チートな能力
「キャー!」
珍しくサキが黄色い声を上げ、駆け出した。
「からあげ! からあげ!」
その後ろ姿をショウタは呆然と見つめた。メレディもごんざえもんも目を丸くしている。
はっと思い出し、ショウタは振り返り、ごんざえもんに聞いた。
「おまえ……サキが『神になろうとしている』って言ってたよな、確か?」
「ああ……」
ごんざえもんは口を震わせ、答えた。
「予想以上だ」
「これって、もしかして……アレか?」
ショウタも唇を震わせた。
「こういう物語によくある、チートな能力に目覚めたってやつか?」
「なんだ、それ。よく知んねーけど……。ねーちゃんはこの世を改変するほどの力に目覚めたんだ」
「──やはりそうか!」
「キャーハハ!」
サキは狂ったように超特大サイズのフライドチキンにありついていた。
「これが全部フライドチキン……。いっただっきもーふ!」
喋りながらもう噛みついていた。
「うっまーい!」
ごんざえもんが聞く。
「オイラたちも……食う?」
ショウタはうなずいた。
「あ……、ああ……」
踊るように歩きながら、サキは色んなうまそうな部位を見つけては噛みついた。ショウタはそれからなるべく距離を取りながら、間接キスにならないよう気を遣いながら、モモの部分をちまちまと食べた。
「あー、美味しかった!」
パンパンに張っているらしいお腹を白いローブの上からさすりながら、上機嫌で石の床に座り込んだサキに、ショウタは筒に入れた水を持って行ってやった。
「あら、気が利くじゃない」
それを素直に受け取って飲みはじめたサキに、ショウタが聞く。
「さっきの力がもしかして『ステキナチカラ』ってやつか?」
サキは水を飲んだ口をハンカチで拭くようにローブの袖で拭くと、上機嫌だった目を少し鋭くした。
「全然違う。さっきのはくだらない幻想よ。現実の人間が巨大ニワトリをからあげに出来るわけないじゃない。大体、リアルな世界にあんな巨大なニワトリも存在しないわ。バカバカしい」
「じゃ、やっぱりチート能力か!」
ショウタの顔に希望が満ち溢れた。
「おまえ……このゲーム世界を外から見てるようなものだもんな! いわばこの世界の創造主みたいなもんだ! だから、たぶん、この世界の設定を書き換えるみたいなことも出来るんだろ?」
「意味がわからないわ」
サキが憎むような目で睨む。
「なんだかわからないけど、万能感に取り憑かれて、なんでも出来るような気がして、やってみたら、出来たってだけよ」
水をぐいと飲むと、照れるように顔をそむけた。
「……ま、ちょっと気持ちよかったけどね」
「そうか……。そうなんだな? やっぱりおまえ、この世の創造主みたいな力が使えるんだ?」
ショウタの目に希望の火が灯った。
「つまり、サキがいてくれりゃ、ゲームクリアも楽勝だってことだよな?」
「ふん。任せなさいよ。っていうか、さんざん私のこと足手まといとか言ってたくせに、いざ凄い力が使えるってわかったら手のひら返して持ち上げる気? くだらないひとね」
「すいませんでしたっ」
ショウタは土下座した。
「お願いします、サキさま! どうかお力を貸してください! 早くゲームクリアしたいんですっ!」
ぽかんとして二人を見つめていたごんざえもんが、からかうように笑い出した。
「ハハハハ! にーちゃん、まるでねーちゃんの下僕だな!」
「ゲームなんてくだらない」
サキがそっぽを向いたまま、吐き捨てるように言う。
「……でも、しょうがないわね。私も早く帰って冬彦に会いたいもの。サッサとクリアさせてあげるわ」
「ありがとう!」
ショウタは思わずサキの手を強く握った。
怒り出すかと思われたサキは、意外にも手を握られるままになっていた。
ショウタのほうが自分の大胆な行為に気づいて手を離す。照れ隠しのように、床にまだ大量に残っている巨大フライドチキンのほうを見ると、言った。
「ちなみにこの食いきれなかったぶんのフライドチキン、干し肉に変えられるか?」
「お安い御用よ」
サキはだるそうに立ち上がると、偉そうに胸を張り、テキトーな呪文を唱える。
「ホッシ、ホシホシ……干し肉になあ〜れっ!」
きららん、とパステルカラーの星が杖の先から飛び散った。
それを浴びると、巨大フライドチキンは光に包まれ、あっという間にカットされたチキンジャーキーの山に変化した。
「凄いぞ!」
「ねーちゃん、すげえ!」
ショウタとごんざえもんが大はしゃぎで革袋にそれを詰められるだけ詰める。
「間違いなく、本物のチート能力だ!」
この世界に来て、初めてショウタはサキに笑顔を向けた。
「これでグラビトンも倒せる! 行くぞ!」
「それってどんなやつなの?」
サキがあまり興味なさそうに聞く。
「何か食べ物に似てる?」
「うーん……」
ショウタはグラビトンのデザインを頭に描きながら、答えた。
「肉まんに似てるかも。あるいは……甘食?」
「デザートね」
サキは少し興味を示したようだった。
「わかった。そいつ、ふわふわにしてあげる」
ショウタの胸に、希望がいっぱい湧いた。諦めてしまいかけていたゲームクリアへの道が一気に拓けたと思った。
嫌なやつだと思っていたサキのことが、想いを寄せていた時以上にキラキラと眩しく見えた。まるで女神さまのように見えた。
「ショウタさま……」
メレディがそっと近づいてきて、耳打ちする。
「サキちゃんのこと……あまり信用しないほうがいいように思いますが」
「なんで?」
「なんとなく……。アンドロイドとしての勘ですが……」
メレディは、言った。
「彼女を頼りにしていたら、パーティーが全滅してしまうような気がいたします」