漫画みたいな勝利
泣きじゃくるサキを守るように立ちながら、メレディには鉄槌の中が見えていた。
隣にぼーっと立っているごんざえもんの中の人がショウタに話しかけていることも、話の内容までは聞き取れないもののわかっていた。
「花火屋くん……。ごめんなさぁぁい」
サキは床に膝をついて隙だらけだ。
しかしグラビトンに動き出す気配はなく、鉄槌を振り下ろした格好のままでずっとなんだか笑っている。
「サキちゃん」
メレディは泣きじゃくる女の子に話しかけた。
「……グラビトンが隙だらけよ。やっちゃいなさい」
「私……ひどいことしたのよ」
打ちひしがれた言い方でサキは言った。
「私がこんな世界に連れて来たから……花火屋くん、グチャグチャに潰れて死んじゃった……! これは幻想じゃないのよ。ほんとうに死んじゃったのよ。……こんな私、許されるわけないじゃない!」
困ってメレディは隣のごんざえもんに聞いた。
「ごんざえもん様、どういたしましょう」
脱殻だと思われたごんざえもんが、意外にもそれに答えた。
「ゲームクリアすんぞ」
「どあぁっ!」
ショウタの叫び声が広い石の部屋に響いた。
「ショウタ様、復かあぁつ!」
グラビトンの鉄槌を剣で粉砕してショウタの勇姿が飛び出した。
「花火屋くん……?」
それを見たサキの目がおおきく見瞠く。
「花火屋くんっ!」
嬉しそうに、ぱあっと笑った。
「見ろや、俺のステキナチカラ!」
飛び出すなり敵のほうへ振り向くと、ショウタは剣をおおきく振り上げた。
「降りかかる困難すべて受け入れてやるぜ!」
「ハハハハ!」
グラビトンがようやく動き出し、お決まりのセリフを部屋に響かせる。
「冒険者よ! 貴様の旅はここで終わりだ!」
「どりゃあああ!」
ショウタが高く飛び上がった。
「フハハハハ!」
グラビトンが鉄槌を下から振り上げる。
ギイィン!
ショウタの剣とグラビトンの鉄槌が空中でぶつかり合い、互いに弾かれる。
小さな剣と巨大な鉄槌が拮抗するそのさまは、まるで現実ではありえない、漫画だった。
グラビトンが笑う。
「なかなかやるな、冒険者よ。しかしここは通さん!」
ショウタも笑った。
「俺はこの世の主人公だぜ。負けるわけがねぇだろ!」
「ぬんっ!」
「ハアッ!」
再び剣と鉄槌がぶつかり合い、激しい閃光を産んだ。
いかにもフィクションなその光景を眺めながら、サキはあきらかに感動していた。か……かっこいい、という文字を表情に浮かべながら、ショウタの戦いを見守っている。
「どあっ!」
「うおぉーっ!」
火花を散らして両者が後ろへ吹き飛ぶ。
しかしショウタは空を飛べるもののようにひらりと着地すると、ちょうどその後ろに立っていたサキに向かい、背中で言った。
「今だ、サキ! おまえの力を見せろ!」
まるで漫画のキャラのような声と言い方で、かっこいいBGMつきで、グラビトンを剣で指さす。
「あいつを甘食にしてやれ!」
「任せて!」
サキも、乗った。
「このサキ・シロガーネ様の力をお見せするわ! 敵よ、食べ物にな〜れっ!」
そう言って前に突き出した杖の先から、グラビトンめがけてビームが発射される。
「ぬああああっ!!」
巨大なグラビトンが茶色い光に包まれる。
その巨体がみるみる美味しそうなしいたけに変わっていく。
一本の巨大なしいたけに変わりきると、しばらくは石づきを地面に生やしているように立っていたが、やがて命を失ったようにぐらつくと、激しい音と土煙をあげて、倒れた。
「やった!」
「やったわ!」
ショウタが勝鬨の声をあげると、サキが物凄い笑顔で手を上に伸ばし、パァン! と快い音を鳴らして二人はハイタッチをした。




