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ごんざえもんの力と次の標的

 木の扉を開けると夜の森だった。


 暗い空間を埋め尽くすような木々の隙間を、音もなく黒い影が飛び交っている。

 ショウタが剣を構えると、その殺気に反応したように、そいつらが一斉に向きを変え、群れをなして襲いかかってきた。


 竜の顔をしたコウモリのモンスター、ドラゴンバットだ。


「多いなー、こりゃ」

 呑気な声を出しながら、ごんざえもんが背中から矢を次々と抜く。

「ま、オイラにかかりゃ、こんなのなんでもないけどね」


 高速連射で放った矢が次々と、正確に黒い影を射ち抜いた。


 影が重なったところはけっして見逃さず、一本の矢で複数匹を貫く。


「さすがエルフだな」

 ショウタは高いところには手が届かないので、自分めがけて襲いかかってくるものだけを斬り払いながら、ごんざえもんを褒めた。

「見た目はアレだけど、やっぱりエルフなんだな」


「すごい、ゴンちゃん」

 メレディも後ろで傍観しながら褒める。

「さすがは遠距離攻撃のエキスパートね!」


「まるでマンガね」

 サキが不機嫌になった。

「リアリティーがなさすぎる。物理法則も無視してるわ。一匹貫いた矢がそのままの勢いで次々と貫きながら飛んで行くなんて……きゃ!?」


 ドラゴンバットは物凄い数だった。

 前衛のショウタとごんざえもんの上を飛び越えて、後ろに立つサキとメレディにも襲いかかった。


「素直に褒めろよ、ねーちゃん」

 そう言いながらごんざえもんが、サキに襲いかかったドラゴンバットすべてを一発の矢で射ち抜く。

「ちゃんと褒めねーと、次から助けてやんねーぞ」


「サキは本当に守られてばっかりね」

 目から放射したビームでドラゴンバットを焼き払いながら、メレディが言う。

「せめて足手まといにはならないで」


「はあ!?」

 サキがキレた。

「言っとくけど、遠距離攻撃のエキスパートは私なんだからね? 見なさいよ!」


 サキは魔道士の杖を前に掲げると、その先から炎を連射した。

 暗い森の中で明るい炎を出したので、目が眩んで何も見えなくなった。


「一発も当たってねーぞ、ねーちゃん」

 ごんざえもんはそう言うと、弓矢をしまった。

「見てろ。こうすんだ」


 ごんざえもんが前に掲げた手をかき混ぜるように振る。

 風が起こった。

 鋭い風が刃のように吹き荒れ、ドラゴンバットの群れを巻き込むと、バラバラに斬り裂いた。


「暗いとこで炎魔法は使うな。みんなの目が見えなくなるぞ。使うなら風魔法が一番だ。こんなことも出来るぞ」


 そう言うとごんざえもんは自分の起こした風に乗って飛んだ。

 恐れをなして逃げはじめたドラゴンバットたちを追い、弓矢で次々と仕留めていく。


「凄い……。本当に凄い」

 ショウタが感激して声を漏らす。

「凄いやつが仲間に入ってくれた! これでクリアも遠い話じゃなくなったぞ!」


「くだらないわ」

 襲われる危機が去ると、サキは腕組みをして目を閉じ、吐き捨てるように言った。

「あんな曲芸みたいなことが出来るから何だって言うのよ。現実はマンガじゃないのよ」


 ごんざえもんが風に乗って戻ってきた。

 得意げに赤い鼻を擦ると、サキに言う。


「へへ……。ねーちゃん、オイラの力に嫉妬してんな? 素直になれよ」


「バカじゃないの? そんなマンガみたいな力、全然ステキナチカラじゃないから……。大体、戦意を喪失した相手を追いかけて行って殺すなんて、白雪姫に出てくる小人みたいな姿してるくせに、中身は悪魔ね」


「悪魔はてめーだろ」

 ショウタがぼそっと呟いた。



 

 ドラゴンバットの肉は食えなかった。

 小骨ばっかりで身が少なく、何より見た目が不気味すぎて食べる気になれなかったのだ。


 部屋の床を覆い隠すほどのその死骸を見ながら、あまり感情の籠もらない声でサキが言った。

「かわいそう。この子たち、何の意味もなく、ただ私たちの経験値稼ぎのために殺されたんだわ」


「フィクションだってバカにしてたくせによ」

 ショウタがツッコむ。

「現実の存在じゃねーんだから、しかもモンスターなんだから、そんなの気にするとこかよ」


「感受性の問題よ。非現実的存在にも感情移入できなければ人間ではないわ」


「なんか言ってることコロコロ変わってんぞ? 現実のクラスメートを命の危機にさらすようなやつが何言ってんだ?」


「それも感情移入の一種。生きてる価値のないくだらない人間に『気づき』を与えようとするのは正しい行いだわ」


 ごんざえもんが横から口を挟んだ。

「何話してんのかわかんねーけどよ、急ぐんだろ? 早く行こうぜ」


「そうだ! 急ぐんだよ!」

 ショウタが思い出したように声をあげる。

「早くゲームをクリアして、ユーゴを助けねーと! ……って、行くってどこへ行くんだ?」


「何言ってんだ、にーちゃん。決まってんだろ。グラビトン倒しに行くんだよ」


「はあ!? いきなり中ボス!?」


「あたりめーだろ。急ぐんだからよ」


「し……、しかし……」


 確かにごんざえもんを仲間にしてパーティーの力は上がった。しかしショウタにはまだ自信がなかった。


 この世界がまだ架空世界だった時、グラビトンに一瞬で潰された、あの記憶が頭に蘇る。


 あの時は「あー、やっぱりダメか」で済んだ。架空世界の自分の分身が死ぬのを見ても、ゴーグルを外せば自分の部屋に戻って来られた。


 ショウタは想像する。巨大なグラビトンの持つ鋼鉄のハンマーが、自分の頭上に落ちてくるのを。


 頭蓋がへしゃげ、肉が飛び散り、骨が砕けて死ぬ自分の姿を思い浮かべてしまった。


「ま……、まだ無理だ!」

 ぶんぶんと頭を振った。

「自信がねー! 自信をつけてからじゃないと……!」


「その自信はつくのに相当かかるのか?」

 ごんざえもんが子供のような目をして聞く。

「それかつくまでににーちゃんの友達、死んじまうぞ?」


「しかし無謀なことをしたら、ユーゴを助ける前に俺が死んじまう」

 メレディのほうを振り返り、止めてくれるのを期待して聞いてみた。

「な? 今はまだ無理だよな、メレディ? 今の俺らでグラビトンに勝てると思うか?」


「ショウタ様は世界をお救いになる勇者です」

 メレディはこんな時だけゲームの中の台詞を棒読みした。


「お腹空いたわ」

 助け舟を出してくれたのはサキだった。

「まずはお腹を満たして、準備万端にしてから考えましょうよ」


「お……、そうだそうだ! 体力ヒットポイント満タンにしとく必要がある!」


「からあげが食べたいわ」


「んなもん、この世界にねーよ」


「巨大なニワトリがいるって言ってたじゃない」


「うっ……!?」


「それを狩りに行きましょう。食べられるモンスターなら殺しても罪悪感がないわ」


「コ……コカトライスか」


 ショウタはゲームをやっていた時に遭遇したことを思い出した。

 見た目はニワトリだが、巨大なくせに素速くて、何より攻撃力が強いモンスターだった。


 10回戦って、6回ぐらい勝てた覚えがある。


「そうだな……」

 臆しかけた自分に活を入れた。

「急ぐんだ。コカトライスを倒せないようじゃダメだもんな。……よし! 行くぞ!」




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