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あなたは優しい嘘を吐いた  作者: おのまとぺ
第二章 ウロボリア王立騎士団
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24 ロットバルズ精神病院3



「どうして、白龍が此処に……!?」


 魔物が巣食うにしても、まさか龍がこんな場所に現れるなんて。せいぜい何かの動物が魔物化したものだと思っていただけに、心臓はまだバクバクしている。


 触れれば浄化出来るだろうか。


 だけどもし、触れる前に弾かれたら?

 私は吹き飛んで、さっきの壁の一部みたく木っ端微塵に弾け散る。死ぬにしても、プラムのことを考えるとせめて綺麗な形で死にたいものだ。



(………なに弱気になってるの、生きて帰るのよ)


 ついついネガティブな方に押される思考を叱責する。私が居なくなったら幼い娘は天涯孤独になってしまう。せっかく両親が揃った生活を、まがいなりにも与えられたのだから、台無しにするわけにはいかない。


 置いて行くことなど出来ない。

 一緒に生きると、決めたのだから。



「こっちよ!私と追いかけっこしましょう」


 無限とも思える廊下を反対方向に走り出す。

 建物を破壊しながら、後ろから龍が追いかけて来る気配がした。バキバキと何かが崩れるような音がする。


 突き当たりにある病室に飛び込んで、カーテンを引いた。どうにかして龍に触れなければいけない。しかし、人間よりも俊敏で警戒心が強く、視界が広い彼らにはなかなか近付くことが出来ない。


 ならば、目を潰せばどうか。


 腰に差した短剣を抜いて祈りを込めて口付ける。どちらか一方だけでも潰すことが出来れば、時間稼ぎにはなるかもしれない。祈祷した武器で作った傷はすぐに癒えないと聞く。



 キィィンッとまた頭に響く金切り声が聞こえて、私は龍がこの部屋に入って来たことを知った。様子を伺っているような荒い鼻息が空気を揺らす。


 私が隠れた寝台のカーテンがわずかに動いた。


「………お願い、当たって!」


 突き出した短剣が肉を切り裂く手応えはあった。誤算だったのは目を外した場合の対応。当たり前だけど暴れられれば私は成す術もない。刺された痛みに仰け反った龍によって勢い良く振り落とされて、私は無様に床を転がった。


 切先はどうやら龍の目の上に刺さったらしい。

 ああ、もう触れられそうにない。



「残念だわ……もう丸腰なの。せめてあなたのために祈らせて、もう誰も殺めないように」


 両手を組んで跪いたまま目を閉じる。


 綺麗な状態で娘の元に戻してほしいなんて、叶いそうにない願いだ。それならいっそ骨も残らないように飲み干してくれたら良い。そうすれば、プラムも私が死んだことを信じずに遠くに行ったと思うかも。




「おい、寝るな。まだ終わりじゃない」


 聞き覚えのある不機嫌な声に瞼を開く。

 見慣れた背中が私の前にあった。


「………フラン!」


 聞きたいことが次から次へと溢れて、目頭が熱くなった。泣いている場合ではないし、そんなところ絶対に見られたくないので私は目を強く擦る。前を向いたままのフランが右手を龍の顔に向けた。



「そっちは水か?運が良い、火は俺の得意分野だ」


 フランの手のひらが炎に包まれる。

 目を見張る私を置いてけぼりにして、大きくなった火の玉が龍の頭目掛けて飛び出した。首を振った龍から氷の欠片が飛び散る。防ごうとしているのだろうか。


 しかし、フランの火の方が勢いが強かった。


 顔を焼かれた龍はバランスを崩して倒れ込み、重みを受けた床が何箇所か抜け落ちる。呆然と眺めていたら、フランに手を引かれた。


「建物と一緒に沈みたいなら止めないが、」

「いやよ、置いて行かないで…!」


 縋るように伸ばした腕が掴まれて、身体がふわりと浮き上がる。白龍の意識が切れた関係からか魔法は解けたようで、立て付けの悪い窓を蹴破るとフランは私を抱えたままで躊躇なく飛び降りた。


「………っえ!?」


 離されないように首に手を回す。

 着地時、想像していたほどの衝撃は無かった。


「生きて…る……?」

「これで借り二つ目だな。俺はあんたの命の恩人だ」


 悪戯っぽく言う綺麗な顔を見つめる。

 頭の中が混雑していて、情報の整理が追い付かない。フランは白龍に対して火の力を使った。魔術師でもないのに、彼はその手から炎を吐き出した。


「フラン……魔法が使えるの?」

「見ての通り」

「貴方って魔術師の才能もある…?」

「魔術師でなくても力は使える」


 地面に膝を突いたまま見上げる私の前にフランが屈む。大きな手が伸びて来て、咄嗟に目を瞑った。瞼の向こうで少しだけ、フランが笑った気がした。



「ローズ、眠れ。もう充分頑張った」


 瞬間、強い眠気が私を夢の奥底に突き落とした。

 薄れ行く意識の中で記憶の糸を辿る。


 この声を知っている。

 たぶん、ずっと、昔から。



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