騒動15 いやな予感?
〈リデルサイド〉
「異世界からの召喚者っ!!?」
ここは応接室。チャラい――というほどでもないが、ガロというこの男。かなりいい加減だ。
その前にイロアス協会というところを説明すると――俺のような世界に蔓延る『ブルゾス』を退治出来る『アトスポロス』たちが集まり作られた世界的「組織」。
世界のほとんどの国々がこの協会に加盟し、その加護を受けている。
この「組織」に国境は存在せず、『ブルゾス』の被害を受ける国の要請――もしくは協会側が必要としたときに協会に所属する『アトスポロス』を派遣する。
だが俺のように、イロアス協会に――『アトスポロス』と認定されれば、強制的にイロアス協会に所属することになるのだが――所属はしていても、国から出られない連中は、その住まう国で活動することになっている。
これが簡単な説明なんだが――。
実は『アトスポロス』には『ランク』というものが存在する。
『第6級 (エクトス)』から『第1級 (ブロスト)』まで。
ちなみに、『第1級』は世界でただ1人しか確認されていない最高ランクとなるが。
で、俺は『第4級 (テタルトス)プラス』。「プラス」って何?って?
「いつかは『第3級 (トゥリトス)』に上がるでしょう」というランク者につくもの――らしい。
そして『第3級』以上は格段に能力が上がり、協会としても貴重な戦力として、「特別扱い」をする。具体的には、協会から「補佐役」という、その『アトスポロス』専任の係りがついたりするそうで。
で、俺はその「半特別扱い」なので、こうしてガロという「半補佐役」が定期的に回ってくる――のだが、この男のいい加減さにはほとほと困っている。
呼ばないと来ないからな。
どう呼ぶんだって?
こいつは普段隣国の「ロバロ公国」にいて、その指定の場所にこちらから使者を送り、イヤイヤ面倒くさそうにこいつがくるわけで。腹立つ。
で、今回はユアナのことを相談するために来てもらったんだが――俺がユアナの話を切り出した途端に声を荒げやがった。
「驚くだろうっ!!」
「す、すまん」
一応皇子――の俺にもタメ語なんだよな。こいつは。
それから今までの経緯を話し――ますますガロは普段では考えられない真剣な表情で悩み始めた。
「あのさ…そのユアナちゃんに会ってもいい?」
「慣れ慣れしいな」
「お前…もしかして……惚れた?」
「悪いか」
顔を真っ赤にして俺は答えた。恥ずかしいから仕方ないだろ。
「そっか…」
ガロからの冷やかしを覚悟していたんだが――余計に大きなため息をついて悩みやがった。何があったんだ?
「実はな。ロバロ公国に2人ほど、異世界から来たという人物がいるんだよ」
「なんだとっ!!」
今度は俺が声を荒げた。
◆◆◆
こちら――メイドのミタリーでございます。
皆様、ご無沙汰しております。え?そうでもない?そうですか。
只今アキュリス様とユアナ様の剣術の稽古を見ておりますが――この花壇からでは鍛練場は距離がありまして――声がよく聞こえません。困りました。
あ、今休憩でしょうか?ベンチに座りました。でもますますここから距離があります。
でも雰囲気は――けして悪くないんですよ。あららでございます。
◆◆◆
〈アキュリスサイド〉
あのメイドは――本当に困ったものだ。皇子が嫌がられのもよくわかる。
時々俺の部屋の前にもいるし。
皇子がよく「あのミタリーをどうにかしたい」と申されているが――俺もどうにかしたい。これではユアナ殿が可哀想だ。
「ミタリーさん…丸見えだね」
「あの者は放っておきましょう。ある意味…目の毒です」
「リデルと同じこと言うね」
しかし――ユアナ殿の剣技。本当に大したものだ。
風に舞う花びらのように――捉えどころのない流れるような動き。
「カザマフウバリュウ」という剣術名らしく、その教えはまさに「風に舞う木の葉のような動き」なのだそうだ。
俺は手合いを3戦挑み――全て負けた。
「でも…ユアナ殿が「勇者」としてこの世界に来られたこと――よくわかりました」
「ボクは…リデルに会うためにこの世界に来たって思いたい」
ここまで皇子をお好きだったのか。なんとなく――感じていたことなんだが。
この間の話――確かに気を悪くするはずだ。申し訳ないことをしてしまった。
「本当に皇子のことをお好きなのですね」
「リデルもね。ボクのこと好きだって言ってくれたんだよ」
なるほど。ここまで直向きだと――俺も正直惹かれそうになったくらいだ。
「でもリデルはボクに「戦いに参加するな」って言うんだ。ボクは「勇者」としてこの世界に呼ばれたのに」
「それはおかしいですね。ユアナ殿は、今「リデルに会うためにこの世界に来た」と言われましたよ?」
「そ…そうだけど」
頬を染めて俺に困った顔を見せる。本当によく表情の変わる――感情の豊かな「勇者」様だ。
「でも皇子も同じように思われていると俺は思います。
そして俺が皇子と同じ立場なら…同じことを言うと思いますよ」
「……アキュリスさんでも?」
「えぇ。そこまで好きなら…俺ならそう言います」
ここでユアナ殿は考え込んだ。
だがこの現状――ユアナ殿の戦力は大きい。まして今皇子が会っている協会からの客人――ガロ殿も同じことを考えるだろう。
『第3級』以上の高ランクの『アトスポロス』と判断された場合――どうされるおつもりなのだろう?
最悪、協会でユアナ殿を預かると言いかねないだろうな。
「ボクはどうすればいいんだろう?」
真っ直ぐな視線を俺に向けてくる。さて。どう言ったら良いのだろう。
「俺が言えることは…ユアナ殿のお気持ちを伝えることではないか…と思います。
皇子は我侭なところはありますが、けして人の気持ちを無碍にする方ではありませんから。正直に伝えるべきだと思います」
「…うん、そうだね。ありがとう、アキュリスさんっ」
「いいえ。でもこうして時々は俺と剣を交えてください。俺もいい勉強になりますから」
「うん。ボクもそうしたい。アキュリスさんなら、リデルもわかってくれると思うんだ」
「お願いします」
結局――こう言うしかなかった。
このお2人が、いつまでも一緒に居られる状態になれば良いのだが――。
そんな不安が俺の中に大きくなった。
◆◆◆
アキュリス様――もしかしてユアナ様と?
それは駄目ですっ!!それはいけませんっ!!
それにしても本当に良い雰囲気なんですが――嫉妬メラメラ――です。
このままでは泥沼四角関係――キャーっ!!たまりません――ではなく――いけませんっ!!一大事ですっ!!
あら?ここにリデル様とガロ様登場ですね。
私、場所をもっと近くに移動させていただきます。
しばらくお待ちくださいませ。




