73.コンテストが終わり
明日3話アップして完結予定~
表彰式も終わり、俺たちは一度受付で持ち込み禁止品の受け取りなどして部屋に戻る。施設は普段は宿泊施設として使用しているので、ゴーコン終了後も申請すれば宿泊は出来る。そのほうがホテルに移動するより安上がりということで俺たちはもう一泊する予定だ。
部屋に荷物を置くと、再び医務室に向かう。
少し前にケーニヒの意識は戻っていたようで、途中から閉会式もベッドの上で眺めていたようだ。ただ、ケーニヒのベッドの周りには滅菌フィールドが展開されており、フィールド内に手を入れたりしないように注意される。
現在点滴している薬は、体の免疫反応そのものを抑えるような薬らしく、ちょっとした細菌感染でも体の抵抗が効かなくなるようなものらしい。
「この薬は、ウルリッヒ症の急性症状が静まっても、すぐには投与を止められないんじゃよ。少しずつ薄くしていかなくちゃならんからな。少なくとも一週間は滅菌フィールド内におらんと駄目なんじゃ」
「え? じゃあ先輩はしばらく帰れないんですか?」
「実行委員会も一週間くらいならコンテストを終わっても医務室を使って良いと言うと思うがな、病院へ移動させるのが良いんじゃが……ワシは自分の治療院もあるからな、もしよかったらうちに移動してもらったほうが良いかな」
俺たちはそのまま一泊して明後日には帰る予定だが、流石に長距離移動は辞めてくれということで、ケーニヒは一週間ほど入院してから帰ることになる。ケーニヒの家には連絡済みのようで、家族が来るから気にせず帰ってくれといわれた。
ただ、飛行ゴーレムのチケットだけは全額は帰ってこないだろうがキャンセルして欲しいということで、ジジ先生に連絡をとってお願いしておく。
こうして事務的なことを済ませていると疲れたのだろう、ケーニヒがうつらうつらとし始める。俺たちは起こさないようにと、そっと医務室を後にした。
腐っても3年のマルクが今後の指示を与えていく。
予定通り明日は自由行動ということで各自自由に観光なり楽しむことに。特に何も考えてなかった俺はどうしようかと悩んでいると、ホイスとキーラが、1年3人で街を歩こうと誘ってきたので了承する。社長はヴィルに付き添って食べ歩きと、お悔やみスペースのために近くの葬儀社を何件か営業で回ったりする予定らしい。
マルクはケーニヒが別の治療院に移るのに付き添うという。
返却された端末には母親や、パメラにシュウ、PJ達のお祝いのメッセージが大量に来ていた。特に母親はゲストに父親が居たことを気にしていたので、早々に大丈夫だよと送っておく。
他の皆も同じ様に友達から優勝を祝うLINK等が入っているようで、しばらく皆で黙って端末と向き合いLINKを黙々と打っていた。
そろそろ食事でもというタイミングで、ドアがノックされた。ドアの横にあるトイレから出てきたマルクがそのままドアを開ける。
「……」
ドアの向こうで誰かがマルクに話しかけている。
「あ、あの、ちょっ。ちょっとお待ち下さい」
すぐにマルクが部屋の中に戻ってきて、俺を呼ぶ。なんだろうと部屋の入口まで行くと、ドアの向こうに父親が立っているのが見えた。
「あ……どうしたの?」
父親は左右の廊下に視線を走らせ、人目が有るかもしれないから、中に入って良いかと聞いてくる。俺はそのまま部屋の中に入れ、ドアを締めた。部屋の中でトランプ等をして遊んでいた班員達が黙り込んで様子をうかがっている。
「リュートは、泊まりか?」
「うん」
「明日は……何か予定があるのか?」
「え? ああ、仲間と街に繰り出そうと話していたけど……」
「そうか……何処か食事とか行けるタイミングはあるか?」
「ど、どうだろう……」
突然の父親の誘いに戸惑っていると、部屋の奥からホイスに「俺たちはどうでもええから行って来い」と声がかかる。
「あ、大丈夫みたい。朝でも。昼でも」
「そうか……じゃあ、朝迎えに来るよ」
「うん……」
それだけ言うと、再び父親は部屋から出ていった。
「うーん、どうしよう?」
皆の所に戻って、困ったようにつぶやくとホイスが、どうもこうも無いだろうと言ってくる。
「息子の表彰で思わず泣いちまうような、父親だぜ、ええから一度話してこい。もう何年も話したこと無いんやろ?」
「うん……ていうか、キーラはホイスと2人きりで大丈夫なのか?」
「大丈夫ってなんやねん。俺は紳士やで? 失礼やな」
「お、紳士さんよろしくね~」
「お、おう」
食事の時間の放送はないが、事前に伝えられた時間に食堂へ向かう。
コンテストは閉会式で終わりということだが、ゴーコン終了後は一般客も受け入れるため、食堂は開いている。入り口で食券を購入して学食のような感じで使うのだが、俺たちは特に外食する予定もなく施設の食堂で食事をすることにした。
半分ほどの学院は閉会式で各々帰宅していったり、宿泊する学院も施設の外で食事にでかけたりと、今までと比べ食堂は閑散としていた。大会後の静けさというやつだろう。中には俺たちにおめでとうと声をかけてくる学院生も居たが、ゴーコン終了後の気の抜けた雰囲気に今年のゴーコンもこれで終わったんだと、なんとなく寂しさも感じた。
普段、この施設は一般にも開放されるときは格安の宿としての利用や、ゴーレム関係以外にも合宿所や、イベント会場としてゴーコン実行委員会の大事な資金源となっているようだ。海も近いためゴーコンの後片付けを終了すると、夏休みを利用した海水浴客なども多くやってくるらしい。
……海か。
「ホイス。夕食食べたら、海でも見に行かない?」
「ん? ええよ。しっかし男と2人で海もなあ、よしキーラも付き合え」
「うん、いーよ。じゃあさ。売店で花火買っていこうよ」
「花火? そんなん売ってたか?」
「うん、さっき売店行ったらゴーコン終わったからって通常営業の品物に陳列し直してて。花火も置いていたから聞いたのよ。なんかバケツとか火も貸してくれるみたいだからさ、先輩たちも行いこ~よ」
同じテーブルで食事をしていた先輩たちも誘い、皆で夕食を終わらせたら海岸まで行くことにする。海なし州の俺達は、海を誘われて断る人なんて居ない。ホイスはブローヴァだからそんな海が珍しいわけでは無いだろうが。
ケーニヒが1人医務室で寝てることを考えると、あまりはしゃぐのはどうだろうとも思ったが、マルクがそんなの気にするなと、ウキウキしながら売店の花火を見繕っていた。
売店の規模だと家族連れの子供向けなのだろう、3種類くらいの色んな花火の入ったセットが置いてあるくらいだったが、ちょっと遊ぶには十分だ。
ザザァァ。ザザァァ。
既に日は沈んでいたため、砂浜は暗かったが施設の周りの街頭や、窓からこぼれる明かりの届く場所で花火を楽しむ。マルクの様にビーチサンダルなど持ってきていなかったため、靴も靴下も脱ぎ、素足で砂浜の感触を楽しんでいた。
俺は花火を楽しむ皆を眺めながら、明日父親と何を話せば良いんだろうと、ぼんやり考えていた。
「リュート君。楽しんでないね~」
「え? いや。楽しんでるって」
そんな俺を気にしたのか、キーラが声を掛けてくる。
「明日のこと考えてたんでしょ?」
「え?」
「難しいこと考えないでさ。懐かしい人とご飯食べたり、お話したり、適当に楽しめばいいのよ」
「……うん」
「そんでさ、お小遣いでも貰っちゃえば儲けもん!」
「ははは。そうだね」
「うんうん。そういうの子供が悩まなくていいと思うよ。難しいことは大人任せでね」
「うん」
キーラはパチパチと燃える花火を両手でぐるぐる回しながら、砂浜を走っていく。
俺も見習おうと、砂浜に広げられている花火の袋から一本取り出し、火をつけた。