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ある者の語り

ある奴隷少女の奉仕

作者: ヒイラギ
掲載日:2026/07/04

「ご主人様は」

「ぼろぼろだった私を」

「買い取って」

「救ってくださった」

「どれだけ感謝しても足りません」

「『お慕いしています』」

「ふふ、照れなくてもいいじゃないですか」

「困っていること?」

「ありませんよ」

「ご主人様といられるだけで満足です」

「ご主人様に保護していただいた頃は」

「食事もまともにできず」

「お役に立つこともままならなかったのに」

「懸命に付き添っていただいた」

「どれほど、嬉しかったか」

「なので、困っていることなんてありません」

「でも」

「どうして、突然そんなこと聞くのですか?」

「ああ、もしかして以前のことを気にしていますか?」

「……」

「やっぱりそうなんですね」

「以前の私は、ご主人様の前で辛い顔を見せてしまいましたからね」

「他にも奴隷はいるのに」

「自分だけが楽になっていいのか、と」

「でも、大丈夫です」

「ご主人様が支えてくださいましたから」

「幸せになる権利は誰にでもある」

「笑った顔が見たい」

「と、言ってくださいましたから」

「だから、私はちゃんと笑っています」

「『幸せです』」

「…………」

「むぅ。信じていませんね、ご主人様」

「ちゃんと見てください」

「こんなに可愛いお洋服を着てるんですよ?」

「髪も綺麗に整えてもらって」

「お肌も艶々です」

「本当にありがとうございます」

「『何で慌ててるんですか?』」

「『ふふ、変なご主人様ですね』」

「さて」

「そろそろ、お茶を淹れましょうか」

「え?」

「……まだ、お話があるのですか?」

「恨み、ですか」

「……それは、あります」

「ご主人様に助けていただくまでは」

「……酷い扱いを受けましたから」

「ですが」

「『もう、忘れました!』」

「もう数年も前のことですし」

「そんなことより、ご主人様の側にいることの方が大切です」

「何言ってるのですか」

「感謝するのはこっちの方ですよ」

「ご主人様は優しくて素敵なお人です」

「…………」

「いいですね!」

「また今度旅行に行きましょう」

「この前の温泉街も」

「とても楽しかったですから」

「場所は、ご主人様の好きなところがいいです」

「え、私の行きたいところ……」

「んー、綺麗な景色のあるところがいいですよね」

「ご友人の方々にもお土産をたくさん買いたいですし」

「……すぐには思いつかないみたいです」

「考えておきますね」

「…………」

「いえ、変なんかじゃないですよ?」

「ああ、もしかしたら寝不足なのかもしれません」

「『昨日、遅くまで読書をしてしまったのです』」

「悩みなんてありませんよ」

「無理もしていません」

「『大好きなご主人様といられて幸せです』」

「どうして、暗い表情をなさるんですか」

「…………!」

「時々、無理して笑っているように見えるのですか……」

「ご主人様はそんなことまで見てくださっているのですか……」

「私はもう幸せなのだからずっとそのままでいてほしい、と」

「もっと笑っていてほしい、と」

「そう言ってくださるのですね」

「本当にお優しい方ですね……」

「いえ!」

「これはご主人様には関係ないことなのです!」

「気にしなくていいのです!」

「だから」

「自白魔法など使わないでください!!」

「傷ついているなら、心を救いたいなど」

「そのような善意は求めていません!」

「まだ私が昔のことで苦しんでるとお思いなのでしょう!?」

「私の傷を癒してくれるおつもりなのでしょう!?」

「でも、そういうことではないのです!」

「だから、やめて!」

「うっ!うぁ……」

「…………」

「私は」

「悩みはありません、不安もありません」

「…………」

「感謝しています、満足しています」

「…………」

「愛して………」

「お慕いし……」

「幸せで……」

「…………」

「……私は、そんな顔をさせたいわけじゃなかった」

「ご主人様の望む笑顔を、言葉を差し上げていた」

「……それだけで」

「それだけでよかったではありませんか!」


次の日も、少女は同じように笑った。

朝には茶を淹れ、昼には庭の花を整え、夜には主人の寝室の灯りを消す。

何も変わらなかった。

ただ、主人だけが、その笑顔を見るたびに目を伏せるようになった。

少女はそれにも気づいていた。 だから、少しだけ明るく笑った。

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