1話『おもしれー壁ドン』
四月五日。桜の花弁が舞うこの季節に、俺達は、高校生という新たな第一歩を踏み締めた。
今までの常識が通用しない環境。そして、顔も見たことないような人達ばかりの坩堝。
そんな未知に不安心を駆られながらも、まだ見ぬ青春の一ページに思いを馳せ、高校生活を満喫していた。
◆◆◆
俺、佐藤紡は、普通の高校生だ。
容姿、普通(に良い)。学力、普通(に高い)。運動、普通(に凄い)。
そんな普通の俺は今、教室帰りの廊下を、幼馴染の茜と歩いて居た。
「なぁ茜……今日ってさ校長と教頭が、卒アルの為に写真撮りに来るんだよね?」
俺は後頭部で腕を組みながら、茜に話しかけた。
茜の本名は高橋茜、幼稚園の頃からの幼馴染だ。
容姿端麗で運動神経抜群、そしてコミュ強。だけど勉強は出来ないし、大の怖がりだったりする。
そんな……何処か残念だけど、誰にも優しくてそれでいて可愛いのが、茜の良さであり魅力だ。
「うんっ、だから私ね! さっき髪整えて来た!!」
茜は手鏡と櫛をポケットから取り出すと、胸の前でクロスするように見せて来た。
ニコニコと笑みを浮かべる茜が、いじらしくて可愛い。
「どう? 似合ってる?」
これは俺の持論なのだが、男であればオシャレに努力する女子を、褒めて然るべきだと思う。
だからこそ俺は廊下を歩みながらも、茜のシンデレラバストと頭を、ジックリと見るのだ。
決して、いやらしい意味など無い。
「うん、めっちゃ似合ってる。すげぇ可愛いよ」
ヨシッ!これで良い………………っ?
──ドオオオオオンッッッッ!!!
「グハッ!!!!!」
何だ!何が起こった!?いや待て、冷静になれ。冷静になって、今の現状を整理するんだ。
まずは身体が凄く痛い……そして、俺の身体が学校の壁にめり込んでいる……と。
つまり俺は・・・凄まじい衝撃と共に、壁にめり込まされたってコトォ!?
「くっ……誰がこんなことを……大丈夫か、茜・・・?」
そのときの俺は・・・到底信じられないであろう、悲しい現実を目の当たりにした。
例えるならそう……宇宙人とか、人語を話す動物とか、プ〇キュアのコスプレをしてる中年男性とか……。
そのくらいに、信じられないモノを見たのだ。
では、俺の視界に映ったモノは何なのか?
その答えは……頬赤くしながら目を瞑り、何かを殴った様なポーズをしている、幼馴染の照れ姿だった。
「あのー茜さんや……その人を殴った様なポーズは?」
指摘された茜は、目を開け俺の惨状を見ると、おもむろに動揺してみせた。
「ややややややいや~んだなぁ……わわわわわわ私が、殴るわわわわわわ訳なななななな無いじゃ~ん」
冷や汗をポツリと垂らす茜は、目をキョロキョロさせ、あははと笑った。
その情報を脳で処理した俺は、壁にめり込んだ身体を気合いで起き上げ、ツッコミを入れる。
「いやーんって何だよ! しかも動揺し過ぎ!!」
「そそそそそ……そんなことないもん……」
(か、可愛い……)
手を腹の前でモジモジさせる茜。
俺がその姿にキュンとしていると、何処からか黄色い声が聞こえて来た。
『きゃーーーーーー!』
俺達は声の方を見る。
そこには、人溜まりが出来ていた。
何がなにか、全く見えない。
「何が起こったんだろ?」
「さぁ……? でも面白そうだし、見に行こーぜ!」
茜の手を取り、面白そうな方へと駆け抜ける。
人混みを掻き分け、その中心に、とある男女を見た。
その男女はメガネを頭の上に掛け、男の方が校長を、女の方が教頭を、ほんの間近で睨み付けている。
目を細め、眉間に皺を寄せる二人。顔と顔がぶつかりそうな距離感。この空間に、静寂が訪れていた。
「誠……」
俺は、校長(︎︎︎︎♀)を壁に押し寄せ、がんを付けている男の方の名前を呟いた。
「真奈……」
茜は、教頭(♂)を壁に押し寄せ、がんを付けている女の方の名前を呟いた。
そうして俺達は、声を揃えて胸の内を曝け出す。
「「なにやってんだ?!」」
困惑と疑問。
友が行っている蛮行に対する困惑。そして、何故そんなことをしているのかに対する疑問。
それらが二人の顔を、見せられないよ!状態に変え、それ程までに愕然とさせた。
しかし、二人は知っている。この約一週間と言う、青春の尊き日々を積み重ね、既に知ってしまっていた。
この二人は、こんなもんじゃないと。
嗚呼、神様は意地悪だ。
何を隠そう神は、この場で卓越した存在感を放つこの男女のペアを、同じ星の元へと産み落としたのだから。
──ドンッッ!
誠と真奈と呼ばれた男女が、それぞれ壁ドンをした。
勿論、相手は校長と教頭に、だ。
凛々しく、それでいて華やかに壁ドンをした二人は、若者らしい雄々しさで告白をする。
「「好きだ」」
『……………………』
これを見ている者は反応が出来なかった。みな同様に阿呆らしく口を開け、唖然とするのみ。
校長と教頭に至っては、黒の方が少ない白髪の年寄りなのにも関わらず、年甲斐なく頬を赤らめている。
『『ぽっ……』』
──『ぽ』じゃねーよっっっ!!!!!!!!!
誰しもが、現状に卒倒しツッコミを入れた。それはもう夏祭りの花火大会並に盛大に、だ。
しかも、キリッとした目で見つめる誠と真奈に、校長と教頭が目をハートにする始末。
ハッキリ言おう、終わってる。
光景がキモすぎて、隣で俺の手を繋いでいる茜が、乙女と思えない、モンクの叫び、みたいな顔してるもん。
「きしゃああああああっっっっ!!!」みたいな音も、空耳なのか何処からともなく聞こえてくるし……。
それくらいに、薔薇が咲き乱れている様に錯覚する生徒が先生に壁ドンが、酷いということだ。
だがしかし、俺と茜には予言、いや、期待がある。
この気持ち悪い絵面に、二人が終止符を打ってくれるという期待が。笑いに変えてくれるという期待が。
だから俺達は待った。首筋に汗を滴らせながら、そのときが来るまで。
そして、そのときが来た。
壁ドンをして『好きだ』と宣ってから、約十秒の時を経て遂に終わりが来た。
そう、それは・・・
「大好きだ、真奈っ!」
と、眼鏡を付けてない誠が言った。
「大好きよ、誠っ!」
と、眼鏡を付けてない真奈が言った。
『…………………………』
って・・・
「「『彼女・彼氏』を! 間違えるなああああ!!!」」
「「いっっでぇええええええええ!!!!!!!!!」」
このとき、俺と茜の拳が炸裂していた。
「「『ワシ・私』じゃないのおおおおお!!!???」」
◆◆◆
【番外編】
学校の廊下を往く俺達四人は、会話を弾ませていた。
「てかよく、付き合ってる相手を見間違ったな……しかも年寄りの校長と教頭で……」
「ホントだよ!! 信じらんない!!」
「ハハハ!! いや何て言うかさ、未来の真奈が見えた気がしてさ。幸せに歳を重ねてる僕達が……ね。そしたら、この想いを告げずにいられなかったんだよ……」
「私もよ、誠……」
「何だって!? それじゃあ運命じゃないか!!」
「誠……しゅき……」
「真奈……しゅき……」
「「おぇええええええええええええええ…………」」
手を取って見つめ合い、自分達だけの世界へと入った。
そんな二人を見ていた俺達は毒され、体内に蓄積された悪エネルギーを解毒ため、精一杯に吐くマネをした。
「そんなことよりさ、二人」
「ん? どうした、紡?」
「どうしたのよ、紡?」
俺の言葉に二人は反応し、コチラへと視線を向ける。
「いやさ、確か二人共が学年首席だったじゃん?」
「まぁ……そうね?」
「それがどうかしたのか?」
「いや……一体入試で、何点取ったのかなって?」
「あーそれ、私も気になる!」
「だろー?」
二人は一瞬だけ互いの顔を見て、目をパチクリさせる。
そして二人は、何の感情も無く言い放ったのだ。
「「え? 満点だけど?」」
「「……………………は?」」
これは、勉強の出来るガチヤバいバカップルと、そのボケに振り回される二人の男女の物語だ。
「「コイツら、よく蛙化しないよな……」」