NPC
再び骸骨剣士の部屋にショウタたちは入った。
ショウタは一度殺されかけている。メレディの助けがなければ確実に死んでいた。
部屋に入るとガシャリ、ガシャリと乾いた足音が聞こえる。岩壁に囲まれた薄暗い部屋の中を、松明の火に照らされてぼんやりと、骸骨の形がうろついているのが見えた。
「やっぱり怖い!」
サキが大声をあげた。
「やめる! 私、戦わないわ!」
サキの声に反応し、骸骨どもが振り向いた。
手にした剣を振り上げ、盾をこちらち向けて、三体が突進してくる。
「骸骨には炎の魔法が有効だ」
そう言いながらショウタが剣を抜く。
「援護、よろしくな、サキ!」
メレディへ視線を送ると、
「メレディは休んでいてくれ。この先のために力を温存しとくんだ。もし俺が危機に陥った時だけ助けてくれ」
そう言って、骸骨剣士三体めがけて突進して行った。
「……ま、そんな心配はねぇけどな」
骸骨剣士の一体が剣を振り下ろしてきた。ショウタは落ち着いてそれを左手の斧で払うと、一撃で首をはね飛ばした。続いて襲ってきた一体を斧でバラバラにすると、残る一体は足を切り倒す。
「ほれ。コイツ動けなくしてやったぞ。サキ、初めての魔法でとどめを刺してやれ」
立ち上がることが出来なくなり、岩の床の上を這っている骸骨剣士を指差して、ショウタは促した。
サキが『魔導師の杖』を構える。
踊るように回転すると、甲高い声で呪文を唱えた。
「炎よ! キモい骸骨を焼き払え! ファイヤ!」
前にかざした杖の先から炎が走り、骸骨剣士を一瞬で灰にした。
「よく出来ました、サキ様!」
後ろからメレディが金属音の拍手を送る。
「私が教育した甲斐がありましたわね!」
「初級呪文ぐらい無詠唱で出せよ」
ショウタが憎まれ口を利く。
「……ま、でも、よくやった」
「うるさいわね!」
サキは切れ長の目を鋭くし、二人を交互に睨んだ。
「偉そうな口を慎みなさいよ! こんなくだらない遊びにこの私様が付き合ってあげてることに感謝しなさい!」
「くだらない遊びじゃねーよ。命かかってんだ」
ショウタはそう言うと、不機嫌な表情を一転、ニヤニヤさせた。
「ってかおまえ、ノリノリじゃね? ほんとうは面白いんだろ? ン?」
サキが再び杖を振り上げた。その先には既に炎がメラメラと生じている。
「おいっ! バカっ! 仲間を攻撃すんな!」
そう言って咄嗟に斧で防御したショウタの脇を炎はすり抜けた。新たに襲って来ていた骸骨剣士二体にそれは命中する。
「あ……」
「そうよ! くだらない遊びだけど、命がかかってるの!」
サキはまた杖を振った。部屋の奥から次々と骸骨剣士が襲って来ていた。
「ショウタもちゃんと戦いなさいよ! 私にばっかり恥ずかしい魔法少女みたいな真似やらせてないで!」
そう言いながら、やはりサキはノリノリにしか見えなかった。いちいち必要もなくポーズを決めている。
「だいぶん強くなった……っていうかリアルな剣に慣れてきた」
メレディの革袋からアリンコ・スライムの肉を食べ、泉の水で喉を潤しながら、ショウタが言った。
「骸骨剣士は楽勝だ。でも、これじゃ中ボスのグラビトンすら倒せねぇ……」
「ショウタ様」
体育座りの格好でメレディが聞く。
「さらなる修行をして、強くなりますか?」
サキは岩の床に座り込み、明後日のほうを向いてアリンコ・スライムを食べている。
ショウタは答えた。
「修行も引き続きしながら、仲間を探す。勇吾が言ってた。弓矢が使えるようになれって。でも俺が今から弓の修行をするより、弓使いの仲間を加えたほうが断然手っ取り早い」
「仲間?」
聞きつけて、サキが口を挟んだ。
「この世界にはアンタと私だけよ、生きた人間は。そんなものがいると思ってるの?」
「メレディはNPCだろ」
「は?」
ショウタの言葉に意味がわからないようにメレディが首を傾げた。
「気にすんな、メレディ」
彼女の気持ちを慮ってショウタが笑顔を見せる。
「メレディがいるってことは、他にもNPCがいるに違いねぇ。どこかにいる。探せば仲間に出来るはずだ」
「な……、何をよ?」
気持ち悪い仲間が加わるのを怖がるように、サキが聞く。
「エルフだ」
ショウタの口から美しいものの名前が出た。
「弓使いのエルフがどこかにいるんだ、このゲーム。そいつを探し出して、仲間にしよう」