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非論理の洗礼
レストランの照明は、私の計算通り「康子」の肌を最も美しく見せていた。しかし、テーブルを囲む女性たちの会話は、田町にとって毒ガスのようなものだったろう。
「……ケーキバイキング行っちゃったけど、メンタルケアだからノーカウントだよね」
「そうそう、わかるー」
田町の表情が、ファンデーションの下で微かに硬直するのを私は見逃さなかった。彼の脳内では今、摂取カロリーの不適切な収支報告書が乱舞しているはずだ。
「……そうですね。わかります、その気持ち」
必死に「康子」を演じる彼の正面には、工藤静江が座っていた。工藤建設の常務。田町にとっては、絶対に失うわけにいかない大口の「数字」そのものだ。
会話が最新の美容液から芸能人の不倫へと、脈絡なく転換していく。田町は借りてきた猫のように静止していた。私は、彼が移動の際に男性特有の「断定的な歩幅」を見せないよう、あらかじめ釘を刺しておいた。
『康介。座っている限りは完璧よ。だから、トイレ以外で絶対に席を立っちゃダメ』
彼は忠実な兵士のように、その命令を遂行していた。




