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記憶の保管庫

掲載日:2026/05/06

私は小説を書いているときに思う。

物語の人物はどうなるのだろうと。

生きていたら世界を選ばれ、

そしてバッドエンドに染まされる。

理不尽ではないのだろうか。

だってよ。

「やっぱり証拠のような物はないか」

「まったく、びっくりしたぜ。」

「急に記憶を探す手伝ってくれって言われたときは。」

「うん……」

「いつも通りだと思ったよ」

「誰が俺の頭が天然パーマだ」

「言ってねえよ」

「しっかし見つからないもんだな。」

「いや、父ちゃんが小説家だったこと、これでもいい収穫だ」

「何も知らないんだな、やっぱり」

「何にも教えてくれないんだよ、かーちゃんが。」

「まぁ、教えないっていうより、思い出したくないんだろうな」

そうなんだろう、きっと。

「それでもか」

「それでも探すのか。」

「ああ、絶対に見つける」

「そうか。見つけてどうする」

「どうもしない」

「いいや違うだろ」

「お前は見つけたらすぐに持っていくはずだ。」

「記憶の保管庫に。」

「あそこなら、記憶を追体験できる。」

「覚えてない部分まで、全部。」

「チィ……だからどうした。お前はやめるのか」

「やめねえよ」

「はぁ?」

「俺達は親友だろ」

「……そうか」

「そしたら口じゃなくて手を動かせる」

「へいへい」

記憶の保管庫は、静かだった。

音がない。

匂いもない。

ただ、並んでいる。

無数の記憶が。

「どれだろうな」

隣であいつが呟く。

軽い声。

いつも通りの距離。

「……これだ」

手が止まる。

理由は分からない。

でも分かる。

これだ。

触れる。

――流れ込んでくる。

知らないはずの光景。

知らないはずの時間。

なのに、

全部知っている。

笑い声。

食卓。

小さな手。

「ちゃんと食えよ」

聞いたことのない声。

でも、

知っている。

視点が揺れる。

これは――

俺じゃない。

違う。

違うのに、

分かる。

全部。

「……父ちゃん」

口から出た。

止められなかった。

記憶が途切れる。

現実に戻る。

「……おい、どうした」

声は同じだった。

同じはずなのに、

違うものにしか聞こえなかった。

顔も、声も、仕草も、

全部知っている。

「なあ」

近づいてくる。

逃げられない距離。

「……父ちゃん」

沈黙。

その一瞬が、やけに長い。

「……は?」

理解していない顔。

いや――

違う。

その間。

その目。

全部が演技、ずれている。

「お前」

喉が詰まる。

「誰だ」

一歩、下がる。

「あー、そこにあったんだ」

軽い声。

頭をかく。

その仕草すら、

“用意されたもの”みたいだった。

「やっぱりバレるか。仕方ないよな」

笑う。

「まったく、ここの技術は面倒だな」

空気が変わる。

「やっぱり止めるべきだったか」

ぶつぶつと、続ける。

「でもそうだよな」

顔を上げる。

「息子の頼みを無下にするなんて、普通に父親失格だよな」

言っている意味が、

分からない。

「だとしたら仕方ないことだった。そう捉えよう」

一人で納得したように頷く。

「お前は何がしたい」

声が出る。

震えている。

「そんなことよりさ」

肩を掴まれる。

逃げられない。

「ここの小説、見てよ」

無理やり、向けられる。

「俺はね、感動の物語とか好きでさ」

笑う。

「タイトルはクラーチェだってよ。いいよな」

頭が追いつかない。

「ここに来て一番良いと思えたのは小説だった」

「なぁ、そしたら母ちゃんは――」

「しー」

指が口に当てられる。

「今は父親と息子の会話。母は二番手だろ」

軽い声。

「……でもそうだね。一人で喋りすぎた」

手を離す。

「謝罪させてくれ」

深呼吸。

「はらふれほれふれパンナコッタ」

満足そうに頷く。

「よし、親子の喧嘩はここで終了だ」

意味が分からない。

全部。

何一つ、

理解できない。

「最後に一つ」

視線が合う。

「息子としての質問だ」

喉が乾く。

「うん、聞こうじゃないか」

「母ちゃんは悲しんでいた。それについてどう思った?」

一瞬。

本当に、一瞬だけ考える素振り。

「うーん」

首を傾げる。

「面倒だな、そう思った」

――そこで切れた。

気づいた時には、

体が動いていた。

蹴る。

そのまま、

押し込む。

「ここに入れてどうするんだい」

余裕の声。

「もしかして君の母親を思い出せって言うの?」

「違う」

息を吐く。

震えが止まらない。

「うーん、俺ならそうするけど。君、いや息子くんは違うのかい?」

笑っている。

まだ。

「俺ならこうする」

セットする。

震える手で。

「……俺の小説?」

「まさか」

「そうだよ」

見下ろす。

「そのまま」

言葉を区切る。

「自分の小説に溺れて死ね」

物語の人物はどうなるのだろう。

その答えを、

俺は知っている

最後まで読んでいただきありがとうございます。

この作品では、「物語の人物はどう扱われるのか」という理不尽さと、

それに対する一つの答えを書いてみました。

正しいとか間違いではなく、

そういう世界もあるかもしれない、くらいで受け取ってもらえたら嬉しいです。

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