見えなくてとても心配していたのに…今のあなたの姿はとても残念だよ……。
そんなマリーンさんの姿…ボクは見たくなかった……」
優しい――そして悲しい笑顔のユアナ様に諭されて――マリーン様の手にあった剣が地上へと落ちました。
そしてがくりと両膝を――続けて大地に付かれました。
◆◆◆
マリーン様はそのままユハネス様たちに捕らえられました。
ほとんど抵抗をすることはなく――ミタリーさんは連行されるマリーン様に
「またお会いいたしましょう、マリーン様。そのときは美味しいお茶を淹れますから」
と笑顔で見送られていられました。
「…そうですね。お願いします」
とマリーン様も疲れておられましたが――笑顔で応じられていました。
ミタリーさん――本当はとてもすごい方なのでしょうか。
◆◆◆
〈リデルサイド〉
全ては俺の仕出かしたことだったのだろうな。
マリーンは――もしかするともう1人の俺なのかもしれない。
そんな思いに囚われる。
あれから数日。
シュウたちのおかげで、思わぬ膿み出しが出来てしまった。
来る前は散々警戒していたが――本当に失礼なことをした。
素晴らしい上に、気持ちのいい――器のデカい連中だった。
これこそ本当に尊敬するし、見習わなければならないことだろう――。
何より――ユアナは元の世界の友達や剣術の師匠に会えたわけで。
シュウたちが帰るときは「一緒に行く」と言い出すかと心配したが――。
「またね」と笑顔で送り出していた。
シュウも「またな。今度はお前がロバロに来いよ」と言っていた。
セスカ殿に肘鉄を食らっていたが――ご愛嬌か。
その後、突然俺たちの前に現れたように、クララとカロの「瞬間移動」とかいう能力で一瞬でロバロに帰っていった。
なるほど。これでアレティ殿は、1日で『アカデメイア』からロバロ公国に戻れたわけだ。
◆◆◆
「どうしたの…リデル?」
窓辺にいたユアナが、心配そうにソファに寝そべる俺を覗き込んだ。
「お前のことを考えてた」
「…えへへ」
俺の答えに満足したのか、嬉しそうに俺に抱きついてきた。
「ねぇ…リデル。ずっとボクを離さない?」
「離さない」
「浮気しない?」
「俺はしない。お前が心配…」
「どうしてだよぉっ!!」
「どうして?あのなぁ。
久しぶりに…確かに違う世界で思わぬ再会したことで、嬉しかったのはよくわかる。
だからと言って、俺の目の前で違う男とキスしまくるお……」
ユアナが突然俺の口を塞ぐように――キスをしてきた。
――ってかこれ長くないかっ!?
「ぷはっ!!く…苦し」
やっとユアナが離れたかと思うと、またキスをしてきた。
また長いってっ!!
「……はぁ、はぁ…はぁ」
キスは――こんな苦しいものじゃないだろっ!?
「ボクはもうリデル以外キスはしないっ!!宣言するっ!!」
「……そうか。よくわかった」
俺は――精一杯空気を味わいながら――ユアナに答えた。
「なにそれっ!!わかってないじゃんっ!!答え方、軽くない?」
「今まで息止めてたんだっ!!少し空気を吸わせてから言わせろっ!!」
「やだっ!!」
滅茶苦茶言ってんじゃないぞっ!!ユアナっ!!殺す気かっ!?
「俺はお前を愛してるっ!!一生離さないっ!!宣言するっ!!以上っ!!!」
「言い方、気に食わないっ!!」
「うるさいっ!!もう言わないっ!!」
「言えっ!!」
「言わないっ!!」
こうして今日も俺とユアナの――日常は過ぎていく。
◆◆◆
お久しぶりでございます。メイドのミタリーでございます。
あれから1ヶ月も過ぎていたんです――時間の経つのは早いですねぇ。
あれからの私ですか?
ちょっと――その。この物語の進行役を降ろさせていただきまして。
皆様にご挨拶もなしに本当に申し訳ございませんでした。
今はメイド次長として忙しい日々を送っておりますよ。
マリーとも仲良くやっております。
え?本当か?本当でございます!!
なんかマリーが――私のこと「尊敬してます」とかなんとか。
私…あの子に何かしてあげたでしょうか?それが今だ――謎なんですが。
今日は皆様へのご挨拶を兼ねて、久しぶりの進行役――そして最後のご挨拶をしようとやらせていただいております。
皆様が気にされているのは、私が今だに「覗き」をやっているかどうか。で、ございましょう?
しておりませんよ。残念ながら。
シュウ様がご自分のように怒ってくださり、アレティ様に褒めていただき――何よりマリーン様の姿を目にしたことで、私が今までしてきたことを反省してしまいました。
そしてもう二度としないと誓ったのでございます。
全くしないのか――ですか?
あのスリルは――いえいえ。全くしません。
確かにマリーン様の正体がわかったのは――覗きをしてたおかげ――なんですけどね。
でも、もう致しません。
というか。
実は今――私にひとつの悩みがございまして。
「ミタリーさんっ!!よかった。ここにいらしたのですねっ!!」
どうしてか、近衛騎士の――デヴィット様は――ヨハネス様たちのようにエリュシオン王国にはお帰りにならず、騎士団に残られまして――毎日のように私に会いに来てくださいます。
それはとても嬉しいのですが――ちょっとしつこいというか。
それが私の今の悩みでして――。
「実は…ミタリーさんにお願いがあって…きょ、今日は来ました。お時間は大丈夫ですか?」
「……はい。どうされたのですか?」
デヴィット様――いつになく緊張されているような。
どうしたのでございましょうか?
「わ……わ…私と結婚してくださいっ!!」
あら、いやだ――。
これは新しい物語の始まり――なのでございましょうか?
終わり
え?私の返事ですか?
恥ずかしゅうございますが――こそっとお教えいたしますね。
「はい……喜んで」
これで本編終了…のようですが、もう1話だけございます。
それで「メイドは見た!!」は完結となります。
ここまでお付き合い本当にありがとうございます!!
もう少し…お付き合いいただけますと…幸いです。




