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ステキナチカラ  作者: しいな ここみ


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6/21

食事と戦闘

「おなかすいた……」


 サキはそう言うとしゃがみ込んだ。地面にはアリンコ・スライムのウンコのような肉片が散らばっている。ウンコの海のようなその一欠を、指先で掬い取った。自分の鼻先に持っていき、クンクンと匂う。

 それは見た目はウンコのようというよりもウンコそのものながら、ウンコとはまったく違う匂いがした。


「甘い……。微かに蟻酸みたいな酸味も感じるわ」


 そう言うと、ぺろっと舐めた。


「うげえっ!」

 ショウタが三歩引いた。

「よ……、よくそんなもの、舐めれるね!?」


「食べられる……、これ。柿みたいな味よ」

 そう言うと、今度はてのひらで掬って口に運ぶ。

「美味しい。ショウタも食べてごらんなさいよ」


「よ……、呼び捨て?」


「いいからほら。匂いを嗅いでみて?」


 ウンコのついたサキの指先が、ショウタの鼻先に伸びてきた。おそるおそる嗅いでみると、確かにフルーティーな香りがする。


「た……、食べても大丈夫かな?」

 メレディに相談した。

「これ、食べれるもの?」


「ショウタ様」

 メレディは表情のない顔で即答した。

「アリンコ・スライムの肉は食べられる上に、ヒットポイントを回復する作用があるようです」

 サキの様子を観察するように見ながら、言う。

「サキのヒットポイントが全回復しました」


 そう言われて、ショウタも手でアリンコ・スライムの肉片を掬うと、まじまじと見た。ウンコにしか見えない。


『カレーだ……。これは、カレーだ』


 そう心に念じながら、目を瞑り、勢いよく口の中に詰め込んだ。


「うっ……」

 思わず声が漏れた。

「うまい! とろとろしてて、コクがあって……とろけるほどにフルーティーだ!」


「語彙力が貧弱ね」

 軽蔑するようにサキが言った。

「柿のように甘く、微かに蟻酸のような酸味がアクセントを加えている。この食感がまた、たまらないわ。柔らかな果肉のようでいて、ところどころにゼリーみたいなぷるんぷるんした部分があって、もちもちした歯応えも備えている。ミックスジュースを飲み干すような喉越しもたまらない」


 陶酔するようにそれだけ言うと自分の世界に入り込み、ウンコそのものの肉を愛おしそうに啜りはじめた。


「非常食として持って行きましょう」

 メレディがそう言い、腰につけている革袋にアリンコ・スライムの肉を詰め込みはじめた。

「これに入れておけばしばらく腐敗を防げます」


「メレディは? 食べないのか?」

 口の周りに茶色い肉をいっぱいにつけて、ショウタが聞く。

「おいしいよ」


「私は機械の身体ですので、これを食べることは出来ません」


「それじゃ、エネルギー補給はどうやってするんだ?」


「魔物の出す『魔素』をエネルギーに変換しております。ここにいる限り、私は補給を必要としません」


「さすが銀色仮面」

 サキが馬鹿にするように言った。

「くだらないフィクションそのものね」





 補給を終えると、すぐにショウタは次の部屋をめざした。アリンコ・スライムでは大した経験にならない。もう少し強いモンスターを相手に修行する必要があった。


「早くクリアしてよ。帰りたい」


 そればかり言うサキをキッと睨みつける。


「俺だって早く帰りたいんだ。勇吾のことが心配でたまらないんだ」


 次に開く扉の中には、そこそこ弱いモンスター『ホブゴブりん』がいるはずだ。人間と豚のあいのこみたいなそいつは棍棒を武器に使ってくる。食用にはならなそうだが、戦闘相手としてはいい練習台になりそうだった。


「開けろ、メレディ」


 ショウタの指示で、先頭に立つメレディが扉をゆっくりと開けた。



「ホブゴブ……」

「ホブゴブっ!?」



 いた。部屋の中を徘徊していた三体のホブゴブりんが、侵入者の気配に気づいて振り返った。こちらは先程のアリンコ・スライムと違い、ゲームの中のモンスターがそのままリアルになった姿だった。侵入者の姿を認めるなり、小さな体に豚の頭部をもったそいつらが、棍棒を振り上げて襲いかかってきた。


「何こいつら……。怖っ!」

 サキが嫌悪丸出しで声をあげる。


「メレディ! 援護頼む!」

 ショウタは躊躇なく前へ駆け出した。

「さっきのアリンコ・スライムでかなり勝手がわかった。必殺技を使ってみる!」


 理性の欠けた目つきで走り寄ってくるホブゴブりんは、まるで緑色の小さな悪魔だ。背丈はショウタの半分ほどだが、純粋な殺意に満ちたその姿はショウタの心の弱いところから恐怖を引き出そうとする。


 しかしショウタは気圧されなかった。


「早くここから帰って、勇吾を助けないと!」


 剣と斧を交叉させて構えると、それは緑色に光り出し、やがて白く眩しく輝いた。ゲームの通りならこれを振れば斬撃が飛ぶはずだ。


「うおりゃああああ!」


 鋭い斬撃が飛び、襲いかかってきていたホブゴブりん三体を真っ二つに切り裂いた。ゲームの通りだ。違うのはホブゴブりんたちから緑色の血液が迸り、生々しい内蔵が飛び散ったことだった。


「行ける! 戦える!」


 部屋の奥にはまだ何体もホブゴブりんがいた。仲間がやられたことに怯えもせず、理性のない目つきで次々とこちらへやって来る。


「怖い!」

 サキがメレディの背中にしがみついて怯えている。

「なんで!? なんでこんなことしないといけないのよ!?」


「なんで……って」

 そう聞かれてショウタはすぐには答えられなかった。

「それがこの世界のルールだからだよ。ラスボスを倒せば終われるんだ。現実世界に戻れるんだ」


「する必要ないじゃない!」

 サキが罵声を浴びせるように言う。

「元から現実世界で生きてれば、こんなことする必要ないじゃない!」


 ホブゴブりんが今度は四体、迫ってきた。


「話してる余裕はねえっ!」

 今度はショウタは斧をしまい、剣を両手で掴んで突進した。

「とにかく強くなって! このゲームを攻略する!」


 サキにしがみつかれて身動きのできないメレディが聞く。

「ショウタ様、援護は?」


「いらねえ! コイツら程度、一人で全滅させられなきゃ、クリアなんてとても無理だっ!」


 斬って、斬って、斬りまくった。


 キツかったが、学校のイベントで走ったマラソンに比べれば軽いものだった。


 気づけば敵は全滅し、地面には12体のホブゴブりんの屍が散乱していた。


「や……、やった」

 ショウタは剣を収めるのも忘れて立っていた。

「つ……、疲れた。ホブゴブりん程度にこんなに疲れるとは……」


 ホブゴブりんはゲーム内では下から三番目程度の弱いモンスターだ。それ相手にこれだけ疲弊していたのでは先が思いやられるような気がした。


「ショウタ様。お言葉ですが……」

 メレディが厳かに進言した。

「力が入りすぎています。無駄な力を抜いて、もっと体力を温存したほうがいいですよ」


「そうか……。なるほど」

 へたり込みながら、ショウタがうなずく。

「まだまだ強くなれる望みはあるってことだな」


 そう言いながら、散らばるホブゴブりんの肉を見つめた。


「美味しそう……」

 サキが言った。

「なんかガーリックステーキみたいな匂いがするわ」


 肉片をひとつつまんで持ち上げると、まじまじと見つめる。

 そして、言う。


「……でも、生じゃ食べられそうにないわね。焼いてみたい。火は起こせる?」


「あのな……」

 呼吸を整えながら、文句を言うようにショウタが声を荒くした。

「ただついて来て飯を食うだけのやつなんて、いらねぇ。働かざる者食うべからずだ。戦闘に加わる気がないならどっか行ってくれ」


「何よ? 私に恋してるくせに。好きなら守ってよ?」


「もう恋してなんかねぇよ!」


「ノートに書いてるくせに。『紗季ちゃん紗季ちゃん好きだ好きだ』って」


「だからそれ、どこで知った!? 俺がゲームのキャラにおまえの名前つけてることも!? 大体、おまえのその力、何!? なんでゲーム世界に生身の人間を送ることが出来るんだよ!?」


「質問が多すぎる」

 サキはぷいっと横を向くと、メレディに聞いた。

「私はお料理係よ。存在価値あるでしょう? 命令です。火を起こしなさい」


 メレディは無表情な顔に困ったような色を浮かべると、目からビームを出し、地面に散らばるホブゴブりんの肉を加熱しはじめた。





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