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あなたは優しい嘘を吐いた  作者: おのまとぺ
最終章 王都サングリフォンの龍
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63 家族のかたち




「プラムー!パパを起こして!遅刻しちゃうわ」


 フライパンを片手に声を掛けると、すっかりお姉さんらしい顔付きになった娘はとてとてと寝室の方へ駆けて行く。その後ろ姿を見送って、テーブルの上に並ぶ三枚の皿に目玉焼きとベーコンを盛り付けた。


 丸いガラスのボールにはこんもりとサラダが山を作っている。フィリップは最近家庭菜園を始めたらしく、昨日も大きな人参をたくさんくれた。



「………腰が痛い」


 ズンと沈んだ声に私は振り返る。

 欠伸を噛み殺しながらフランが部屋に入って来たところだった。その腕にはプラムがぶら下がっている。


「パパ、ママとねるようになってからダメ!朝おきるのおそいしプラムさみしい!」

「悪いな、プラム。パパは夜ママに働かされてるんだ」

「なんてこと言うの…!?」


 驚いてフライパンを振り被ったら、あっさりと手首を掴まれた。


「俺は嘘を吐いてない。そうだろう?」

「そういう問題じゃないわ!」

「も~ママとパパあついよ」


 しらっとした顔で一人席に着いたプランが文句を溢す。椅子の後ろにはアカデミーに通学するための鞄が掛かっていた。初等部への入学を済ませたプラムは、今年で七歳になる。


 クレアの家に泊まりに行く頻度が増えてからというもの、なんだかプラムはやけに大人ぶるというか達観した態度を取るようになった気がする。


 この前なんて「プラムは弟がほしい」と急に言い出して、さすがのフランもコーヒーを吹き出していた。これはおそらくクレアを問い詰めるべき案件だと思う。


(お姉さんになっちゃって……)


 まだ欠伸を続けるフランを注意する姿は、どちらが大人か分からないぐらいだ。



「今日はハレド国王の即位三周年祝いの護衛?」

「そうだな。奴もまさか、護衛に敵が混ざってるとは思わないだろう」

「変なことしないでよ…?」

「ははっ、冗談だよ」


 フランはニッと悪い顔をして笑った。

 つられて私も口角を緩める。


 ハレド・マーリンは罪を犯した父ジョセフに代わって国王として即位することになった。ジョセフ元国王はあの事件以降、精神を患ってしまったらしく、王都を離れて監視のもとで療養生活を送っているらしい。


 西部を守った黒龍は平和のシンボルとして石像となり、フィリップ一押しの観光名所サンピガ教会の敷地内に設置された。何度か見に行こうと誘ったけれど、フランは嫌がって行こうとしない。



「遅れそうだ、先に出るからな」

「はーい!行ってらっしゃい」

「今日は二人でデートなんだろ?」


 恨めしそうな目を向けるから、私はプラムと顔を合わせて笑顔でピースを返した。クレアも交えて、久しぶりの女同士の買い物とあって、何日か前から楽しみにしていたのだ。


 玄関まで見送ると、もはや恒例となった流れでフランはプラムの小さな手を握った。その光景を微笑ましく眺めていると、立ち上がったフランが何の前触れもなく私の背中に手を回して口付けた。



「………っな…!?」


 驚いて両手を口に当てる。

 慌てて目線を下げるとプラムの顔はしっかりとフランの手で覆われていた。「まっくらだ!まっくら!」とプラムはバタバタと手足を動かしている。


 言葉が出て来ない私の頭をわしゃりと撫でてフランはしてやったりな笑顔を浮かべた。


「今日もローズが俺のことを忘れないように」

「忘れるわけがないでしょう…!」

「どうだかな。聖女様は四年も他人だったから」

「当たり前じゃないの、こっちからしたら貴方は…」


 その時、足元から「もういいってばぁ」という不貞腐れた声が聞こえた。下を向くとプラムがフランの手の下から膨れっ面を覗かせている。


「ママとパパ、イチャイチャしないで!」

「してないから!」


 プラムに注意しながらフランの背中を押す。

 早く帰る、と言ってまたキスをせがむような姿を見せるので私は恥ずかしさのあまり顔を背けた。そう何度もされては心臓がいくつあっても保たない。


 小さくなるフランを見送って家に入ろうとすると、ツンとスカートを引っ張られた。下を向くとプラムがキラキラと輝く双眼をこちらに向けている。



「ママ、パパのことすき?」


 私は少しだけ驚いた後、腰を固めて娘の顔を覗いた。

 愛する人と同じ、満月のような黄色い瞳。


「もちろんよ。ママはパパのこともプラムのことも大好き。二人は私の宝物なの」


 プラムの顔に満面の笑みが広がる。


 これからは二倍の愛を与えていきたい。

 フランと一緒に溢れんばかりの愛情を。


 誰かが始めた優しい嘘がこうして幸福の実を結んだのなら、それはきっとハッピーエンドだと言えるだろうから。





End.



ご愛読ありがとうございました。

中編程度にするつもりが長編になってしまいました。


書きたいお話がいっぱいあるので、しばらくは短編を中心に投稿予定です。今掲載している『お飾りの妻からの〜』以外に二作ほど完結済みがあるため、順次こちらにも引っ張ってきます。


ご縁があれば読んでいただけますと幸いです。

ありがとうございました!


ではでは。



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