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第4話 最弱への転生


 周囲は酷くうるさく、耳障りな喚き声が聞こえてくる。

 臭いも凄まじいほどの異臭が漂っており、劣悪な環境過ぎて眠いのに寝ることができない。


 ………………というよりも、なんで意識があるんだ?

 俺は確か、ダンジョンに置き去りにされて死んだはず。


 それから勇者に対しての憎悪や怒り、魔物に襲われて殺された時の強烈な痛みを鮮明に思い出していった。

 胸の中がグルグルと回転するような感覚があり、吐き気がしてくるほどの強烈な怒り。


 そんな怒りに身を任せるように重い瞼を開けると、そこには見知らぬ世界が広がっていた。

 月の光りだけが差し込む、暗くて狭い洞窟のような場所。


 うるさい喚き声や酷い悪臭は決して夢ではなく、鼻と耳を塞ぎたくなるほどであり、目を開けてからの方がより鮮明に感じるようになった気がする。

 あまりにも暗くてここが何処なのか確認できなかったが、次第に目が暗さに慣れていき、酷い臭いを放つ喚いている者の正体がこの目に飛び込んできた。


 俺の真横で騒いでいたのは、汚い緑色の皮膚をした魔物——そうゴブリンだ。

 体は非常に小さく、ゴブリンの幼体というべき姿をしたものが、十数体はこの狭い空間にいる。


 洞窟内に充満している悪臭の一部もゴブリンから放たれているのは間違いないが、特に酷い臭いを放っているのは、この狭い空間の入口を塞ぐように置かれた獣の死体。

 肉は腐敗し切っており、大量の蛆が湧いているのが綺麗な月明かりに照らされて見える。


 あまりにも衝撃的な光景に叫んでしまったのだが、俺の叫び声は周囲の呻き声にかき消され……いや、ちょっと待て。

 声を発して分かってしまったのだが、俺の出した声は周りで喚いているゴブリンと酷似した声質だった。


 脳裏を過ったのは最悪な想像。

 この最悪な想像が外れていてくれと願いながら、自分の体に視線を落としてみると――俺の目に飛び込んできたのは、隣にいるゴブリン達と同じ汚い緑色の体。

 心臓が止まりそうになるほどの衝撃を食らったが、すぐに俺の身に何が起こったのかを理解することはできた。


 ダンジョンで置き去りにされた俺は、記憶にある通りヘルハウンドに襲われて死んだ。

 そして記憶を残したまま――ゴブリンへと転生したのだろう。


 あまりにもな現実に呼吸は荒くなり、早まる鼓動のせいで心臓も痛くなってきた。

 ただ周りが俺以上に騒いでいるお陰で徐々にではあるが、この悪夢ともいえる現実を飲み込めてもきた。


 死ぬ間際に言い放った“何でもいいからチャンスをくれ”。

 その願いが聞き入れられ、俺はゴブリンに転生したのだろうか。


 何でもいいとは言ったが、まさか最弱と名高いゴブリンに転生させられるとは。

 これなら記憶を失った状態で、何も考えることなくゴブリンとして生きた方がマシ……いや、それはないな。


 考えうる最悪に近い絶望的なこの状況の中でも、勇者や勇者のパーティに対する憎悪は少しも燻ってはいない。

 どんな形であれ、勇者に復讐するチャンスを貰えたのなら、俺はその目的に向かって突き進む。


 目を瞑り、人間だった時の最後をもう一度鮮明に思い出す。

 思い出したことで怒りに体が震え、唇を強く噛んだことで青黒い血が地面に滴り落ちた。


 ゴブリンとして生きるのは簡単なことではないが、ダンジョンで放置されて死んだ時に必ず復讐すると心に誓った。

 魔物となれば都合も良い。それも最弱のゴブリン。


 ゴブリンに殺された勇者となれば、未来永劫笑われて語り継がれるほどの黒歴史になるのは間違いない。

 あの勇者を越える力を手に入れるのは、死ぬことよりも困難な道のりかもしれないが、やると決意した以上はこのゴブリンの身で勇者を越える力を手に入れてやる。

 唇から流れた青い血を拭い、俺は心の中でそう強く決意した。

 

 まずやるべきことは……成長することだろう。

 横にいるゴブリン達の大きさから比較すると、俺もまだ生まれて間もない個体。


 それも左から生まれてきた順に並べられているようで、俺は一番最後に生まれたためか他のゴブリンよりも一回り小さいのが分かる。

 最弱のゴブリンの中で更に一番体が小さいとなれば、今の俺の強さは全魔物の中でも最弱。


 ただ、体の大きさや力の強さなんかはどうとでもなる。

 人間だった時の知識が丸々残っているのなら、いくらでもやりようがあるからな。


 とにかく今は死なないことだけを考え、少しでも早く成長するために栄養を取っていかないといけない。

 その中でゴブリンについての情報を収集し、今後どう動くかの指標を見つけるのが俺の第一の目的だ。


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