表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたは優しい嘘を吐いた  作者: おのまとぺ
第二章 ウロボリア王立騎士団
15/65

15 再会



 私から訪ねて行くよりも先に、昼過ぎには呼び鈴が鳴ってフィリップが顔を覗かせた。


 まだ別れて二日ほどしか経っていないのに、あの遠征の日々は夢だったように思える。クレアやダースとも来週には会えると思うと、嬉しくなって震えた。



「こんにちは。あなたが噂の娘さんですね」

「おじさんだぁれ?」

「おじさんはフィリップという名前で、あなたのお母さんの仲間です。これから一緒に働くんですよ」

「なかまなの?こわいない?」

「怖くはありません。ご安心を」


 フィリップに失礼がないかハラハラしていたけれど、穏やかな彼の話し方はプラムにも伝わったみたいで、幼いながらに内容を理解したようだった。


「フランくんと一緒に住むという話は本当だったんですね。まさか貴女も受け入れるとは」

「……そうですよね、自分でも驚いています」

「パパの話?ねぇ、パパの話なの?」

「パッ……!?」


 驚いて手に口を当てるフィリップに「この説明は後で!」と急いで伝える。


 私はプラムに向き直って、彼女の大好きなウサギの絵を描いてほしいとお願いした。おじさんにあげるね、と張り切って道具箱の方へ走り出す小さな背中を見送る。



「すみません、バタバタして……」


 キッチンの戸棚をいくつか開けてみると紅茶の茶葉があったので手に取る。後ろでテーブルに着いたフィリップから「お構いなく」という声が聞こえた。


 お湯を沸かしながら冷蔵庫を開けてみるも、卵やミルクはあるものの、茶菓子になりそうなものはない。ふとコンロの横を見ると、今朝方フランとプラムが焼いていたパンケーキの残りがあったので、小さくカットして再度両面を焼いた上でシナモンパウダーと粉砂糖を掛けた。


「あの…フランと娘が焼いたパンケーキです。今日の朝ごはんだったんですけど、余りものでごめんなさい」

「いえいえ。甘いのは大好きなので嬉しいですよ」

「それで、その……フランのことなんですが……」

「無理に聞こうとは思っていません。ローズさんが話したくなったらでも構いません」


 私は困ってしまって言葉を探す。


 沸騰したケトルからお湯をカップに注ぎながら、ゴアの言っていた内容をかいつまんで説明した。つまり、あの夜送ってもらったことが変な誤解を生んで上官命令で同棲するに至ったと。


 フィリップは特に顔色ひとつ変えずに「そうですか」と感想を述べた。身構えていただけに私は少しだけ拍子抜けする。



「驚かないんですか?」

「そうですねぇ……特に。フランくんの女性に関する噂はチラチラ聞いていましたから、貴女と住むことで彼のそうした面が改善されるかもしれませんし」

「それなんですけど、彼って本当に女好きなんでしょうか?」

「と、言いますと?」

「あまり私の前ではそんな風に見えないというか……」

「ふむ」


 それっきりフィリップは何やら考え込むように黙ってしまったので、私は仕方なく自分で淹れた紅茶を飲んだ。ダージリンの茶葉の香りがふわっと舞う。


「もう効果は出ているのかもしれませんね」

「え?」

「貴女と住む効果、ですよ」

「………?」


 よく分からない私の前でフィリップが笑った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ