騒動25 ロバロからのお客様 2(あぁ勘違い編)
〈リデルサイド〉
「大変だね…リデル」
俺たちの部屋に帰る途中で、ユアナが心配そうにそんなことを言った。
「どうしてだ?」
「……ずっと…怖い顔してるよ…リデル」
お前――そんなことを気にしていたのか――。
でもまさか――「シュウ」が気になるとは言えず――。
明日は平常心を保てるのか――俺?
「ボクは大丈夫。だってリデルはボクを選んでくれたから」
いや――平常心を保てないのは今だ――俺。
「…ちょっと…いいか、ユアナ」
「どうしたの?」
部屋に帰る前に――ちょっとユアナを摘み食い。
まぁ――ミタリーに見られても、見せつけてやれという開き直りもあるだろうな。
と、言いつつ。
あいつは今。アキュリスとマリーのあとをつけている。
アキュリスが心配だと、マリーを部屋に送っていったんだが――。
もうメイド長の言いつけなど、「ミタリーの耳になんとやら」で、効果の欠片もない。
さて――どうしたものか。
◆◆◆
またお会い出来ました。メイドのミタリーでございます。
と、今ちょっと私用で取り込み中なのですが――。
アキュリス様ってば――そんなにマリーにくっついてっ!!
「ミタリー殿」
と、聞きなれない声に、私が振り返ると、そこにはヨハネス様と新たに近衛騎士団に加わったデヴィット様が――。
「どうされたのですか?」
「いいえ…ちょっと」
「そうですか。もし今お時間が大丈夫でしたら、この城についてお聞きしたいことが。
メイド長にお聞きしたところ、あなたはこの城の細部にまで詳しいとか。
是非にお願いしたいのです」
あら?あららら?
それは――ちょっと。新たな出会いとやつでございましょうか?
「そうですか…私などがどのようにお役に立てるかわかりませんが……」
「いいえ、とんでもない。
よろしくお願いいたします、ミタリー殿」
爽やかで――素敵な笑顔のデヴィット様でございます。
「はいぃ」
ちょっと――皆様。
私用で席を外しますが――すぐ戻りますので、しばしお待ちくださいませ。
◆◆◆
〈ヨハネスサイド〉
「デヴィット…可哀想じゃないですか?」
セサルが私を責めるような眼差しを向けているが――アキュリス殿もマリー殿も、リデル皇子たちには、欠かせない関係者であるし。
とにかく明日までは――あのミタリーは――邪魔になるからなぁ。
「仕方がない。とにかく明日までの辛抱だ」
「そうですけど……」
お前の尊い犠牲は無駄にはしないぞ――デヴィット。
◆◆◆
〈リデルサイド〉
ユアナを連れて、部屋にはすぐには戻らずに――城の裏庭に出た。
「だいぶ寒くなってきたね、リデル」
「アスィミ皇国は少し北に位置しているから…10月にもなれば、とても半袖などでは過ごせない。厚手のコートが必要になる。
寒さに苦手なお前には厳しい国かもしれないぞ」
「それでも…ボクはリデルがいるから大丈夫」
そうやって体をすり寄せてくるユアナが堪らず愛しい。
だが。俺たちの逢瀬は――無粋な気配に邪魔された。
「リデル……」
「俺から離れるなよ、ユアナ」
念のため、ユアナに「ビャッコ」を持たせておいてよかった。
えっ!?「ビャッコ」って何だって?はぁーっ!?
あまりに出てこないから忘れたって…あのなぁ。
ユアナがこの世界に来ることになった、アスィミ皇国の宝でもある「カタナ」のことだ。
頼む。これ重要なんで、覚えておいてくれ。
何度も説明するのは疲れるぞ――。
一気に疲れただろうが。
「まさか…この城に『ブルゾス』が出てくれるとはなぁ」
『ブルゾス』でも魔獣タイプの『ディアボロス』が3体ほど――人の大きさはある結構な獲物というわけか。いかにも俺たちを待ち伏せしていたという感じだな。
これでヨハネスの言っていたことは間違いないわけだ。悲しいことだが。
俺は自分の剣を鞘から抜き、ユアナも「ビャッコ」を構えた。
俺は剣に「祝福」の能力を乗せ、「浄化」の力を強化した願いをかける。
既にユアナは体を純白の輝きに包んで、目にも止まらぬ速さで、一体目を切り伏せていた。
俺も負けじと眼前の『ディアボロス』を――剣をふた振りし、確実に「浄化」に導いた。
と、ここで残りの一体を、どこからか飛び出した1人の近衛騎士が氷漬けにし、それを破壊することで『ディアボロス』を退治ていた。
「遅くなり申し訳ありません。リデル皇子、ユアナ殿」
「君は…ジュリアスか」
ジュリアス。ヨハネスと共にエリュシオンからやってきた5人の騎士の1人。
この騎士もまた――無駄に爽やかで気さくないいやつで。
「はい。影から皇子たちの護衛をしていたのですが…別の気配に気を取られ、場を外した途端、皇子たちが襲われていました。
敵は、どうも近くから我々の動向を伺っているようですね」
「ありがとう。素早いやつだったから、助かったよ」
「いいえ、すぐに駆けつけられずに、本当に申し訳ありませんでした」
ジュリアスが礼儀正しく俺たちに頭を下げた。
「本当にありがとう、ジュリアスさん」
「ユアナ殿も…お怪我がなくて良かった。
あなたを戦闘に巻き込んでしまい、皇子に申し訳ないことをいたしました。
次回から十分気をつけます」
「あの…ボクは全然構わないから……」
最後のこの部分は、ユアナの機嫌は悪かった。
「でも……一体誰が……」
「シュウ」のことでも頭が痛いというのに。
この城にいる誰がそんなことをしているというのだろうか――。
◆◆◆
すっかり話し込んでしまいました。
それにしてもデヴィット様は――素敵な好青年でございますね。
ドキドキが今も止まりません。
あ、私です。ミタリーでございます。
今、裏庭を一望出来るお城の廊下におりまして――。
あら。丁度よいことに、裏庭にリデル様たちが――って…えぇっ!!
いつぞや見た、化け物では居るではありませんかっ!!
それも3体――獣のように四つん這いで――ひぃぃぃっ!!で、ございますっ!!
と――それでもリデル様たちは全く動じる様子もなく、この化け物たちをやっつけていられますっ!!
かっこいいでございますっ!!
それにもう1人。騎士様登場で――3体目もあっさり――あら。氷にされて壊されて。
あれが『魔法』なんでございますね。すごいです。
あら?
リデル様たちから少し離れた――木の陰に――マリーン様でございますね。
あの黒い怪しいマントはいかにも――でございますが。
なんであんなところに?
まさか――マリーン様も「覗き」をっ!?
それは一大事っ!!
マリーン様に、私の使命を取られてしまいますっ!!
私――とてもいちメイドとは思えないほどの活躍とライバルの登場で、このお話の主役を奪ってしまうのではと心配になって参りました。
でも私はメイドであって、このお話の進行役でございます!!
頑張ってまいりますっ!!マリーン様に負けてはいられませんっ!!




