銀朱7
風が当たり前に吹くように、和也に想いを寄せる人は当たり前のようにいた。
仕事に支障をきたす可能性があることと、仕事とプライベートは分けたいという価値観が一致したため私たちは付き合っていることを社内で公表していなかった。
「佐藤さんって彼女いるんですかね?」
社内のレストランで、どこの部署かもわからない女性のグループがそんなことを話しているのが聞こえた。
佐藤なんて会社に何人かいるが、和也のことを言っているのだとすぐにわかった。
「えーいるんじゃない?カッコいいし性格良さそうだし」
仮にも社内の人の話をするのであればもっと品のある話し方や場所を弁えるべきではないかとアカネは心の中で眉をひそめた。
「でもさぁ、人事部の佐伯さんだっけ?あの背の低くて髪長い」
「あー佐伯千尋ちゃんね」
「そうそう。あの子こないだ佐藤君と一緒に飲み行ったって聞いたよ。二人で」
手に持っていたコーヒーカップを落としそうになり、ハッと指に力を入れ直した。
私は別に誰がどこで何をしていようと気にしたりなんかしない。それが家族であっても彼氏であっても。
でもこの会話には嫌な予感しかしなかった。
いつもなら和也の方から「今日家に行く」というメッセージが来るのだが、この時初めて「今日家に来てほしいな」とメッセージを送った。
こういう時でさえも理想の人を演じている自分が可笑しくて悲しかった。