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物語1 通り過ぎる

お題:通り過ぎる

キーワード:水槽


2026年2月23日作成


 水族館のトンネル型の巨大水槽。まるで自分が海底にいるかのような、幻想的な空間だ。


 銀色に光る魚が群れを成して泳いだり、色鮮やかな魚が泳いでいったりする。横に目を向ければ、イソギンチャクやサンゴも息づいていた。

 光はおそらく人工のライトなのだが……まるで太陽の光が一筋の光となって降り注いでいるかのようできらびやかだ。


 巨大なエイが水槽を見下ろしながら悠々とダイナミックに、私たちの上を泳ぎ通り過ぎていく。


「うおー、すっげー!」


 声を上げる彼。しかし、感動は少しと言った程度なのだろう。通り過ぎるエイを、身体をぐるりと巡らせて見送っているが、その脚はトンネルの出口に向かって一歩二歩と後ろ向きでもしっかりと進んでいる。

 

 他にもいろんな魚がキラキラと光りながらトンネル型の水槽の上を泳ぎ通り過ぎていくのだが、あんまり見ていない。じっくりと足を止めて見ていってもいいのに、そんな様子はない。


 早くおいでよ、と笑っている通り、私たちは手を繋いでいない。トンネル型水槽の入口に私がいるのに対し、もう彼は半分以上先に行ってしまっている。せっかくの水族館デートだというのに。笑いかけている彼はまた一歩二歩と後ろ向きで水族館の出口に向かっている。


 ……さっさとこの水槽を通り過ぎたいのでしょうね。いえ、水槽どころか……早く水族館を出たいのでしょうね。

 あなたの腹は……デートコースはだいたい読めている。何度もデートしたから読めている。


 今は午後2時……お昼ご飯を食べた後の水族館のデートだ。その後は……"休憩"をしたいのでしょう? サービスタイムを考えたら、だいたいそれで夜の7時くらいまで過ごす。そうしたら夕食を食べて、お家まで送ってくれる……こうなのでしょう?

 サービスタイムだから、時間がしっかりと2時間と区切られるわけではなく、早く行けば行くほど"時間"を取ることができる。だから……あなたは早く、水族館を出たいのでしょう?


 先程のクリオネを見るときも、クラゲを見るときも、クマノミとイソギンチャクを見るときも、あなたは心ここにあらずと言った感じでずっとそわそわとしていた。


「どうしたー?」


 足を止めて私を待つ彼。けどその足はぱたぱたと、苛立たしげに床を叩いている。

 心の中を生温かい風が虚ろな音を立てて吹いて通り過ぎるのを感じながら……私はトンネル型の水槽に歩を進めるのであった。

 お題を確認した時は、相変わらずのツイッターの男女論争に辟易として、少しダウナーな状態でした。

 水槽を悠々と通り過ぎるエイの様子などはすぐに頭の中に思い描けたのですが……同時に「上手く行かないカップル」ってのを思いつき「セッ◯スがしたくてさっさと水族館を抜けてしまいたい男」と「それに気づいて心に虚ろな風が吹いている女」という「通り抜ける」の三点セットが思い浮かびました。

そんな作品です。


 スペースで発表された際の女性陣の男性への評価は非難轟々でしたw

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