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ステキナチカラ  作者: しいな ここみ


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12/21

からあげ、からあげ

 ショウタたちは黄色と赤の扉の前に立った。


 サキが言う。

「この中にからあげがいるのね?」


 ショウタがツッコむ。

「からあげじゃねーよ。コカトライスだ」


「からあげライス」

「からあげから離れろや」


「絶対に捕まえて捌いて美味しいからあげにしてやるわ」

「妄想逞しいのはいいけど、この世界に揚げ物をするような鍋も油もねーよ。チキンの丸焼きで我慢しとけ」


「からげにする魔法を使えるようになるわ。だって私、コンビニのフライドチキンが大好きだもの」

 サキの目がギラギラと食欲に燃えている。


 ショウタは呆れて「はいはい」とだけ答えた。

 火の初級魔法しか使えない分際で、コイツ万能感に取り憑かれてやがる──そう思っていた。

 しかし、ごんざえもんの目が何やら真剣だった。サキをじっと見つめながら、呟いたのだった。


「ね……、ねーちゃんが神になろうとしている!」


「それでは、開けますよ」

 そう言うと、メレディが扉を、開けた。



「コケエェェェェェエ!!」


 扉を開けるなり、巨大なニワトリがこちらへ走ってきた。


「いきなりかよ!」

 ショウタが慌てて剣を抜く。


「は……、速っ!」

 ごんざえもんも弓を構え遅れた。


「任せてください!」

 メレディの目からビームが発射され、ニワトリの額に当たる。


 巨大なニワトリは額に受けた小さなショックにうろたえ、前進を止めると、首を振った。


「すごい……」

 サキの目がキラキラと輝いた。

「これ……、全部からあげにしていいのね!?」


 巨大だと聞いていたから牛ぐらいの大きさを想像していた。しかし目の前のニワトリの大きさは、二階建て家屋ぐらいの大きさがあった。

 サキは物凄い笑顔になり、魔導士の杖を振り上げた。


「からあげになりなさい!」


 しかしショウタがその前を塞ぐ。

「退いてろ、足手まとい! 前に出んな! 死にたいのか!」


「邪魔しないでよ! からあげにするんたから!」


「グワーーーーッ!」

 コカトライスの巨大な嘴が降ってきた。


 パシュッ! と矢を放つ音が鳴り、怒ったニワトリの右目に命中する。しかしコカトライスはたじろぐことなく、嘴を突き立てた。


 どっごおぉぉん!


「うわーっ!」

 叫びながらショウタが後ろに吹っ飛ぶ。


「にーちゃん! ねーちゃんを守れよ!」

 叫びながら、ごんざえもんが弓矢を連射する。

「コイツはオイラがやっつけるから! ねーちゃんを守ってやれ!」


 しかし弓矢はことごとく硬い羽毛に弾かれる。その上コカトライスの羽毛の下にはさらに硬いウロコが体を覆っていた。右目に命中した矢も、鎧のような瞼の表面に突き立っているだけだった。


「サキ! 大丈夫か!?」

 ショウタが声をかける。


 コカトライスの嘴は石の地面を砕き、煙がもうもうと視界を塞いでいた。

 サキの返事はない。


「……畜生! 足手まとい女なんかどうでもいいっ!」

 ショウタは剣を構えると、前進した。

「俺は前衛だ! 俺が戦うからゴンは後ろから矢を放て!」


「ねーちゃんを助けろよ! ねーちゃんが大事だ!」


 コカトライスが羽根を広げた。ニワトリの体に龍の翼をもっていた。それを羽ばたかせると、凄まじい風圧がショウタとごんざえもんを襲う。


「うわっ!?」

「ぎゃーっ!?」


 それを離れた位置で見ながら、メレディが声を漏らした。

「パ……パーティーの息がバラバラだわ。……力を合わせずにあんな巨大なモンスターに勝てるわけないのに……」


 コカトライスには敵を石化させる能力がある。

 凶暴なその目があかく光るのを見てしまったものは、その魔力によって石像に変えられてしまう。

 石化を解除する魔法を使える者がパーティーにいない。

 ここで石化させられた者は、即ち死を意味していた。


 コカトライスが動きを止め、高いところからショウタたちを睨みつけた。


 その目が薄暗闇の中で、あかく、ギラリと光った。


「もー! 邪魔しないで!」


 不機嫌な少女の声が、広い部屋中に響いた。

 立ち込めていた煙の中から、白いローブ姿に魔導士の杖を持った美少女が、長い髪を怒らせて現れる。


「サキ!」

「ねーちゃん!」

「サキちゃん!」


 ショウタも、ごんざえもんも、メレディも、サキの死を確信した。

 サキはあかい目を光らせるコカトライスに向かってまっすぐ立ち、まっすぐに、まともにそのあかい目を睨みつけていた。


「──石ニナレ」

 コカトライスが言葉を発した。


 ショウタは今までのゲーム経験でそれを知っていたので、目を背けた。

 出来ることならサキを助けたかった。

 いくらその悪魔のような内面を知ってしまったからといって、それまでに育んでいた恋心がすべて嘘になってしまったわけではなかった。ノートに書きつけた『好きだ』の文字は、そう簡単に消せるものではなかった。


 無力をひしひしと感じさせられた。


 コカトライスを相手にこれでは、グラビトンなんて倒せるわけがない。


『こんなの無理ゲーじゃねぇか……!』

 そう、思った時──


「からあげになりなさい!」


 そう叫びながら振り上げたサキの杖が、巨大なニワトリの全身を震わせた。


「ジュ……」

 コカトライスがいい油の音を立てて、黄金色に変わっていく。

「ジュワッ……!?」


 目を開け、それを見たショウタは、呆気にとられることしか出来なかった。


 どっぱあぁぁん!


 派手な音と煙を上げて、超特大サイズのフライドチキンが、香ばしい匂いとともに地面に倒れ伏した。




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