騒動13 逃げの言い訳!?
「……いいよ」
ユアナがそう言って――。
俺がベッドに押し倒し、ユアナは俺にされるがままになっている。
まっすぐ俺だけを見て――そのつぶらなブラウンの瞳が、俺だけを映している。
もうどうしていいかわからなくて。欲求の赴くまま――ユアナをベッドまで運んでいた。
つくづく馬鹿だ――俺は。16歳の生娘相手に何をしているんだ――。
ユアナの唇に触れ――だんだんそれが深くなり――。
「…ふっ……」
俺の手がユアナの胸に触れる。
唇は塞がれているので、思わずあがったユアナの声は、篭ったように聞こえた。
俺がユアナの着ている服に手をかけたとき――その異変に気がついた。
胸の両サイドに肘を曲げ、軽く手を握り。
そしてその両腕は――震えていた。
ユアナの顔を見る。
唇を噛み、その表情はとても固く――俺のような他人の男に触れられるのは初めてだろう胸の感触に、快感と恐怖を感じ取ったのかもしれない。
俺はここで――ようやく我に返った。
口元に笑みを浮かべ、上半身を起こすとユアナを愛しく見つめた。
「怖いなら…そう言え」
「こ…怖くなんか……」
「嘘だ。お前は正直者だから、俺にはわかる。怖いんだろ?」
ユアナの揚げ足を取る形になってしまったが――同じ言葉を選んで、ユアナも嘘をつくことが苦手であることを自覚させる。
「……大丈夫。当分嫁選びなんてしている暇はない」
「当分?」
ユアナが怒ったように飛び起きた。
まったく――さっきまで可愛く震えていた奴が――。俺はユアナを抱きしめた。
「お前を元の世界に帰すまで…俺は他の女を選ぶことはない。
もし…お前が…もし……帰ることが出来なかったら。一生面倒をみる。
それはお前を嫁にすることも含んでいることだ。が、今の時点ではそれはない。
お前は俺が帰してやると決めている」
ユアナがひどく――複雑そうな顔をする。
「……ボクは…リデルの傍にいたいよ」
「お前の親や友達も心配しているだろう?それを考えてみろ」
「…友達はあるかもしれないけど…親はない。それは嘘じゃないよ」
驚く俺に、ユアナは自分の生い立ちを説明し始めた。
俺にもわかるよう、言葉を選んで――丁寧に――。
ユアナの両親は――元々ユアナの住んでいた世界では、互いに別々の仕事を持ち、その仕事が忙しく――母親はユアナを産むと、ベビーシッターとかいう子育て専門のメイドに育てられたらしい。
ユアナが物心ついたときは、ほとんど家に親の姿がいなかった。なんて親だと激怒しそうになったが――。
その寂しさを紛らわすために、剣術やらサッカーという競技やらに打ち込んだらしい。
「……リデルが初めてなんだ……ボクの我侭も聞いてくれて…ボクだけを見てくれて。ボクのことを精一杯考えてくれて…すっごく嬉しかったんだよ」
もう反射的にユアナへキスをする。
「そんな切ない顔をするな…今は俺がいるだろう?」
「……うん。だからね、リデルの傍にいたいんだ。リデルが他の女のモノになるなんて、絶対考えたくないんだ」
「なってないだろう」
「…そんなに結婚の申し込みが来てたら…わからないじゃん」
「……確かにな」
これは意地悪だったか。ユアナが俺に抱きついてきた。
「だから嫌なんだってっ!!」
「ごめん…嘘だ。ユアナ以外は選ばない。その代わり、お前をいつか抱くぞ…。
今じゃない、いつか…だ」
「えっ?!今がいいよ」
「それは嘘だ。お前の気持ちの準備が出来ていない」
「……そんなことないよ」
これだけ情熱的なやつが――ここだけ――顔を俯け、俺の顔を見ない。
「これは大事な行為だ。疎かにしたくない。相手がお前なら尚更だ…。
だったら…もっとこの世界のことを知り、もっと俺以外の知り合いも増やせ。
きっとお前を抱いたら……俺はお前を元の世界に帰したくなくなる。
その覚悟はしなければならない。
俺はお前の世界には行かれない。一緒に行かれる可能性があったとしても、俺はこの国の皇子だ。この国から離れるつもりはないし、お前を離すつもりもない。ならば、お前をこの世界…この国に縛ることになる。その覚悟が出来るなら…俺はお前を嫁にする」
これは俺の「逃げの言い訳」。
こいつが震えている姿を見て――本当にこいつのことが好きなんだ。
妹とかじゃなく、1人の異性として。そう完全に自覚した。
だからこそ、こいつが気兼ねなく元の世界に帰ることが出来るよう――俺は今の言い訳を用意した。
両親のことがあるかもしれない。
でも俺は、子供を愛していない親なんていない――と信じたい。
ユアナがいなくなって、きっととても心配しているに違いないからだ。
「リデル…ボク」
困惑し、助けを求めるようにユアナは俺を見た。
「いいよ、答えは今じゃなくて。
その代わり…俺の恋人になるなら、戦いには今後は参加させない。
またお前にあんな怪我をされたら……俺は正気を保っていられない」
「怪我なんかしないよっ!!」
「いや…お前は無茶をするタイプだ。信じない」
「それはリデルだよっ!!ボクは「勇者」だっ!!絶対に戦いには出るっ!!
リデルを護るっ!!」
普通逆だろっての。ガチな理由で「護る」言われて、嬉しい彼氏がどのぐらいいるんだよ?
「リデル、ボクは「勇者」になりたいっ。リデルを護る勇者にっ!!
それが今のボクの希望だよ」
だから――本当に手放せなくなるだろうが――。
これは時間をかけて説得するしかないと決め、俺はユアナにこう言った。
「ユアナ…好きだよ」
これには――ユアナの瞳が大きく見開かれ。
すぐに嬉しそうに微笑んだ。
「ボクの方が大好きだよ。だってボク。リデルに一目惚れしたんだから…あの地下室で会ったときから大好きだったんだよ」
もう――無理。こいつ可愛すぎる。
俺はユアナをただ抱きしめ――その告白の余韻に浸りながら、この先の未来を憂いていた。
◆◆◆
(立て看板)
「皆様、お久しゅうございます。メイドのミタリーでございます。
今回の「騒動13」も、ストライキ中のため、私の進行はお休みです。
次回までに――お目にかかれるよう――になりたいです。
本当に申し訳ございません。しばらくお時間をくださいませ」
(次回につづく)




