銀朱4
大森朱音、二十四歳。
リーダー気質、姉御肌。そんな風に言えばきっと聞こえはいいのだろう。
友達は多い。でも本当の意味での友達なんて一人もいない。
私は人を信用しないし、人に期待もしない。
だって人は嘘をつくし、期待を裏切る生き物だから。
でも残念なことに、生きていく上で人間関係の構築は必要不可欠で、いつからか私は他人を生きていくためのツールとして見るようになっていた。そして私自身、人としてこうだったらいいのでしょう?という理想の人間像を当てはめた仮面を身に着けてるようになっていた。
「もー聞いてよー」
話しかけてきたのは、会社の先輩である吉田智恵だった。
「智恵さんどうしましたー?」
タイピングする手を止め、くるりと智恵の方に体を向ける。
「課長がね、この資料明日の午前中までに完成させろって言うんだけどさ、私今日は定時で帰らなきゃいけないし、明日は有給じゃん?」
時計はちょうど十一時を指したとこだった。
資料と大層なことを言っているが、決められたフォーマットに必要事項を入力すればいいだけのこと。私なら二時間もあれば終わる。
「そうなんですか、智恵さんただでさえ忙しくて大変なのに、課長もひどいですね」
声を潜めて、困ったように笑ってみせた。
「私この仕事終わったら時間取れるんで、代わりにやっちゃいますよ」
私と智恵さんはペアで仕事をしている。つまり智恵さんが出来なければ私がやるより他ない。さらに言えば、智恵さんが出来ないと私まで出来ないという扱いになる。
あるいはこういう言い方も出来る。
私が智恵さんの仕事までこなしていれば問題ない、と。
「え!?いいの?じゃあお願いしちゃおうかなー」
妙に甲高い声が私の深い部分を刺激したが、仮面の私はニコニコとほほ笑んだままだった。