銀朱6
「また知恵さんの仕事引き受けたの?」
夕食を片付け、二人でお酒を飲んでいると仕事の話になった。
「知恵さんの仕事は私の仕事だからね」
仕事の処理能力は人それぞれだと思う。仕事に向き合う姿勢も人それぞれでいいと思う。私は決して自分を高く評価しているつもりはないが、客観的に見ても知恵さんのそれは私よりはるかに劣って見えた。
「お前がそうやって引き受けちゃうから、知恵さんもそれでいいって思っちゃうんじゃない?」
自分より二十歳近くも年下の後輩にこう言われるような人間にはなりたくはないものだ。知恵さんは私の良い反面教師だとも言える。
「でも知恵さんが大変なの知ってるし、協力できるところはしていかないとね」
いつか和也が買ってくれた可愛らしいデザインのペアグラスは、和也とお酒を飲む時にしか使わない。和也のグラスには、自家製の山桜桃酒が半分くらい残っている。
今日は泊まっていくつもりのようだ。
和也は私の作る山桜桃酒がお酒の中で一番好きだと言ってくれたことがある。それは素直に嬉しかった。
「お前は本当に優しいな」
とろんとまどろんだ瞳で和也はアカネの頭を引き寄せた。
私の本心を知ったら和也はどれほど残念に思うだろうか。騙されたと思うだろうか。
そうだ、和也が好きなのは仮面を被った私であって、こんなどす黒くて脆い私は誰に求められることもなく、愛されることもない。
本当に優しいのはあなただよ。
そう言えたらどれほどよかっただろうか。