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第5話 生きるために


 掲げた目的を達成するため、まずは餓死しないために栄養を取らないといけない。

 ゴブリンの主な餌を知らなかったが、横にいるゴブリン達は喚きながら目の前にある腐った獣の死骸を食べていることから、ゴブリンの幼体の餌は恐らくこの獣の死体。


 正直、人間だった時の記憶が丸々残っていることから腐った死骸の肉を食べるのには抵抗があるが、ゴブリンとして生きていくためには絶対に避けては通れない道。

 何度も言うようにゴブリンは最弱の魔物であり、草食である鹿なんかでも群れで襲わなければ狩ることができない。

 

 ゴブリンとして生きていくには、なんでも食べるということを実践しなければ簡単に飢え死にしてしまうだろう。

 強くなるまでの辛抱。そしてこの過酷さを胸に刻み、勇者たちへの復讐に変えていく。


 俺は心の中でそう決意を固め――早く生まれたゴブリン達に習い、俺も目の前に転がっている獣の死骸を食べることに決めた。

 四つん這いで獣の死骸に近づき、腐ってドロドロとした肉に手を伸ばしたその瞬間だった。


 強い衝撃が真横から加わり、地面を数回転がる。

 何が起こったのか理解できなかったが、衝撃があった方向を見てみるとゴブリンの内の一匹から蹴りを入れられたのが分かった。


 更に周囲を観察して分かったのだが、目の前の死骸を食べることができているのは俺含めて十一匹いるゴブリンの内の八匹だけ。

 限られている餌を食べるためにゴブリン同士であっても争いが行われているようで、先に生まれて四肢を自由に動かせるようになったものが優先的に食べている様子。


 俺には記憶が残っているため、力で劣っていようがシルヴァだった時に培った技術で倒すことも容易だと思っていたのだが……。

 流石に立つことすらできないと、知恵や技術を持っていたところでどうにもできない。


 それから何度か腐肉を食べることをチャレンジしたのだが、ことごとく邪魔をされて少しも食べることができなかった。

 まだ立つことができない他の三匹も同じで、その内の一匹は既にこと切れている。


 人間とは違って親が餌を与えてくれる訳でもなく、放置された糞みたいな餌を奪い合う生まれた瞬間から過酷で劣悪な環境。

 今の俺はそんな糞みたいな餌すら食べられず、隣で死んだゴブリンのように餓死するのを待っている状態。


 どうこうしようにも今の状態ではどうしようもなく、打てる手はほとんどない。

 そんな絶望的な俺の目の前で、白くうにょうにょした生き物が蠢いているのが目に止まった。

 

 サイズとしては小指の先ほどの大きさの蛆だ。

 嫌悪から潰しそうになったが、頭を過ったのはこの蛆を食べること。

 

 元が人間のため抵抗感しかないのだが……俺はこんなところで野垂れ死ぬわけにはいかないのだ。

 覚悟を決めた俺は、獣の死骸に湧いていた蛆に手を伸ばして口の中に入れていく。

 腐肉ですら抵抗があったのに、口に入れたものは生きた蛆。


 舌の上で蠢く感触に嗚咽しそうになりながらも口を両手で押さえ、無理やり蛆を捕食していく。

 そこからはとにかく栄養を取るために蛆を口の中に入れていき、そして更にはブンブンと飛び回っている蠅にまで手を伸ばし、地獄のような環境で成長するために俺は少しでも栄養になるものを全て食べていったのだった。


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