74.父親と 1
今日三話アップして終了っす。
ふう。
翌朝、皆が食堂に朝食を取りに出ていく。
俺は……朝迎えに来るという父親に、朝飯を食べていいのか分からず1人部屋で待っていた。
が、なかなか来ない。待っている間に班員たちも戻ってくる。
「なんや、親父さんまだ来いへんのか?」
「うん……朝って言ったよな? 飯でもって言ったよね?」
「うーん。言ってたと思うで。寝坊してるんじゃないか?」
「ううむ」
班員たちが出かける準備をして、そろそろ出ていこうとする頃、ようやく父親がやってくる。
「お。準備できてたか? いけるか?」
「行けるかっていうか、朝来るって言うから朝食も食べないで待ってたんだけど」
「え? ……すまん。ガッツリ朝食食べて来てしまった」
「マジかよ……」
沸々と湧き上がるこの感覚は……怒りなのだろうか。確かに記憶でも父親はマイペースな感じの男だった気がするが……。父親は申し訳ないと、どこかのファミレスにでも連れてってくれるという。
施設の入り口に停めてあったゴレカーに乗るように促され、俺はそのまま助手席に座ると、父親はゴレカーに「何か朝食を取れる店に」と指示する。ゴレカーに食事も取れる全国チェーンの珈琲店を提示されると、「そこで良いか?」と聞かれ了承した。ゴレカーはそのまま静かに走り出した。
……そう言えば、父親の事をなんて呼べば良いのか解らない。子供の頃は「父ちゃん」とか呼んでいたが、最近は雑誌などで見かけて「親父」と心のなかで呼んでいたのだが……とりあえず「父さん」でもいいか。なんて考える。
「まあ……なんだ……ゴーレム……続けていたんだな」
「うん……」
「中等院の部のゴーコンは、少しチェックしていたんだが……やってなかったのか?」
「そうだね……」
「そうか……」
なんとなく、お互いに話しづらい中だが必死に言葉を詰め込んでいく。
ゴレカーに勧められた珈琲店で、モーニングコーヒーセットというのを頼むと、トーストやらゆで卵やらが付いてくるの。とりあえず朝はコレで十分だろう。父親は珈琲だけを頼み、おまけで付いているナッツを摘みながら珈琲を飲んでいた。
「今日は、時間大丈夫か? 何時までに帰らないといけないとかあるか?」
「いや、大丈夫だよ」
「そっか」
「今回のゴーコンのゲストを引き受けたのも、シーグラス州に第8世代の実験施設があってな。もしよかったら見に来ないかって思ってな」
「え? ホントに? 第8世代のゴーレムが見れるの???」
「ははは。ゴーレムは好きみたいで良かった」
思わず乗り出してしまったのを、慌てて椅子に座り直す。そんな様子を見て父親は少しホッとしたように笑う。
朝食を食べ終わると、さっそく実験施設に向かった。
「ここって……」
「ああ、ダンジョンだ」
施設と言われた場所は、国内でもそれなりに有名なシーグラス州のダンジョンだ。山の峠道をグルグルと登っていくと、中腹あたりに大きな施設がある。ダンジョンの入口は頑丈な建物で完全に覆われており、外からは伺いしれないが、ぶっとい魔力ラインなどが施設から大量に伸びている。
父親は建物の前に適当にゴレカーを止めると、降りるように促す。俺はドキドキしながら父親について建物の中に入っていった。
入り口で父親が入場者の署名などしていると、警備員が「ご苦労さまです」と挨拶してくる。俺の方をチラリと見ながら気にしているようだが「息子だ。上には許可を取ってる」と書類のような物を見せると何も言うこと無く通してくれた。
カードキーや魔力認証の扉を何度か通しながら進んでいくと、1つの部屋にたどり着く。中はかなり広い部屋で、おそらく管理室なのだろう。薄暗い中にたくさんのモニターが壁一面にあり、これまた多くのスタッフがそれぞれのモニターを確認していた。
俺達が入っていくと、少し偉そうな感じの男が気が付き話しかけてくる。
「ああ、博士。丁度いい所にいらっしゃいました。ん? その子は……もしかしてMVP?」
あ、そう言えば全国放送だもんな、MVPを取ったのも見てる人は見ているのか。
「俺の息子だ。ちょっと第8世代を見せたくてな。丁度いいというと、湧いたのか?」
「え? あ、ああ。そうですね。ダンジョンボスが湧いたので、今新型を向かわせているところですが……え? 息子さん?」
父親の質問に答えつつ、男は驚いたように俺のことを見つめる。
だが、父親はそれ以上俺のことは語らずに、現在の状況などを質問し、やり取りをしていく。
そんな中俺は、初めて見るダンジョン管理室のモニターに釘付けになっていた。
色んな所でポップする魔物を、ゴーレムたちが速やかに処理していく。魔物が死んだ後にドロップしている魔石などはすぐに運搬用ゴーレムが回収していく。至る所でそんな光景が行われているんだ。父親の説明によると、ダンジョンゴーレムは銃器や魔法を使うこともあるが、資源や魔力のロスが不経済という事で、基本的には皆抜身の剣を持っているとの事だった。
そんな中、中央の一番大きなモニターでは、1つの大きな扉の前に1体のゴーレムが立っていた。
――あれか。
他のゴーレムと違い両側に3本づつの腕を持ち4本の手に剣を、残りの2本の腕には防御用なのか小型の盾を持ったゴーレムだった。それ以外は一見なんの変哲もないゴーレムだが、どことなく禍々しさを感じさせる。もしかしてと、俺はそのゴーレムをジッと見つめていると、管理室からの指示を受けて数台の撮影用ゴーレムと共に中に入っていく。やっぱりそうか。
「あれが、第8世代ダンジョン討伐用戦闘ゴーレム。アシュラだ。ここのボスは、3台程の第7世代の新型のボス討伐用のゴーレム、インドラで安定して討伐出来るレベルだが……見てろよ」
ボス部屋の中には巨大な魔物が一匹、静かに部屋に入ってくるゴーレムを見つめていた。ライオンを思わせる黄金色の長い鬣に猿の顔、手には一本の真っ赤な棒を手にし全身に緊張をみなぎらせている。
「モンキーキング……」
誰もが知っている、シーグラスダンジョンのボスだ。他国ではセイテンタイセイとも呼ばれるSランクの魔物だ。初めて見る生のボスの威容に、モニターを通しているというのにドキドキとした恐怖心すら沸き起こる。
こんな魔物が出るダンジョンを人がコントロール出来ていることが信じられない気持ちになる。
ボス部屋にアシュラが入っていく。お互いの間合いというものがあるのだろう。ゴーレムと魔物は同時に動き出す。
「へ??? ちょっ……これは……」
2体の化け物が戦い始める。しかしあまりのスピードに何をやってるかが全くわからない。人間の感知できる限界以上のスピードで戦闘を繰り広げているのだろう。やがてゴーレムが有利になってきているのは分かった。魔物の腕や、良くわからない肉片や体液が周りに飛び散っていく。
実際は1~2分程の戦いだっただろうか。無傷のままゴーレムがボスの止めをさすと管理室に歓声と拍手が湧く。
「問題無さそうですね。後は、動画の精査をしてまたレポートを上げておきますから」
「うん。そうだな。よろしく頼む」
……凄い。
俺はただあんぐりと口を開け、ゴーレム達が淡々とドロップ品を回収している画面を見入っていた。
その後細かい仕事の話等は、ほとんど俺には分からなかった為、俺はゴーレムたちがひたすら働き続けるのが映るモニターを眺めていた。
興奮冷めやらぬ中、俺は親父と再びダンジョンから出ていく。
「やっぱ第8世代は、段違いに強いの?」
「そりゃそうだ。そこまでの性能差が出なければ世代の繰り上げにはならないだろうしな」
「それにしても、もう実戦投入できるところまで出来てるんだねっ!」
「ん? ……まあ、第8世代の術式そのものは数年前には完成していたからな」
「へ???」
こういったゴーレム技術は各国の軍事機密にもつながる。それでも世界ゴーレム機構の規定もあり、発表しないという事は無いようだが。今回も軍事ゴーレムなどのユニットがほぼ完成した段階でようやく第8世代の発表を許可されたようで、他国ももしかしたらもっと違うゴーレム技術が開発されている可能性もあるようだ。
そもそも第7世代の段階で、実は複数の術式が発表されておりそれぞれに違うアプローチでの新世代ゴーレムが開発されていると言われ、おそらく第8世代も世界ゴーレム機構の認可外で色々出てくるであろう事は予想されていた。
「少し遅くなったが昼飯でも食べようか」
確かに、はじめてのダンジョン見学で大興奮してしまい、食事のことなど忘れてしまっていた。言われてみて少しお腹が減っていることにようやく気がつく。
俺達は再びゴレカーに乗り、街の方に戻った。




