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ゲームクリア

 ショウタたちはサクサクと進んだ。

 グラビトンを倒すと、あとはほんとうにサクサクだった。

 第二の中ボスを倒し、大ボスもやっつけると、遂にラスボスの部屋の前に立った。


「サクッと行くぜ!」


 扉を開けると、4本の首をもつ巨大なドラゴンが待っていた。


「よくぞ来た! 冒険者たちよ!」


「うおりゃーっ!」


 ドラゴンにセリフを言わせる暇もなくショウタが斬りかかる。


「舐めるな、クズめが」


 ドラゴンの4本の首が、それぞれに火、氷、雷、風の刃を吐く。


 跳躍したショウタの体に空中でそれらは命中し、しかし幻影のようにすり抜けた。


「おいおい開発者さんよ……」

 ドラゴンがごんざえもんに愚痴を言った。

「そりゃーないぜ」


「とりゃあ!」


 光を纏ったショウタの剣がドラゴンの頭のひとつの上に、稲光のように落ちた。


「グオォーッ!」


 ドラゴンは苦しそうな声を上げたが、まだ残り3本の首は無傷だ。


 ドラゴンが地響きを立てて歩きはじめた!

 地上に下りたショウタをその巨大な足で踏み潰す気だ!


「マジカル!」

 サキがノリノリで踊った。

「ハヤク・カエッテ・冬彦に会いたいのよ! かばやきになりなさい!」


 炎のそこかしこに灯る広大な岩の洞窟の部屋の中心に、巨大なドラゴンのかばやきが完成していた。


「こ……これで……」

 メレディが素っ頓狂な声を漏らした。

「終わった……ん、ですかねぇ?」


「何言ってんだ、メレディ」

 ショウタが剣を天井に向けて掲げた。

「おめーには最後の感動的なセリフを言う役目があるだろうが!」


「こ……こうして……」

 メレディは仕方なさそうに語りだした。

「こうして勇者ショウタ様はドラゴンを倒し、世界をお救いになったのでございます。その勇姿を目にした者は私をはじめたった3人だけでございましたが、永遠に生きる身である私が、この物語を永遠にこの世に語り継いでいくのでございます」

 語り終わってから、落ち着かないようにショウタを見やる。

「これでよろしいでございましょうか……」


「完璧だ!」

 ショウタは剣を鞘に収め、周りを見回した。

「……で、どうなる?」


 空中にデジタルノイズが走った。

 景色が割れ、その隙間から白い光が漏れ出す。

 空間が歪み、メレディの体が透明になりはじめた。


「しょ……、ショウタ様!」


「ありがとな、メレディ」


 ジジ……ジジジ……と崩壊する音を立てて壊れはじめた世界をオロオロと見回しながら、メレディがショウタに手を伸ばす。


「これで……お別れなのでございますか!? ショウタ様!」


「ばーか。また何度でも会いに来てやんよ」

 ショウタは笑顔で手を振った。

「今度会う時は決まったことしか言わねーおまえでも、おまえはおまえだ。今度またチートなしで、まともにクリアしに来てやんよ」


「あ……愛しています!」

 メレディが最後に言った。

「あなたのことを……愛していました! ショウタ様!」


 ぐらぐらと視界が激しく歪んだ。


 たまらず目を閉じ、次に開けると、ショウタは懐かしい自分の部屋に、自分がいるのを感じた。






 VRゴーグルを脱ぐと、テーブルの上に置かれた気の抜けたコーラの入ったコップが見えた。


 ベッドの上を振り返ると、さっきまで白いローブ姿の魔法少女だった女の子が、制服姿で放心して座っている。


 勝太は声をかけた。

「戻ったな!」


 紗季は言った。

「……帰る」


「待てや!」


 立ち上がり、ドアに向かいかけた紗季の前に勝太は立ち塞がる。


「何よ」


「責任とれ! 自分がしたことの責任をよ! 勇吾を一緒に助けに行ってくれ!」

 そう言ってから勝太は頭を下げた。

「頼む……! 勇吾を助けてくれ」


「スマホでも見てみたら? 連絡来てるかもしれないわよ? あっちの開発者さんが助けてくれて、もう帰ってるかも」


 そう言われ、ハッとして勝太は自分のスマートフォンを探す。紗季が手に持っていた。そういえばミラーリングしてゲーム観戦するようにと渡してあったのだった。


「返せ!」

 紗季の手からそれをひったくると、勝太は息を少し荒くしながらメッセージアプリを開く。

「勇吾に何かあったら……てめー、許さねーからな」


 メッセージが3件届いていた。

 勇吾からだ。


『勝太ぁ〜! 勝太ぁ〜!』

『俺はいま、アレしている』

『おまえどこにいんの?』


 メッセージの意味はどれもよくわからなかったが、勝太の顔に安堵の笑みが浮かんだ。勇吾はこっちの世界に戻ってきている。生きているのだ。


 スマートフォンの日付表示を見ると、紗季にゲーム世界に送られてから三時間ぐらいしか経っていない。あっちで何日も過ごしたはずだが、時間の流れが違うのか。


「生きてた?」

 紗季がぶっきらぼうに言った。

「じゃ、帰るね」


「待てや!!」

 勝太が彼女の細い腕を掴む。


「痛い! 離してよ!」


「他のやつらのこともみんな責任とれ! てめーがやったことだろうが!」


「知らないわよ! みんなどうせそれそれのとこの開発者に助けてもらってるわよ! よかったじゃない!」


「わかんねーだろ!」


「何よ! どうせあんたには関係ないでしょ! 假屋崎くん以外はどーでもいいくせに」


「どーでもよくねーよ! 確かに勇吾以外は親しくはねーけど、人として当然だろ! てめーそれでも人間か!」


「何よ! 仲間にしようとしないでよ! どうせわたしは地球人としてはふつうじゃない宇宙人よ!」


「おまえ……」

 ふと気づいたことを、ショウタは口にした。

「寂しいのか?」


 紗季が手を振り上げた。

 勝太の胸に3発猫パンチを入れるとキッと睨み、何も言わずに背中を見せると部屋を走り出ていった。





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