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「こ、これは!レリア様、コリア様!!」



どうにかして辺境の屋敷にやってきたジェスは、変わり果てた屋敷を見て唖然とした。


大慌てでレリアとコリアを探して、瓦礫が不自然に倒れていることに気が付いた。


もしかして、と一縷の望みを抱いて必死にその瓦礫をどかす。すると、小さな空洞が現れてそこには血だらけになった二人の子供がいた。


「よかった、生きていらっしゃった……」


そのまま二人を空洞から運び出し近くの草むらに自身の上着を敷いてそっと寝かせた。


改めて二人の様子を伺う。


姉のレリアの方は魔力を放出しすぎたのか、魔力熱になっている。


弟のコリアはもっとひどい状態だった。


生来弱い体に加えて、姉の魔力の壁でもかばいきれなかった脚の部分は半ばから千切れかけていた。


(これは……今の私の力では治しきれない)


一瞬目の前が真っ暗になりかけたが、とりあえず二人ともまだ生きていることに感謝して早急に応急処置を施した。


まず、コリアに対しては血止めの薬草と手持ちの低級ポーションを使用し、レリアには魔力を吸い出す魔道具を手首に縛り付けた。


そうして、二人を自分の上着で包んで、急ぎ一番近い医者のいる場所まで走ったのだった。







「レリア、レリア、起きて、おきてっ!」


「ーーうーん」


意識がゆっくりと浮上する。ぱちぱちと瞬きをして目を開けると、その目に大粒の水滴が落ちてきて、その痛さで意識が覚醒した。


「レリア? よかった!!」


倒れこむようにして抱き着いてきたコリアをみて、意識を失う直前のことを思い出す。コリアの足はどうなった!?



「ーーコリア、ごめっほんっとにごめんなさい!!」



コリアの足は包帯でぐるぐる巻きになっていた。未だに血も滲んでいる。傍に杖代わりの棒があったことからも、きっとコリアの足は治りきらなかったのだろう。


なんてことをしてしまったんだろうと、レリアはか細い鳴き声を上げた。大声で叫びたかった。コリアを、そして自分自身を守りたかっただけだったのに、その代償はコリアの足だった。


「レリア? どうしたの、どこか痛いの?」


ぽろぽろと涙を流すレリアを見て、コリアが不思議そうに首を傾げる。その無邪気な様子をみて、抑えることの出来ない衝動がレリアの胸を焼いた。


「うあぁぁぁぁぁ、ごめんなさい、コリア。 あなたを守りたかったのに、ごめんなさい、どうして

こんな」


レリアが大声で泣いているのを見て、戸惑っていたコリアの瞳にも徐々に涙が込み上げてきた。


「「うああああああああ!!」」


「なにがあった!?」


鳴き声の大合唱となった部屋に、ジェスと白髪の男の人が飛び込んできた。


二人ともそのレリアとコリアが泣き叫んでいるのを見て、途方に暮れながら泣き止ませようとするが、その優しさが更に涙を呼んで、二人はしばらく泣き止まなかった。






「ようやく泣き止みましたね」


「ええ、まあ、ないて体力を使い果たして寝てしまうあたり、可愛らしいですが……」


つい先ほどまで、手を焼かせてくれた二人の小悪魔に優しく上掛けをかけ、ぽんんぽんとリズムを取りながらゆったりあやす。


「そうしていると、ほんとに二人の父親みたいですよ、ジェスさん。あの冷徹な鬼人と呼ばれた辺境


伯家の筆頭執事が、変われば変わるもんですねぇ」


「ふん、そういうあなたも、あのやんちゃ坊主が今じゃお医者様ですからね、不思議なものですね」


「いやー、それをいわれると……」


頬をかきながらばつの悪そうに笑う男は、この辺境の地の医者のロナルドといった。


「でもまあ、先代の辺境伯の死後、放逐されたあなたがこうして立派にお医者様をやっていて、安心

しました。それとーー」


ジェスはすっと立ち上がってロナルドに向かって額の魔力紋を光らせながら深々と頭を下げた。


「よ、よしてください、昔っから世話になりっぱなしのあなたに、最敬礼なんてされちゃあ、どうし

たらいいかわかんなくなるじゃねぇですか!!」


慌てて、やめさせようとするロナルドを見て、ジェスは穏やかにほほ笑んだ。


「まったく、ほんとジェスさんは人が悪い……」


穏やかにほほ笑むジェスを見て、昔のいたずらっ子の片鱗をのぞかせたようにロナルドは苦笑した。


「……ほんとに、感謝しているのですよ。私はこの子たちに取り返しの付かないことをするところで

した。本当に、助かってよかった……」


穏やかなまなざしの中に深い後悔を滲ませてジェスは呟いた。視線の先の双子は泣き疲れてすやすやと眠っている。


「やめましょうぜ、ジェスさん、あんたがそういうならこの町の人全員が共犯になっちまう。この子

達を見捨ててた共犯に。現辺境伯閣下に言い含められてたにも関わらず、陰ながらあんたが二人を助

けていたおかげで、この子たちの命はある。それだけでいいんじゃないですか」


「ーーそうですね、後悔も、悔恨もこの子たちのこれからには何の役にも立ちません。いずれ私を恨む日が来ようとも、これからは私の全てをこの子たちに……」


強い覚悟が潜むその言葉を、ロナルドは何とも言えない顔で聞いていた。


その顔にもまた、葛藤と後悔、様々な思いが宿っていた。






「コリア、本当にごめんね。謝ってすむことじゃないけど……」


「もういいってレリア、あれは事故だったんだよ。それに、ロナルドさんも言ってたじゃないか。高い魔力を持つ子供に魔道具を持たせるのは大人の義務だって、義務を怠っていたやつらが悪いんだよ」


高位の貴族の家に生まれた子供たちは、高い魔力を持つことが多い。そのため、魔力を吸わせる魔道具ができるまでは、魔力暴走による事故が多発していた。その当時の乳母や侍従は命がけの職業だったのだとか。


魔力を吸わせる魔道具ができてからは、子供の魔力測定とコントロールの教育、そして魔道具を持たせることは貴族の義務に変わったそうだ。


そうして貴族には魔力暴走がほぼ起こらなくなったが、平民の中で突然変異や私生児の魔力暴走は未だに散見されるとのことだった。


「それに、ロナルドさんに見てもらえなかったら、どのみち僕は死んでたみたいだしね」


コリアの頭の傷は重篤だった。結果的に、にはなるが、レリアが屋敷を破壊し、それを見たジェスが迅速に動いたことでコリアの一命はとりとめたのだ。


「うん、それは分かってるけど……」


色々な要因が重なってコリアは不自由な足を持つことになったが、レリアのことは全く恨んでなかった。むしろ屋敷を壊してジェスを呼んでくれたことで命の恩人と言ってもいいと思っている。まあ、逆の立場だったら、一生気にするからレリアの気持ちもわかるのだが。


ただし、もう死んでしまったが、屋敷の奴らとかはがっつり恨んでいる。そもそも、国法で決められているのに、僕ら二人ともに魔道具を持たせない現辺境伯たちには恨みつらみ満載だった。


ふーーっとため息をつくと、コリアはレリアの頬に親愛のキスをした。


「ねえ、姉さま、僕は元気なレリア姉さまがすきだよ。ほんとに気にしてないから、もう謝るのはやめてよ、ね?」


上目づかいでじっと見つめると、レリアが渋い顔をしてコリアを見つめた。レリアがコリアの姉さま呼びに弱いのは分かっているのだ。


「ーーずるいわよっ、コリア。わかったわ。これで最後にする。コリア、傷つけてごめんなさい。これからは私があなたを守るわ。大好きよ」


チュッと頬に親愛のキスを受けたコリアは破顔した。


「レリア、僕はずっと守ってもらってきたよ!!」


そうして二人で笑いあっている様子を遠くから見つめていたジェスは踵を返した。


今日の昼食には二人の好物のラトベリーのパイがおやつに付くだろう。


この二人を見て、忌み子だというやつは目が腐っているのだろうと思いながら、ロナルドもいそいそ


とジェスについていった。


うまくいけば、パイの味見ができるかもと思いながら。



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