70.全国大会 5
『いやはや。まさかジュール君以外で第5世代を使ってくる学院があるとは思いませんでしたね。ジュール君擁するブラッシュ学院と、ショパール学院。今大会での対戦ははじめてになりますが、どの様な流れになると思いますか? カーティス博士』
『第5世代は……召喚時間の長さがネックになると思いますが、ジュール君は高速詠唱でそれをクリアしています。予選の時と比べても準決勝ではかなりのスピードになっていましたからね、コレより更にスピードが上がってくるかもしれません。それに対してリュートは事前詠唱で詠唱時間を短縮しています。1回戦から事前詠唱を使ってることで、決勝に魔力が残っているのか? という問題になってくるのではないでしょうか』
『なるほど、残存魔力量ですね。果たしてそこは現状どうなのかが不明ですからね。オクトさんは、どう見ますか?』
『お互いに召喚師が全力を出せる状況であるとして、補助士のスピード差を見るとブラッシュ学院の方が早くなります。ショパール学院は少数のチームである分、第5世代に補助式を乗せられるスキル持ちの選手が四人しか在籍していないようです。確かに2人の補助士が二重詠唱と言う高度な技術で人数不足をカバーしていますが、いかんせん二重詠唱ですとどうしても補助式の転写スピードは落ちます。そこを考えるとやはりブラッシュ学院の方が有利と言わざるを得ないでしょうか』
『召喚スピードではやはりブラッシュ学院の方が早いと言った感じですね。ゴーレム性能についてはどう思われますか?』
『注目したいのは、ショパール学院の多節アームですね。通常樹木などの高い場所で作業する場合と地面の低い場所で作業する場合では、フィールドを見て術者が調節をかける事で対応をします。ショパール学院の多節アームはよく出来ていますね、どちらにも対応できる様に見えます。きっと事前詠唱をするために予め他のパターンでも対応出来るように考えられているのではないでしょうか』
『なるほど。カーティス博士。何かありますか?』
『うーん。オクトさんの言うアームに関してですが、ブラッシュ学院の様な人間と同じ関節の物はそのまま術者のイメージを乗せれますが、おそらく多節アームは術式で構築されているのでしょう。その分、手間も失敗も出やすい。しっかりと術式を組んでほしいですね。準決勝での害虫の除去はほぼ同じ様な成績になっていることを考えると、どちらも良く考えられて作っているんでしょう。頑張って欲しいです』
『デイジーちゃんはどうです?』
『えーっと~。シーグラス州の代表が負けちゃったので。後は皆に頑張って欲しいですね~。ジュールくんの第5世代で決まりと思ってたコンテストが、ライバル出現で盛り上がってきて嬉しいです!』
『そうですね。やはり結果が見えてしまう戦いというものは少し盛り上がりに掛けてしまいますからね。今年のゴーコンも熱い決勝戦が楽しめそうです。なお、決勝戦は三十分ほどの休憩を挟んだ後に行われます。お楽しみに』
◇◇◇
「なあ……今の放送待機室で流すのおかしいんちゃうか?」
「え? 確かにあまり聞きたくなかったかも」
「そこやないわ。ウチとブラッシュの話ばかりで、他の2チームは蚊帳の外みたいで聞いててイラッとするやろ?」
「たしかに……いや。まずいよな。ホントに」
確かにそれまでの話は聞いていなかったが、俺たちが待機所へ来てモニターに映された物を見る限り、俺たちと賢者たちの学院の話しかしていない。他の2チームの人たちが見たら少し嫌な気分になるだろう。
それにしても父親はさっきと比べ、少し普通に戻ってきた感じはする。だけど「リュート」って呼び捨てにしたよな。誰も突っ込んでいなかったけど。賢者にはちゃんとジュール君って言ってたし。
でも……俺の子って意識はあるって、そんな印象がちょっとだけ嬉しいのかもしれない。見ている俺としては何故か嫌な気分はしなかった。
待機中に何か食べ物をと、ヴィルが売店に行くと言い出すと、マルクも一緒についていく。しばらくして2人が例のご当地アイスを人数分買ってきた。
「わーい。先輩ありがと~」
キーラが喜んで飛びつき、食べ始める。俺も朝に一度食べてはいるが、こういうアイスは嫌いじゃない。何度でも楽しんで食べれる自信はある。袋を開け、食べ始めた俺達を見ながらボソっとヴィルが呟く。
「ただ、もしアタリが出たら、その棒はちょうだいよ」
「ははは。ちゃんと渡しますから安心して下さい」
もぐもぐとアイスを食べる。それにしてもなかなか旨い。こういうご当地アイスって、絶対全国販売しても売れるだろうって思うんだけど、どうしてご当地で終わらすんだろう。そんな事を考えていると、社長が食べ終わったアイスの棒を高々と掲げる。
「ふふふ。当たったわよ」
「おお~。流石ローサ! 頂戴!」
「うーん。ヴィルさあ、流石に女性の食べたアイスの棒を欲しがるってどうなの? 躊躇ないわけ?」
「え? まあ、すぐに売店で交換するしなあ」
「……そうね。洗ってくるわ」
そう言えば、朝に食べたやつもアタリ付きだったのか。知らないでチェックもせずに捨ててしまったなあ。うーん。もしかしたらアレも当たって居たかもと思うとなんとも惜しい気持ちになる。かといって、売店前のゴミ箱を漁る気にもならないしなあ。
『まもなく、決勝戦の受付を行います。決勝へ進んだチームの方は、決勝フィールド前にお集まり下さい』
決勝の受付のアナウンスが流れ、休憩時間に少し緩んだ気持ちもすぐに引き締まる。
マルクがアイスのゴミを回収していく。流石に先輩にゴミを渡すのには躊躇するが、「そんなの良いから。その代わり勝ってこいよ」とゴミを奪われる。
「じゃあ、皆、いくよ」
「はい」
椅子から立ち上がり、仲間を見渡す。皆変な気負いも無さそうだ。
俺達は決勝フィールドへ向かった。




