筋肉は裏切らない…はずだ
「――フロント・ダブルバイセップス!」
眩しいライトに包まれ、会場がどよめく。 舞台の中央でポーズを決めているのは、行本魁人28歳。
十年間の努力で鍛え上げた身体は、間違いなく人生最高の仕上がりだった。
(今日こそ優勝だ! 俺の筋肉は裏切らない!)
審査員たちの厳しい視線さえ、今の魁人には心地よい。
その瞬間――
ズンッッ!!
体育館全体が揺れた。 ライトが明滅し、観客のざわめきは悲鳴に変わる。
「地震か!?」「天井が――!」
魁人が振り返ろうとした瞬間、視界が真っ白に弾けた。
――そして。
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「……え?」
気づくと、真っ白で果てのない空間に立っていた。
(俺……地震のがれきに巻き込まれた?) (いや、ケガも痛みもないし……夢?)
混乱する魁人の前で、ぽふっと白い煙が弾けた。
「……あわっ……あわわ……!?」
煙の中から現れたのは、小柄な少女だった。
ゆるい銀髪、頭上に淡く光る輪、小さな神官服。
どう見ても“神秘的な存在”――
だが、顔だけは真っ赤だった。
「な、なんで海パンなんですか!?
転生召喚は“正装”って神界規則に……!」
「いや、俺ボディビルの大会中で……これが正装…」
「大会!? なんの大会でそんな……そんな肌色面積で……っ!」
少女はぶんぶん手を振りながら叫ぶ。
「わ、私は! 新米転生女神のアステリア•ルミアと申します!
あなたを異世界に送り込むためにお迎えに……!」
(新米……だいぶテンパってるが、大丈夫か?)
ルミアは震える手で書類束をめくった。
「あなたを……世界を救う“勇者候補”として転生させる予定です!」
「俺、ボディビル大会の最中だったけど……」
「は、はい……す、すみません……予定の人選がゼロになってしまい……!」
「予定の人選?」
ルミアは涙声でゴニョゴニョと続ける。
「前に転生させた方々が……“自分たちは勇者だ”って調子に乗って……の最初のボスで全滅してしまい……」
「最初で?」
「……はい……」
ルミアは肩を落とした。
「だから……あなたが最後の希望なんです!」
ルミアは、海パン姿の魁人をじぃっと見て……
「で、でも! あなた……その……筋肉がすごいので……!
魔法が使えなくても、体でなんとか――いえ、たぶん、きっと……!」
「ちょっと待て、俺、魔法が使えない世界に行くのか?」
「いえ、“魔法が使えない人が珍しい世界”に行きます!」
「おまえ今すごい情報さらっと言ったな」
(異世界に転生したら魔法世界で魔法使いたいよな…)
ルミアは両手を胸の前でぎゅっと握りしめ、今にも泣きそうに言った。
「どうか……異世界を救ってください……!
あなたが失敗したら、わたし……本当にクビなので……!」
「そこなんだな、一番の理由」
ツッコミながらも――
必死に頭を下げる少女に、魁人の胸がぐっとなる。
(こんなに頼まれたら……断れないだろ)
「……わかった。やるよ。やってみる」
ルミアの目がぱぁっと輝いた。
「ほ、本当ですか!?
筋肉の人、最高です!!」
「筋肉の人って呼び方よ」
「では! 転生準備を開始します!
海パンのまま行くことだけは……もうどうにもできません!」
「いやせめて布を――」
言い終わる前に、白い光が魁人を包む。
光の向こうで、ルミアが穏やかに笑った。
「行ってらっしゃい……あなたが最後の希望です……!」
その瞬間だけは、本当に“女神”の顔だった。
(筋肉は裏切らない。
なら……異世界でも、きっと戦える!)
魁人は拳を握った。
――次に目を開けたとき。
そこは海パン一丁で放り出される、魔法と危険が渦巻く世界だった。
第1話を読んでくださりありがとうございました。
魁人の海パン姿と女神リュミナのテンパり具合で、少しでも笑ってもらえたら嬉しいです。
この後、異世界での生活が本格的に始まります。
筋肉と魔法のちょっと変わった組み合わせがどう展開するか、次回もお楽しみに!




