騒動16 はぁ?見合いっ!?
〈リデルサイド〉
「いやぁ…いつ来てもいいなぁあのメイドさん。ここまで覗きが露骨だと、呆れ通り越して尊敬…いや祭り上げたくなるな」
「やめろ…地上最悪の女神になる…」
ガロと俺がどうしてそんなやり取りをしているのか――。
ユアナとアキュリスに会いに鍛練場まで足を運んだのだが――真っ先に視線が行ったのが――花壇の隅に隠れている「つもり」のミタリーの姿だった。
「さっきからあの様子で…」
アキュリスの話だと、俺の部屋の前にミタリーが同じ内容を告げに来ていることを知らず、ガロの来訪を伝えに来たアキュリスと出会い、そのままユアナとここまで来たそうなのだが――あいつずっとあとを付けてきたらしい。
気配がダダ漏れなので、俺たちにはすぐわかってしまうことを――あいつはわかっていない。
どうにかしてくれあのメイド――本当に――。
で、あのガロの台詞に繋がる。
どうせ、イロアス協会のこととか、『アトスポロス』のことなどあいつは知らないので、会話をしていてもわかりはしないのだが。
「で、初めましてだね、ユアナちゃん」
ガロが最高の作り笑顔で挨拶をする。
馴れ馴れしいんだよ、お前は――。
「皇子。そんなに露骨に嫌な顔されなくても…」
「あっ?どういう意味だ?」
アキュリスが俺の顔を見て吹き出している。本当にどういう意味だ。
「話したの。ボクがリデルを好きなことと、リデルもボクを好きなこと」
「お…お前っ!!ばっ……」
ユアナの告白に俺が顔を赤らめあたふたしていると、アキュリスが口を開いた。
「いいじゃないですか、相思相愛で。何も問題はないはずですが?ユアナ殿はこの国を救う立派な「勇者」様として召喚されたわけですし」
アキュリスの話に俺の顔がますます不機嫌になったようで、余計にアキュリスが笑い出した。
こいつとは5歳のときからの付き合いだからな。遠慮がない。
◆◆◆
こんにちは、皆様――今の聞きましたか?あ、メイドのミタリーでございます。
とうとう――とうとう核心に突き当たりましたわっ!!
リデル様とユアナ様は相思相愛っ!!なるほどぉ――面白くなって参りました!!
これでアキュリス様の入る隙はないのでございます!!ラッキーですっ!!
ではなく――さぁ――ぐいぐい更なる核心へと参りましょう!!
◆◆◆
「で…あなたが…なんとか協会の人?」
ユアナがガロへと顔を向けた。
「そう。俺はイロアス協会から皇子の「補佐役」として来ているガロといいます。
ユアナちゃんに、2、3訊きたいことがあるんだけど…いいかな?」
なにが「補佐役」だよ――呼ばないと来ないだろうが。しかも来ら来たで嫌そうに。
「うん…構わないけど」
ユアナがそう言って俺を見た。
「お前が答えたくないのなら、無理しなくていいんだぞ」
「あ。この彼氏は異常な心配性だから…気にしないで」
俺の言葉を遮るようにガロはユアナに笑いかけ、「彼氏」と言われた俺とユアナは頬を赤らめ互いの顔を見やり――アキュリスが笑っていた。
◆◆◆
話は応接室での俺とガロの会話に戻る。
「異世界から来た人間が2人もいるのかっ!?」
「うん…それが…ユアナちゃんの幼馴染…確か「シュウ」って言うんだよな、男の子で」
「あぁ。それが…まさか…その本人なのか?」
ガロがうーんと小さく唸る。
「確証はない。が、お前も聞いてないか?少し前、ロバロ公国のバーリマ領にあるザイタンの街にあった『アート』という不浄地を、剣をたったひと振りしただけで浄化した「英雄」の話…」
「ああ、聞いた。すごいってもんじゃないが…その「英雄」が…そうなのか?」
「まぁ…そういうことだ」
『不浄地』というのは、『ブルゾス』が勝手に集まってくる迷惑な土地のことで、『アトスポロス』が定期的に『浄化』という退治をしないと、『ブルゾス』がどんどん集まって大変なことになる。
つい最近、『アート』という規模は小さいが、そんな『不浄地』を、剣をひと振りしただけで全部――綺麗さっぱり『浄化』した「英雄」がロバロ公国に現れたという噂が飛び交った。
そんな常識はずれのことがあるはずがないと、俺はたかを括っていたが――まさか本当だったとは――だとすると、その人物は間違いなくこの世界でたった1人しかいない『アトスポロス』の『第1級』レベルの能力者ということになる。
「で、その人物の名前が「シュウ・ヘラクレス・タカモリ」。17歳の少年だ。
それともう1人、そのシュウくんより3年前にこの世界にきた青年…26歳になるが
「ナオト・アエラキ・カザマ」。なんか名前の響きがユアナちゃんと似てないか?」
ガロの話を信じられないと、俺は呆然と見つめるしかない。
「それで、こんなところで話していてもキリがない。
ユアナちゃん本人に確認したいんだけど…構わないよな?」
◆◆◆
先程から、俺の心臓は呼吸が苦しくなるほど、異常な速さで鼓動を繰り返している。
どうか関係ない連中であってほしい。
そんな願いばかりが――浮かんでは消える。
「そうそう、皇子。ユアナ殿…そうとうお強いですよ。
俺が手合いを挑んで、3回とも負けましたからね」
俺の緊張が見て取れるのか、ガロと話をしようとしているユアナを一瞥しながら、アキュリスが俺に話しかけてきた。
「お前が弱すぎるんだろう?」
「…ひどくないですか、それ?仮にも皇子の護衛ですよ、俺。
じゃなく。ユアナ殿の剣術の名前「カザマフウバリュウ」っていう風をイメージした…」
「なんだとっ!!」
俺はアキュリスを睨みつけた。
「ど…どうされました…皇子?」
驚くアキュリス――いや、ユアナとガロもだ。
ミタリーまで驚いてやがる――まぁ、どうでもいい。
「カザマ…というのか?」
「そうだよ。「風間風刃流」。ボクの習った剣術名」
ユアナが嬉しそうに俺に答えた。
俺の視線がガロに向かう。
ガロが小さく頷いた――間違いないだろう――と。
「そう言えばさぁ…リデル皇子。さっき、言い忘れたことがあるんだよね」
と、いきなりガロが話の矛先を俺に変えてきた。
「な…なんだよ?」
「お前、見合いしない?」
「はぁっ!?」
てめぇは何が言いたい、ガロっ!!
ユアナが呆然としている。
それはアキュリスも――ミタリーまで――腹立つぅっ!!
「相手はロバロ公国大公アレティ様だ」
そう言って――ガロがにっこりと微笑み――やがった。
◆◆◆
聞きました?聞きましたよね?
衝撃の展開ですっ!!間違いなく一大事ですっ!!
このさきどうなるんでしょうかっ!?
このまま私はリデル様たちを見張り――物語の先を見届けますからねっ!!




