開発者のチカラ
ハッとサキは我に返った。
ハイタッチを交わして見つめ合ったショウタから急いで目をそらす。
な……、何よ。何をわたし、くだらないフィクションのノリにノリノリになっちゃってんのよ──その顔にはありありとそう書いてあった。
ショウタはそれが愉快で、つい言葉でいじってしまう。
「おまえ……、ほんとうはひどいことしてるって自覚あるんだな」
「う……、うるさいわね」
サキがぷいっと顔をそむける。
「ちょ……ちょっとグロ映像見てうろたえちゃっただけみたいなものよ」
「それにしても……なんでしいたけ?」
ショウタが巨大しいたけに変えられたグラビトンを眺めながら聞いた。
「甘食にはどうしても見えなかったのよ。頭の形は確かにそれっぽいけど、中年のオッサンといえばしいたけのほうが似合うわ」
「ねーちゃん、にーちゃんに見とれてたよな?」
横からごんざえもんがひやかすようにではなく言う。
「にーちゃん、カッコよかったもんな」
「そう!」
サキがばっと顔をあげてショウタを睨んだ。
「なんであんなカッコいい動きが急にできるようになったのよ? あれじゃまるで漫画じゃない! あんたはただの冴えない、地味な、陰キャ男子でしょ?」
サキの言葉にグサグサと傷つきながら、ショウタは無理やり笑って答えた。
「ステキナチカラに目覚めたんだよ」
「ステキナチカラってあんなもののことじゃないわ!」
「いや。ここはゲームの中。いわばおまえのいう幻想が本物になった世界だ。ここでのリアルな力ってのは、つまりさっきみたいな、バカげた力になるんだよ」
「ハハハハ!」
横からごんざえもんが口を挟んだ。
「そうだぜ、ねーちゃん。ファンタジーを楽しめ! 人間、幻想がなかったらニヒリズムに落ちるだけだ。言葉だって幻想! 無邪気に付き合えばいいじゃねーか」
「あんた……何者?」
サキがキッ! とごんざえもんを睨む。
「ただのNPCじゃないわね?」
「申し遅れました」
ごんざえもんがちびエルフの姿のまま、大人の男性の声を出す。
「私、このゲーム『ダンジョン&モンスターズ』の開発者、権藤佐輔と申します」
「生きた人間なの?」
「はい」
ごんざえもんのアバターはにっこりと笑った。
「開発者ですから、なんでも出来ます、この世界においては、ね。サキちゃんのいたずらを台無しにするようで悪いけど、サッサとクリアさせていただきますよ」
サキがほっとしたように顔を緩ませた。
「……じゃ、帰れるのね?」
「はい。……ただし」
ごんざえもんがエルフのキャラに戻って、言う。
「オイラにも意地ってもんがある。そう簡単にクリアさせたんじゃ、開発として悔しいもんがある。にーちゃんとねーちゃんとメレディ……3人力を合わせて本気で戦ってくれ。オイラは君らが死なないよう助けるだけにする。敵わない相手からは撤退して、勝てるまで挑戦してくれな」
ショウタが聞く。
「死んでもやり直せるのか?」
「それは死んでみないとわかんねーな」
「まじかよ」
「でも大丈夫だ。死にそうになったらオイラが何とかする。さっきみたいにな」
「ようし」
ショウタが戦士のポーズをキメる。
「クリアできるぞ! こっからは楽しんで行こうぜ!」
「他のひとたちのところにも……」
サキがぽつりと言った。
「あなたみたいなひとがいるのかな」
「いる!」
自信たっぷりにごんざえもんが答えた。
「開発者はいわば異能の持ち主なんだぜ! きっと他の、ねーちゃんに意地悪されたやつらも、そいつらに助けてもらってる! もしかしたらみんな楽しくやってて、憧れのゲームの世界に送ってくれたねーちゃんに感謝してるかもな」
「そ……っか」
サキがほっとしたようにため息をついた。
「凄いひとたちがいるものね」
意気揚々と剣を掲げるショウタ、なんだか大人しくなったサキ、よくわからないことをいうごんざえもんの三人を見回しながら、メレディだけがそこに入って行けずにいた。
「あの……。慎重に行かなければ……全滅してしまいます。……というかショウタ様はなぜ、ご無事で? まぁ……、良かったですけれど」




