4話『おもしれーデート②』
水族館デートに引き続き、ダブルデートをすることにした俺達四人は、女子の意向で服屋に来ていた。
ショッピングモールの一角にあるこのブティックだが、つい数分前から黄色い声が絶えず響き渡っている。
何を隠そうその原因は……
「ねー真奈、これよくない?」
「えー! めっちゃ可愛い!」
「だよねー!」
「うんっ! 絶対似合うよ!」
服を見て燥いでいる茜と真奈だ。
それを俺達男二人は死んだ目で、店内にある椅子に座りながら眺めている。
「なぁ誠……俺、めっちゃ嫌な予感するんだけど……」
「やっぱりツムツムもそう思う?」
「うん……」
「最悪なことに僕もだよ……」
「「お家に帰りたい……」」
ギロリと、目を光らせた女子二人。獲物を見つけたハイエナの様に彼女等は、それぞれ俺と誠のことを凝視する。
「ぐへへへ……待っててねぇ……誠ちゃ~ん……ぐへへ」
「えへへへ……楽しみだなぁ……紡も楽しみだよねぇ?」
「「ヒェッ!」」
女子二人が女物の服を両手に、此方へ詰め寄って来る。
その威圧的な眼差しに、誇り高きオスである筈の俺達は揃いも揃って、情けない悲鳴を出してしまった。
「僕を食べても美味しくないよ……(ガクブル)」
「お、俺だって美味しくないぞ……(ガクブル)」
青白い表情で互いの指を絡め、頬をくっ付ける。ガクガクブルブルと、身体が震えて止まらない……。
まるで肉食獣の巣に放り出された羊のよう。そうか、俺達は羊で、ここは肉食獣の巣だったのか……(名推理)。
「はぁ……はぁ……はぁ……誠君を食べるなんて、そんなエッチなことしないでしゅよぉ……じゅるり……」
「そうだよぉ? 紡を食べるのは結婚して、それなりの貯金が出来てから、それから……それから……じゅるり……」
「「ひぃいいいいいいいいいいい!」」
口からドバドバと滴り落ちるヨダレ。正気の沙汰とは思えない目、そして発言。
コイツら、ガチでヤバいって! そこら辺のB級ホラーよりホラーしてるってマジで!!
いたいけな子羊である俺達はただ、そうやって戦慄し、怯えることしか出来なかった……。
「「それじゃあ、いただきますっ♡」」
「「い、いやぁああああああああああああ!!」」
―――
あの惨劇から大体数分後。
俺達男は、女になっていた。
「紡ちゃんは凄く美人で、私、嫉妬しちゃう♡」
俺は今、ストレートのウィッグ、白のセーター、黒のデニムパンツを装着してる。
その姿を更衣室の鏡で見たが、何とも言い難い。
俺は男であると信じているのだが、本当は女なのかも知れない。そう思える程に、容姿が綺麗だったのだ。
「キャー! 誠ちゃん、かーわーいーいー♡」
誠は今、持ち前のメガネ、ボブのウィッグ、ブラウンのワンピース、長袖のトップス、スカートを装着してる。
その姿を横目でチラッと見たが、元々可愛らしい中性的な顔をしているからか、凄く様になってた……。
誠……お前、本当に男だよな?
そんなことを思いながらも俺は……いや、俺達は、女子二人の称賛に、満更でも無く頬を赤らめている。
「「えへへ……そうかなぁ……?」」
男の身でありながら女装をし、あまつさえ両手を頬に添えてクネクネしたり、腰の前で手をモジモジさせるなど。
俺達は誇り高き男、失格である。──くっ、殺せ!
「てか誠、お前可愛いな?」
((紡の心)えっ、ちょっ……俺、何を言っているの!?)
((誠の心)え、えぇーーーーっ?! ちょっ、何言ってるんだよツムツム!!!)
「そーゆーツムツムこそ、僕好みの美人なんだが……?」
(((二人の心))は、はぁあああああああああ!!!!??)
勝手に自爆して口滑らせて悶絶する男二人。
女子二人はその光景を顔に影をつけながら、ただ呆然と見ているだけだった。
「ま、まぁ……? ぼ、僕の方が可愛いけどねぇー?」
「ふ……ふーん……? そこまで言うなら、どっちのが可愛いか勝負するかぁ……?」
「良いともさ! ツムツムをメロメロにして、僕のが可愛いって言わせてやるよ!!」
「おっ、俺だって!!」
「「ふんっ!!」」
ぷいっと互いから顔を背く。この時の俺達は既に止まれないレベルまで、脳のアクセルが全開に踏まれていた。
あーもうっ! なるようになれぇえええ!!!
変な高揚感に身を包まれ、脳死状態になった俺達を見た女子二人は、同じ言葉を口にした。
「私の紡が誠に……」
「私の誠がツムツムに……」
「「NTRれたぁああああああああ!!!!!」」
こうして女装対決をした男二人は、どんどんヤケクソになっていき、遂にはブラを付けるところまでいった。
「ふふぅん! 俺なんて、こんな大人っぽいブラ似合うもんねぇだぁ!(赤と黒のブラを手に持って)」
「なによー! それじゃあ僕は、こんな可愛いブラが似合うんだからなぁ!(白とピンクのブラを手に持って)」
「「ぐぬぬぬぬぬぬ……!」」
((こうなるなら、女装させるんじゃなかった……))
ちなみにだが、試着した服はちゃんと、全部自腹で買った男二人であった。
「「『俺・僕』の馬鹿ヤローーーッ!!!」」