ある奴隷少女の奉仕
「ご主人様は」
「ぼろぼろだった私を」
「買い取って」
「救ってくださった」
「どれだけ感謝しても足りません」
「『お慕いしています』」
「ふふ、照れなくてもいいじゃないですか」
「困っていること?」
「ありませんよ」
「ご主人様といられるだけで満足です」
「ご主人様に保護していただいた頃は」
「食事もまともにできず」
「お役に立つこともままならなかったのに」
「懸命に付き添っていただいた」
「どれほど、嬉しかったか」
「なので、困っていることなんてありません」
「でも」
「どうして、突然そんなこと聞くのですか?」
「ああ、もしかして以前のことを気にしていますか?」
「……」
「やっぱりそうなんですね」
「以前の私は、ご主人様の前で辛い顔を見せてしまいましたからね」
「他にも奴隷はいるのに」
「自分だけが楽になっていいのか、と」
「でも、大丈夫です」
「ご主人様が支えてくださいましたから」
「幸せになる権利は誰にでもある」
「笑った顔が見たい」
「と、言ってくださいましたから」
「だから、私はちゃんと笑っています」
「『幸せです』」
「…………」
「むぅ。信じていませんね、ご主人様」
「ちゃんと見てください」
「こんなに可愛いお洋服を着てるんですよ?」
「髪も綺麗に整えてもらって」
「お肌も艶々です」
「本当にありがとうございます」
「『何で慌ててるんですか?』」
「『ふふ、変なご主人様ですね』」
「さて」
「そろそろ、お茶を淹れましょうか」
「え?」
「……まだ、お話があるのですか?」
「恨み、ですか」
「……それは、あります」
「ご主人様に助けていただくまでは」
「……酷い扱いを受けましたから」
「ですが」
「『もう、忘れました!』」
「もう数年も前のことですし」
「そんなことより、ご主人様の側にいることの方が大切です」
「何言ってるのですか」
「感謝するのはこっちの方ですよ」
「ご主人様は優しくて素敵なお人です」
「…………」
「いいですね!」
「また今度旅行に行きましょう」
「この前の温泉街も」
「とても楽しかったですから」
「場所は、ご主人様の好きなところがいいです」
「え、私の行きたいところ……」
「んー、綺麗な景色のあるところがいいですよね」
「ご友人の方々にもお土産をたくさん買いたいですし」
「……すぐには思いつかないみたいです」
「考えておきますね」
「…………」
「いえ、変なんかじゃないですよ?」
「ああ、もしかしたら寝不足なのかもしれません」
「『昨日、遅くまで読書をしてしまったのです』」
「悩みなんてありませんよ」
「無理もしていません」
「『大好きなご主人様といられて幸せです』」
「どうして、暗い表情をなさるんですか」
「…………!」
「時々、無理して笑っているように見えるのですか……」
「ご主人様はそんなことまで見てくださっているのですか……」
「私はもう幸せなのだからずっとそのままでいてほしい、と」
「もっと笑っていてほしい、と」
「そう言ってくださるのですね」
「本当にお優しい方ですね……」
「いえ!」
「これはご主人様には関係ないことなのです!」
「気にしなくていいのです!」
「だから」
「自白魔法など使わないでください!!」
「傷ついているなら、心を救いたいなど」
「そのような善意は求めていません!」
「まだ私が昔のことで苦しんでるとお思いなのでしょう!?」
「私の傷を癒してくれるおつもりなのでしょう!?」
「でも、そういうことではないのです!」
「だから、やめて!」
「うっ!うぁ……」
「…………」
「私は」
「悩みはありません、不安もありません」
「…………」
「感謝しています、満足しています」
「…………」
「愛して………」
「お慕いし……」
「幸せで……」
「…………」
「……私は、そんな顔をさせたいわけじゃなかった」
「ご主人様の望む笑顔を、言葉を差し上げていた」
「……それだけで」
「それだけでよかったではありませんか!」
次の日も、少女は同じように笑った。
朝には茶を淹れ、昼には庭の花を整え、夜には主人の寝室の灯りを消す。
何も変わらなかった。
ただ、主人だけが、その笑顔を見るたびに目を伏せるようになった。
少女はそれにも気づいていた。 だから、少しだけ明るく笑った。




