取っ替え
「男なんて、飽きたら取っ替えちゃえばいいのよ」
友人はそう言うと、ふふんと鼻で笑った。
ふふんなんて、似合うような女かあんたは。私はそう言ってやりたいのをぐっと我慢する。
「女の幸せは、やっぱり男よ」
分かったような口だ。たかだか大学生が、何を言ってるんだろうと、同じ大学生女子の私なんかは思う。
「私は男なんて取っ替え引っ替えよ。彼氏と別れたって、直ぐに次の彼氏ができるもの」
ふうん。あっそ。
いっそ、そう言ってやりたい。
「やっぱさ、いい女は男の方がほっとかないのよね。何て言うか、常に私が誰とつき合ってるかアンテナ張られてるって感じ。ちょっと前彼と上手くいかなくなったらさ、何処からともなく新しい男が声をかけてくるのよ」
ちょっと気になることがあったので、私は彼氏のことで悩みがあるとこの友人に相談を持ちかけた。これはその相談の答えのはずだ。
「だから私なんて、男が途切れたことないわ。常に誰かしらにつき合ってくれって言われるもの。それこそ、彼氏と別れたらすぐとかにね。私ってば、そう言うところも男運がいいの。それって、いい女の条件だと思わない?」
だが友人は延々と自分のことだけ語る。
もしもし、私。ちょっとさ、相談があるんだけど。うん、男のこと。あなた男を取っ替え引っ替えしてるじゃない。話聞かせてくれない――
そんな風に相談を持ちかけた。
しかしこちらの話を聞いてくれたのは最初の数分だけ。後は延々とこの友人の彼氏遍歴自慢と、女の幸せ哲学を聞かされた。
やれやれだ。それぞれの単語の最後にかっこ笑いをつけたいぐらいだ。
狭い範囲でこの友人が体感し、理解した男女の表層的な関係に、殊更知ったような口調で語られるその内容。自分から話を持ちかけいなければ、私は相談場所に選んだこの大学のカフェテラスからすたこらと立ち去っただろう。
「ほら、見て」
友人は鞄から情報端末を取り出すと、私に自慢げにそのアドレス一覧を見せつけた。
男友達。そうタイトルがついている。
「番号順に並んでるでしょ? 連番にしてるの。これがつき合った順番。結構な数があるでしょ?」
何でいちいち番号つけてんのよ? てか前彼のアドレスなんでそんなに残してるのよ?
私は嫌味ったらしいその顔に訊いてやる。
「何でって、撃墜マークみたいなものかな。それに、それぞれ役に立つ時もあるし。たまに呼び出したりしてんのよ」
前彼、元彼をゲームの的や、アイテムか何かと勘違いしているらしい。ま、いっか。
「じゃあね。これからまた、新しい彼氏と遊びにいくの。この間の彼氏はどうしたって? あはは、飽きちゃったから、取っ替えちゃったのよ。今度もタイミングよく、別れそうになったら向こうから声かけてきたわ。私って持ってるわ。いい女の証拠よね。彼氏を取っ替え引っ替えできるなんて」
友人は訊いてもいないことを口にすると、私が相談の為にここにいることなどすっかり忘れたように立ち上がった。
まあ、その方がありがたいけどね。
去りゆく友人の背中を見送り、私は自分の情報端末を取り出した。
男友達。そうタイトルがついたアドレス一覧に並ぶ男達の名前。
それは友人のそれとまったく同じ連番で並んだ男の名前の一覧だった。
その連番の最後尾にある新しい男の名前。今電話をかけたら友人はどんな顔をするだろう?
何てね。私はその内の別の一人に電話をかける。
もしもし私。まだバレてないわよ。しかしよくやるわね、あんたらも。まあ、私は紹介して探りを入れるだけで、小遣い稼ぎできるんなら、何でもいいけどね。じゃ、お金振込んでおいてね。そうそう。私のアドレス一覧と、あの子の男のアドレス一覧がまったく一緒だったのは、黙ってお腹の底から笑わせてもらったわ。何? 彼氏がいるかどうか確かめるのも面倒くさいし、彼氏がいる子に声かける無駄もしたくない? 本気でつき合うのも疲れるし、どのみち直ぐに飽きて別れるからですって? そりゃ、そうね。それに向こうもこっちを取っ替え引っ替えしてるつもりだろって? ひどいのはお互い様ですって? 確かにね。でも、あの子もそろそろ男友達が一巡しちゃうのよね。そっちも新しい男友達紹介してよ。じゃあね。
私はおざなりに電話を切ると、そろそろ取っ替え時かなと呟きながらアドレス帳をもう一度呼び出す。
女友達。そうタイトルをつけてまとめた女友達の一覧。
私は別の友人に電話をかけた。
もしもし、私。ちょっとさ、相談があるんだけど――