銀朱3
「すみません、急に来たのにお茶まで頂いて、、、」
少女ははにかみながら、よくあることですからと言った。
「迷ったと言うか、なんか気が付いたら山の中にいて、それで歩いていたらこのお家を見つけたから思わず玄関開けちゃったんですけど、、、」
自分でも何を言っているのかわからないとりとめのない説明にも関わらず、少女は再び「よくあることですから」とほほ笑んだ。
お茶を一口啜ると、香ばしい味がした。昔どこかで飲んだことがあるような気がする懐かしい味だった。
「私はスイと言います。あなたは?」
「スイ。スイちゃんって言うのね。私はアカネ」
名前はとても大切だ。名前を呼ぶことで相手の好感度を上げることが出来る。至極簡単で、誰にでも出来るが、知らない人が多いのもまた事実。ネームコーリング効果というらしいが、「誰にでも好かれるアカネちゃん」である以上、自然に、当たり前に出来て当然なのだ。
「アカネさんは何か困ったり、悩んだりしてることありませんか?」
一瞬、心臓がドキッと鳴ったのがわかった。
しかし次の瞬間、アカネはニコッと笑った。
「何、いきなり。スイちゃん、私悩んでることとか何もないよー」
人に弱みを見せるのは、自分が弱い人間だと公にしているも等しい行為。そして弱みを握られたら相手に主導権が渡る。違う、主導権は常に私が握っていなければならないのだ。
「大森さんって完璧!って感じですよね」
「アカネちゃんってさ、なんかリーダーって感じだよね」
「アカネが友達でいてくれてめっちゃ心強いよ」
「大森だけが頼りなんだよ」
「お前さぁ、俺がいなくても生きていけるよな」
「悩みなんて何もないよ」
慣れない正座のせいで痺れかけている足の上で、拳をぎゅっと握りしめる。
綺麗に伸ばした爪が手の平に食い込んだ。