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カルテの記憶  作者: 子見
13/20

第十三章 ーーーデジタル生命線ーーー

 土曜夕方の高速道路は上りよりも下りは空いていた。


 朝はいつもその逆になる、週末の混雑予想のピークは19時頃だろうと頭をかすめながらハンドルを握る


 右側は緑が生い茂り、なにも代わり映えしない風景がフラッシュのように続いている…

 一つ目のトンネルを抜けると左側は遠くに海が見え始め、富高の煙突がその奥へ微かに見える


緩く湾曲している海岸線をなぞりながら思い出も蘇る気分だった…


「この・けしきも・・さいごに・なるかな・・えんとつ・が・いとしく・みえる」


「うん・・」


車は左車線を邪魔にならないように、自動運転システムで走り続ける――

「かみちゃんの・じょしゅ・せき・・なつかしい・・」


「歳取ったよね・」

初心者マークが頭に浮かんだ…


――富高ICを通り過ぎ、また一つ長いトンネルを抜けると、更に大きな海が広がった


 桜エビ漁の小さな漁船が早朝の漁を終えて規則正しく整列し、大きなタンカーが水平線でボヤけている


 今まで何度となく見てきた景色が新鮮に感じる反面、これから何度も見れるはずの景色が俺自身にも見納めにするような気分になった。


「かみちゃ・ゴホッ・・・どこ・むかっ…てる・・?」

(話すのも辛そうだ)


「フレンチ・・それだけでわかるでしょ?」

美紀が躊躇する表情を零す…

辛い思いをさせる前に俺は話を続けた。


「あぁ――わかってる!そのために、上に羽織れる服も持ってきたし、食欲がないのもわかってる、店には事情を説明してあるし、ただ少し気分転換ができればと思ってしたことだから・・他のお客さんには見られないように配慮して欲しいってお願いもしてあるよ」


これだけ説明しても、不安そうな美紀の表情を感じたが、最期まで女性でありたいという美紀のプライドを俺なりに配慮した。


「まだ夜景には早すぎるし、とりあえず向かうよ」



―――――――――

 ル・アーブルに到着して、トランクから車椅子を出した。排尿バックには大きなバスタオルをかけて周囲からはひざ掛けになるよう模造した。

 

 高野看護師に渡された上着を美紀に羽織らせ、車椅子だけが隠せていないように一美は感じていたが、それでも美紀は化粧では隠し切れない自分の顔色を気にしていた。


 今の状態を世間に晒すこと事態が女性として許せない様子で、こんなにも弱っていても女性であり続ける美紀の姿に・・・俺は・・・・


―――――扉を開けて待ち構えていた大きな絵画は、当時から変わっていない。


「黒川様・・いつもご利用して頂き誠にありがとうございます。事前のご連絡の内容は承知しております。ご案内いたします。」


 老舗の高級フレンチの店員の気遣いにも目を見張るものを感じた。店内には俺たち二人だけかと思うほど、すんなりと個室に案内された。


「懐かしいね・・おぼえてる?」

「う・ん・かみ・ちゃん・はやぐい・してた」

やっと美紀の表情が和らいだ。


・・・俺は注文を事前にしておいた。

 内容は高野看護師に相談した内容をそのまま店にお願いをした。

(わかりました、アレルギー等、他に配慮すべきことは御座いますか?)

と、これも頼もしい返事が返ってきた。


 ソースはムース状にしてくれて、白身魚をメインにした、食べやすく消化しやすいメニューでも美紀はほとんど口にできず、また当時のように美紀の食の細さを、俺も助けることはできなくなっていた。


「俺も食べられなくなったな・・」


「ありがと・こんな・ことまで・してくれて・・」


「いや、俺にはこんなことしか思いつかなくて、なにもしてあげられなくて、ごめん」


「かみちゃん・らしく・て・うれし・い・よ・」


「俺さ・・・俺はあの時、幼すぎた。今もまだ・・・あの時、俺は美紀ちゃんを納得させる男じゃなかった・・・それでどれだけ苦労かけさせてしまったのか・・本当に申し訳ない」


深々と頭を下げて、しばらくその姿勢のまま顔を上げられなかった。

・・・・・・

「まだ・・わかって・くれて・ないんだな・・」

顔を上げて美紀の顔を見ながら質問の様に


「わからないよ」


「わたしの・じん・せい・すごく・しあわせ・だった・・かみちゃんのおかげ・・」


「俺は美紀ちゃんに迷惑しかかけてないよ!」

弱弱しい美紀に発する声にしては強すぎた。


・美紀は何も動じない・・・・

「わたしの・じこせ・きにん・・そして・愛した・ひとの・こどもを・さずか・って・そだてるこ・とが・できたん・だよ・すごく・しあわせ・・」


「・・・・・」

俺は何も言えなかった。


「おとこの・かみちゃん・に・は・わからない・・かもね」笑みを浮かべているが、その笑みの意味もわからない


俺に気遣って発した言葉ではなく、心からそう言っていると感じ取れたが、それでも俺は受け入れることはできなかった。


「きょうは・ちゃん・と・やけい・みせてくれ・る?」

弱々しかったが美紀の挑戦的な目も懐かしい。

―――――――――――――――


 店を出る時には、店員に深々と頭を下げ

(会社の部下を連れて、改めて楽しませて頂きます。)

とお礼を伝えた。


不安だった乗車も3回目で慣れた。


 店を出たのは19時を少し回った時だった。周囲は暗くなり、雲の隙間から月が覗き始めていた、一抹の不安もあったが、今日の夜景に期待が持てた。


 野手山には、あれから一人でも行くような場所になっていて、今度は自信のあるハンドルを握った。


助手席に座る美紀の横顔が嬉しそうなだけじゃない表情が忘れられない。

――――山の中腹まで、無事にたどり着いた。

「これ・のぼった・さきに・みえるのかな?」


「うん、かなり急に上るから、見晴らしが良いんだろうね………あれから……一人でも良く来るんだよ」


「そう・なんだ・・」


――そうしてるうちに木々の隙間から見える遠くの夜景が少しづつ漏れ始め美紀の視界にも入った。


「あ・すごく・きれい・かも・・」

期待している表情の奥にどうしても悲しさを感じる。


―――急な右のカーブから、今までで一番急な上り坂は、ウィンドガラスからは空しか見えなくなり、ボンネットと水平に駐車場が見え始め、そのまま車を押し上げた。


 一気に視界が広がり、そこには、俺も今まで見たことのない、遠くまで空気が澄んだ綺麗な夜景が広がっていた。


・・・この季節では珍しく奇跡的にも感じた。


 この夜景を見せることができた安堵感、そして達成感、この時、俺もはじめて寂しさを感じた。


美紀ちゃんはこの寂しさを予想していたのか?


怖くて確認できなかった。


「やっと・・たどりついた・ね・」


「何年越しだろ」

はにかみながら美紀の顔を覗いた。


美紀は真っ直ぐと遠く…夜景よりも遠くを見ているかのようだった


・・・しばらく二人は無言のまま、今までの想い出をなぞり、美紀は人生も振り返った。


「・・これ・・うけとって・ほしい・な・・」

そう言って美紀が差し出してきたものは、あのシルバーのリングだった。俺はそれを受け取り、強く握りしめてから、長い年月を感じさせる細かい傷を一本、一本、確認しながら眺めた。

――「じゃ俺からも」 

 ネクタイを緩め、ワイシャツの襟からネックレスを引っ張り出す。


 ネックレスには、あの時のリングが通されていた


「かみちゃん・も・もって・たんだ」

「指にはできなかったんだけど、あれからずっとね・・」


 美紀は、ネックレスから外した指輪を一美から渡されると親指に通した。

 俺は、改めてネックレスに付け替え、ワイシャツの奥に納めた。


―――


一美が今まで指輪を通したネックレスを付け続けていた理由は・・・ただ…美紀を忘れることができなかったからなのか・・・それとも・・・


小さな溜息を美紀が漏らす――


「もう・おもいのこす・こ・とない・な・・」

美紀の表情から寂しさが薄らいだ


・・その表情を見て、俺の左手は無意識に美紀ちゃんの手の上に置いていた、細く冷たい温度を感じながら、右手は頬の熱も確かめた。時代や年齢、立場と状況・・なにもかもを忘れ去り、あの頃の感情だけに戻され二人は重なった

―――――――――――


 帰り道になった来た道を戻ると、美紀が感じていた寂しさの原因がはっきりと理解できた


 車のナビゲーションシステムが、21時を過ぎたことを標している…夜道でも遅れそうだが時間はいつもより早い…


 トイレに寄りたい事を理由にコンビニに立ち寄り高野看護師に電話を入れた


 22時30分には戻ると伝えると、美紀に対する心配と確認を入念にされたが(お気をつけて)というあっさりとした返答で一安心した


―――高速に入ると、美紀ちゃんは助手席からの黒い緑の山を眺めて無言でいた。

何を考えているのか俺には全くわからなかった。


――トンネルと沈黙を二人が潜り抜ける。

「わたし・との・約束・・ちゃん・と・まもっ・てね」


念を押された。


「うん」

「おくさんの・こと・しあわせに・しない・と」

「あぁ・・わかってる」


やはり母子のような関係は変わらなかった。


「きょうは・ほんとうに・ありが・とう・こころから・感謝・してい・ます」


「こちらこそ、感謝しかないよ。美紀ちゃんが心配するようなことないから、これからの俺の人生、ちゃんと言われた通りやってみるから」


…俺は前を向いていた。


美紀にできることは


今を安心させて、そして約束を守ることしかない



 ICにたどり着き高速から二人はループしながらETCを通り過ぎる。

ゆっくりとしたループに合わせて気持ちも切り替わっていった。


病院はここから5分で到着する。


時間は22時16分、タイムリミットは過ぎていたが、約束は守ることができた…


 高野看護師に電話を入れ、病院の敷地に入って行く、寂しさの覚悟は二人ともしていた。

 玄関前のロータリーに車を付けると、高野看護師ともう一人の看護師が待機していてくれた。


「申し訳ありません、少し遅れてしまいましたが、特に変わったことはなかったと思います。ですが・・本人は僕に不調を言わない性格なので、それが心配です。」


「だい・じょうぶ・ほんとう・に・かわった・こと・ないよ・・」


「美紀さん、どうだった?楽しかった?」


「うん・とっても・もう・・くいは・ないです・いろいろ・ごめい・わくかけて・すみま・せん・・・・たかのさん・・ありがとう・・」


 高野看護師は、美紀の肩をさすりながら満面の笑みで応えていた。


「じゃ・・美紀ちゃん、また明日も来るから、今日はゆっくり休んで」


・・・「うん・あり・がと・・きをつ・けて・かえって・・」


 高野看護師に、改めて御礼を伝え美紀が見えなくなるまで見送った―――




 美紀ちゃんが見えなくなると俺の全身は一気に力が抜け、誰もいないロータリーで立ち尽くしていた、立っているのも辛いほど、全てが抜け出していった。


――遠くに救急車のサイレンが聞こえてきた、車のボディに垂れ下がる様に運転席へ滑り落ちた、とりあえず邪魔にならない所へ車を動かそうとヘッドライトを付ける。


・・・さっきまで美紀が座っていた助手席をゆっくりと眺めてから、ヘッドライトが照らす先に目を向ける。


その瞬間、俺は衝撃と共に目を見開いて硬直した。


――――


一人の女性がヘッドライトに照らされて、こちらを向いて立っていたからだ。


 俺はその女性を凝視したのは、ほんの数秒だと思う、しかし物凄く長い時間に感じた。


――――そして確信した。

ヘッドライトを消して、車から降りる。


「こんばんは・・」

声はかけてみたが、その先の言葉に詰まりそうになった瞬間に、その女性が口を開く。




「母がお世話になりました。」

黒のロングスカートが似合う全体のスタイルと、整っている顔立ちだけでは出すことのできない凛とした力強さ、そして明らかに頭が切れそうな目の奥に美紀の存在を感じた。

・・・・・

「あっ…あなたは…直美さんですか?」



「やはり聞いていましたか・・はじめまして、私は母からあなたの存在を知らされていませんでした、でも母にとってあなたが、特別な存在であることを、最近気づきました。」


・・・この言葉で、さらに先の事も確信した!

咄嗟に言葉が出る!

「申し訳ない!!」


頭を下げようとした瞬間に直美は鋭く切り返す!

「やめてくださ!!・・・・赤の他人に・・・いきなり謝られる覚えはありません!!……母がお世話になった・・・それだけです・・・」


 二人の大きな声は、暗く広い病院の敷地に吸い込まれ、そこには只二人だけの空間であることを明らかにした


暗く広く2人だけの空間は、なぜか勢いに拍車をかけた


「私は・・・母に育てられた女です。母の気持ちも・・・女性としての気持ちも・・・わかっているつもりです。」


俺はその言葉を聞いて声をかけようとしたが、直美は止まらなかった。


「だけど!・・どうしても整理できないんです。」



「辛い思いをさせて・・申し訳ない・・俺が全て悪かった。・・・美紀・・お母さんは、本当に立派な方です。」


「母が私とあなたが会わないようにしていたことは察していました。外出することを聞いて、勝手に駆けつけてしまいました・・会うべきなのか悩みましたけど・・・母にはこの事、秘密にしておいて下さい。」


「わかりました。・・これ・・・・・・受け取ってくれませんか?」

名刺の裏に携帯の番号を書き、直美に差し出した。


「受け取りはしますけど、私から電話をすることはないと思いますよ。」


 一美が頭を下げると、一美をそのままにして直美は駐車場へ向かっていった、暗闇を微かな電灯で照らし、その先へ消えていく。そのまま直美が向かった先を眺めているとたくさん並んだ車の一つにヘッドライトが点灯した。


 車は俺の前に向かってきたが、直美は俺の方を見ることなく通り過ぎていった。


 車が敷地外へ出ていく事を確認すると、俺はその場にしゃがみこんだままになっていた。

――――――――――――――

ICまで車を走らせ、ETCを通過する、走行車線に入った・・

・・・はずだ・・・・俺の意識が戻った。

・・・いつ、どのようにここまでたどり着いたのかもわからない程、無意識にトンネルを迎えていた。


 時計を見ると0時を過ぎていた、トンネルを通り過ぎると異世界からの帰還のように、遠くに見える富高の夜景が別の時代にタイムスリップしたかのような、知らない場所に見えた。

――――――――――――――

・・・・その日は自宅に帰らなかった・・と言うよりも帰れなかった・・・泊りで出張と前もって言っていたことも理由の一つだが、そうでなくても、とても自宅に帰る気分ではなく、出張と言って出たことに安心さえしていた。


 途中、コンビニによりペットボトルを2本カゴに入れ、タバコを店員にお願いした。



 それから美紀と走った高速道路よりも海に近い、防波堤沿いの一般道からヘッドライトで海を照らした。


この光は、野手山から見えるのか気になった・・・



 そんな上の空の状態で、

(今日はありがとうございました、無事に病院に送りました)と真也君にアプリでメッセージを送った。


 それをなんとかやり遂げると今までに感じた事のない脱力感に襲われた。



・・・思考は働かず、タバコに火をつけて朝日を迎える。


――――朝日を迎えたばかりの一美は更に夕方まで時間を潰す覚悟をしていた。



しかし、それは8時頃、美紀からアプリで、直美が夕方までいる事を知らされたからだ、そして珍しく改めて追筆された言葉が気になった。



(かみちゃんの幸せを、心から祈っています。)


 この時、食欲などあろうはずもなく、防波堤から永遠と波を見ているだけだったと思う・・



―――そして鳴らない筈の電話が鳴った・・・



 登録されていない番号が長くコールされ、その時点で何かを察知した。


・・・直美から美紀が急変して亡くなった事を知らされたのは15時頃だったと思う・・・


亡くなったのは9時頃だったらしい・・直美はその場に立ち会い、昼過ぎには葬儀屋の手配までを済ませ、それから俺に連絡を入れるかどうかを悩んでいたのかもしれない。



 美紀に育てられた看護師の直美は電話でも冷静で気丈のままだった。


「母はあなたに葬儀へ来て欲しいなんて言わない・・・でも私があなたを呼ぶことは・・・喜ぶかもしれない・・・そう考えただけです。全ては母の為ですから。」

そう告げられ、葬儀の日時をメモした。


――ここから先の記憶は更に曖昧だ・・・

葬儀に出席をしたことは覚えている・・・


 美紀は最後に見た時よりも綺麗に化粧をしていた。


 受け入れることを更に難しくさせた、組まれた手の親指に付けられたままになっていたシルバーのリングを、俺は長い時間、眺めていた。



棺桶で遮られた空間が永遠に感じる。


――――――――――――


直美の隣にいる堂々と喪章をつけた男性がおそらく清太君だろう・・幼少期から父親の練習をしていたのかもしれない。


隣にいる女性と、その子供・・


どこか雅之の雰囲気を感じたのは、置かれた境遇がそうさせたのか・・・


――俺の事に気付かないのか・・それとも気付かない振りなのか、知人として処理されたことに安心してしまった。


――――直美には声はかけずに、深々と頭を下げた。


美紀の希望で、家族葬で行われた葬儀であったにもかかわらず、火葬から納骨まで直美の配慮で参列することができたのは感謝しきれない。


 墓石の近くに桜の木があることが目に留まった。


もう桜はだいぶ前に散り、青々とした葉が風で揺れている。


「精神美・・優美な女性」

誰かに聞いた桜の花言葉――――



    美紀は逝った。


・・・・・・・・・・・・・・・

葬式・・・葬式の記憶は鮮明だ・・・

俺には大切な人を見送る辛さが深く刻まれている。


――俺は約束を果たすため、身も心も家族の元に帰ることにした。


しかし、そこで既に失っていた事に気付いた・・・・


・・・良子はもう、そこにはいなかった…


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 現在、ベッドに寝かされ続けていた一美へ、ついにモニターが付けられた。


 一美の心臓の波形を規則正しい電子的な音は周囲にまだ生きている事だけを伝えている。――――


 モニターの小さな画面に映し出されているのは、血圧、体温、脈拍、呼吸、血中酸素飽和度、専門家が見れば一目でわかるようになっているものだが、どれか一つでも異常数値になれば規則正しい電子音が、誰が聞いてもわかるような危険を知らせる音に変わる機械だ、今はまだその危険を知らせる音は鳴っていない。


――あれから良子を探し続けたのは言うまでもない、俺は必死に取り戻そうとした。


 実家・友人・職場・あらゆる場所を探したが周囲からの反応は冷めたものだった。


 当たり前だ・・・俺がしたことは許されることではない。



――雅之と会ったのはいつが最後だったのだろう・・洋助との記憶も曖昧だ・・


・・俺には、この頃からの記憶が抜け落ちている・・・

どこにでもある家庭・・・特別ではないがマンネリ化した夫婦関係は、俺を盲目にさせて失ってから気付く愚かな男であるという自責の念だけが深く刻まれた。


そして・・あれは・・確か・仏壇の前だった・・・神頼みでもするかのように、罪悪感や後悔、悔いても悔やみきれない想いで涙を流しながら良子の名を叫んだ・・・



そんな俺に和也が・・・

「そんな事したって!母さんは戻らないよ!」


和也は涙を堪えながら叫んだ。


これが止めになって、俺は・・・・


・・・・・俺を終わらせることにしたんだ…


ここまで読んでいただき有難うございます。

物語は、中盤を終え、これから最終章にむけてできるだけ早く投稿していきたいと思っております。

最終章までまた長くなりますが、見届けて欲しいと思っております。

宜しくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[一言] ちょっと…… 涙が止まりません。 人生とは斯様に厳しいものだと 知っているつもりなのですが…… やっぱり止まりません(^^;)
[一言] 私もシングルなので共感する事が多くありました 楽しくも、色々と考えさせられる内容でした。 後半はより深い内容で何度も読み返してしまいました。 ありがとうございました
2024/08/14 23:44 退会済み
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