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魔喰のゴブリン~最弱から始まる復讐譚~  作者: 岡本剛也
第1章

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第20話 パラサイトフライ


 遠くからでも目立つくらいの大きな樹に背中をつけ、ここで初めてパラサイトフライと正面から向き合う。

 かなりの距離を走ってきたのだが、俺を追ってきたパラサイトフライは七匹もいる。


 道中で撒いて、もう少し数を減らしたかったが……ブラッドセンチピードを撒くことの方が優先事項だったため仕方がない。

 ここからは大きな樹に背中をつけることで囲まれないようにし、パラサイトフライを倒すことに注力する。


 息もかなり上がって疲労はあるが、俺を追ってきたパラサイトフライも同様なはずだ。

 手製のホルダーから、折れた剣を作り替えた短剣を取り出し構える。


 何も考えずに一直線に飛行してきているパラサイトフライの動きを見切り、羽を傷つけるように胴体目掛けて斬りつけた。

 動きが速く、クリーンヒットはしなかったものの、羽を狙っただけあって右の羽を傷つけることに成功。


 バランスを崩してふらついたところを見逃さず、地面に叩きつけるように殴りつけた。

 叩き落としたパラサイトフライは思い切り蹴って遠くに飛ばしてから、すぐに次のパラサイトフライに備える。


 背後への退路は断っているが、そのお陰で後ろからの攻撃を受けることがないメリットは非常に大きい。

 羽の性質上なのか知らないが、緩急や急旋回なども行えないようで、基本的に直進して噛みつくだけの行動しか取ってこない。


 単純な魔物との戦闘は冒険者時代に死ぬほどこなしているため、俺は苦戦を強いられることなく、追加で三匹のパラサイトフライを倒すことに成功。

 このまま残りのパラサイトフライも倒そうと意気込んでいたのだが、半数以上の仲間がやられた途端に逃げ出してしまった。


 ここまで追いかけられた訳だし追っても良かったが、空高くに逃げられたら捕まえられないし、既に四匹のパラサイトフライを倒すことができている。

 これ以上倒したところで食べることは不可能なため、逃げていくパラサイトフライの背中を黙って見送った。


 完全に消え去ったところで、ようやく大きく息を吐いて力を抜くことができた。

 危険を承知で洞窟に入ったとはいえ、まさかブラッドセンチピードが出てくるとは思っていなかった。


 ただ怪我無く逃げることができたし、予定通り虫型の魔物の討伐にも成功。

 これでパラサイトフライをしっかりと腹の中に収めることができれば、コボルトの時と同じように新たな能力を得られるようになるはずだ。


 最大の問題点を挙げるとすれば、この大きな毛むくじゃらのハエをこれから食わないといけないこと。

 幼体の時はハエだろうが食っていたが、今はイノシシの味を覚えてしまったし何より大きなハエというのは見た目がどぎつい。


 ひっくり返って足をピクつかせているパラサイトフライを見て、動悸が速くなるのを感じながらも――俺は深呼吸をして覚悟を決める。

 流石に生は嫌なため、着火しやすいように加工してある松明用の木材を使用して簡易的な焚火を作った。


 この間も周囲には注意しつつ、倒したパラサイトフライを豪快に丸焼きにしていく。

 羽やら毛やらは綺麗に焼けてくれ、頭を切り落としたことで何とか食材に見えないこともない姿に変わった。


 意外と肉厚で見ようによっては美味そうだ!

 そう自分に言い聞かせてから、しっかりと中まで焼いたパラサイトフライにかぶりつく。


「……ま、まずい。不味すぎる」


 思わず言葉を漏らしてしまうほどの不味さ。

 基本の味は苦く、時折腐ったような酸っぱさが気持ち悪い。


 更に臭いも最悪で、褒めるところが一つもないほどに美味しくない。

 鼻をつまみながら何とか一匹を完食したが、奥にはまだ三匹のパラサイトフライが転がっている。


 気が重くなるが、食わないと強くならないため無理やりにでも口の中に押し込むつもり。

 【魔喰】は食べるだけで強くなる弱点のない能力だと思っていたが、自力で倒さないといけない上に食べないといけないのは思っていた以上にしんどい。


 ぐだぐだしていると他の魔物に襲われる可能性があるため、深いため息をつきながらも俺は次のパラサイトフライに手を伸ばした。

 この世に簡単なものはないと変なところで実感させられつつ、残りの三匹のパラサイトフライを何とか食べきったのだった。



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辺境の村の勇者、四十二歳にして初めて村を出る
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