銀朱9
スイは一連の話をただ黙って聞いていた。
「これが私なの。どう思う?スイちゃん」
アカネはしゃべり疲れたのか、お茶を一気に飲み干した。
風は相変わらずそよそよと名も知らない花を揺らし続けている。い草の香りも心地よい。
アカネの家にも実家にも和室が無いので、畳の香りがこれほどまでに心安らぐものだと知る由もなかった。
「人には手相や人相と同じように色相というものがあります」
スイの言葉は凛としている。
「あなたの色相は、銀朱です」
銀朱。初めて聞く名前の色だった。
「銀朱ってどんな色?」
スイはおもむろに髪を解くと、髪紐をすっとアカネの前に差し出した。
「この色です」
黄色みがかった赤、と言えばいいのだろうか。鳥居の色みたいだと思った。
「銀朱は自然の色ではありません。人によって造り出された色です」
本物になれなかった色。本物の様に振舞っているけれど所詮は偽物の色ということか。
「本当のアカネさんはどこにいるのですか?」
スイの視線がアカネの瞳に突き刺さった。
心の中を覗き込むかのようなその視線をアカネは逸らすことが出来ない。
「あなたは誰であろうとしてるのですか?」
心の中に渦巻くどす黒いものの更に奥に秘めてある小さな箱の鍵が、ガチャンと大きな音をたてて外された気分だった。
それは誰にも開けてもらいたくなくて、でも本当は誰かに開けて欲しかったのかもしれない。