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あなたは優しい嘘を吐いた  作者: おのまとぺ
第二章 ウロボリア王立騎士団
19/65

19 北部の英雄



「すごいです!フランさんは異性にはモテて、同性からは羨望の眼差しを受けています!やっぱり僕の尊敬できる先輩です」

「あ……ブレないのね…」


 翌朝、いち早く出勤して一人朝稽古に励んでいたメナードは宝石のような青い瞳を輝かせて私にそう言った。


 フランは今日の午前中休みを取ったとかで、私は気合いを入れて朝稽古に来たわけだけど、フレッシュなメナードに先を越されてしまった。


「お家ではどんな感じですか?やっぱり早寝早起きで完全無欠な私生活なんでしょうか!?」

「んっと………」


 今朝方のフランの様子を思い返す。

 確か、コーヒーを片手にプラムに羊の毛刈りの説明をしていたっけ。なんでもプラムは今日、子供園の遠足で牧場を見学に行くらしいのだ。


 家を出る際には私とプラムを玄関まで送り出した後、昨日のように私の額に口付けて、プラムとは握手を交わしていた。もしかしてこれは恒例になりつつある?


「ローズさん?」

「へ……?」

「顔が赤いですけど風邪ですか?」

「いえ、あの、考え事が、」

「考え事?」

「なんでもないです…!」


 首を傾げるメナード頭を下げて、私は剣の素振りに戻った。聖女が剣を使うことなんておそらく滅多にないだろうけど、入隊したからには他の騎士に混じって基礎訓練をする必要があるらしい。


 持ち上げるだけでフラつく重たい剣が、誤って他人を切り付けないか私は昨日から気が気でなかった。



「あ、そういえば……」

「どうしました?」


 独り言のように口走った言葉をメナードが拾う。


「メナードって、北部の出身なのよね?四年前にあの辺りで恐れられていた黒い龍を知ってる…?」

「もちろんです。黒龍のことですね」

「ええ。何回も討伐隊が組まれたけど、結局誰も倒すことは出来なかった。ここ最近話を聞かないけど…」

「フランさんですよ」

「え?」

「フランさんが、北部の魔物を一掃してから黒龍も姿を消しました。詳しくは知りませんが、たぶん討伐されたんだと思います」

「フランが……?」


 大きな目を見開いて深く頷くメナードを見る。

 心臓が急に石になったように重く感じた。


 恨んではいない。憎んでもいない。

 ただ、時々思い返して、どうか悪さをせずに穏やかに生きていれば良いと願っていた。あの寂しい龍が番を見つけて、人里離れた場所で幸せを得ていたらと。



「そっか…討伐されたのね、もう何年も前に」

「そうだと思います。魔物を殺して救助隊に保護されたフランさんは意識障害があったので、当時の記録も断片的なんですけど……」


 北部では彼は英雄なんです、と言い添える。


「僕が生まれるよりもっと前は、北部も名家がいくつかあって賑わっていたみたいなんですが…黒龍が出るようになってからみんな外へ出て行ってしまって……」


 悲しそうに話すメナードを見つめた。

 フランがウロボリア王立騎士団に入隊するきっかけになった北部の魔物討伐。そもそもどうして彼は北部に狙いを定めて挑んだのか。四年前は今よりもっと魔物の数も多く、一人で闘うなんて無謀と思われただろうに。


「フランのこと、何も知らないわ」

「王立図書館に資料ならありますよ」

「うん。だけど、本人に聞いてみようと思う」


 フランに直接尋ねてみよう。

 彼はあの龍の最期を見届けたのかどうか。



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