69.全国大会 4
試合フィールドの前で6チームが入場を待つ。予選の情報もあるのだろう。チラチラと俺達を伺う視線も感じる。この中ではツェッペリン国際が優勝候補筆頭だったか。ツェッペリン国際の選手のユニフォームは真っ黒なシャツ。なんとも雰囲気がある。
「それにしても、ユニフォームあって良かったわ。見てくれだけでも揃えるだけで違うものね」
いつも飄々としている社長も準決勝の重圧を感じるのだろうか。流石に全国大会に出てくるチームで、ユニフォームを揃えていない学院はない。揃いのTシャツでの出場が一番多い様だが、去年までのそれぞれの私服での出場だったりすれば、試合の緊張以前に気恥ずかしさで厳しい戦いになっていたかもしれない。
フィールドへの入場が始まるり、緊張が増すのを感じる。第5世代を使うというのも緊張の要因だろう。俺達の召喚位置に行くと、ケーニヒがスタッフにカーテンが開く時間は決まっているのか聞いていた。
「キッチリと何時に開始というのは無いようだ。ほぼ審判のさじ加減でスタートしているらしい」
「……了解です。厳しいですね」
フィールドの外に各々荷物を置き、周りを見渡す。
1チーム、円陣を組んでいるのをみて、あれが終わったら召喚を始めようと決める。
オー!
見ていたチームの円陣が切れるのを期に、俺は事前召喚を始める。仲間たちはそれを察して邪魔をしないように黙ってフィールドへ向かう準備を始めた。
『コレより、準決勝第二試合が行われます。まもなく不可視カーテンが消えます。ブザーの音とともにカーテンが消えましたら、会場内に入場できますので、それと同時に試合が開始されます。皆さん。決勝へ向けて悔いの残らない戦いをしましょう!』
少し遅かったか、まだ召喚式は半分ほどだ。事前詠唱の場合通常の召喚より式の構築はやはり遅くなる。じれながらも間違えないように必死で事前詠唱を組み上げていく。
ブー!!!
ブザーと共にカーテンが消え、先程の1ブロック目のフィールドと同じ様な樹木が並ぶフィールドが露わになる。先に皆が召喚台の方に行きスタンバイをする。今回、マルクとヴィルは試合場の中に入らず、外で待つ。
まもなく術式を完成させて俺は、ゆっくりと崩れないように召喚石の前まで行く。
慌てず、それでも速やかに。召喚台で構築していた術式を召喚石に流し込むと、すぐに魔法陣が可視化する。そこには第4世代のものとは違う厳つい魔法陣が浮かび上がった。
――よし、ここまでは大丈夫だ。
そこに四人が補助式を転写していく。ケーニヒがすぐに転写を終え手を挙げる。そしてキーラだ。学院で練習していた時のキーラは常に一番遅く二重詠唱をする社長やホイスよりも遅く補助式を終えていたが、練習もしたのだろう、それなりにスピードアップしてきている。がんばっているな。
そして社長、ホイスと手を挙げると、それを確認し、俺は召喚式をフィニッシュさせる。
ふぁぁぁああああ
仄かな明かりとともに俺達のゴーレムが浮かび上がってきた。
◇◇◇
『まさか……信じられん……』
モニターを見ていたゴーレム評論家が身を乗り出す。
『え? やっぱりあれ、第5世代ですよね』
『リュート……あ、そ、そうですね。第5世代のようですね』
カーティスも食い入るようにモニターを見つめていた。
『な、なんと! 予選で第4世代を事前詠唱を使って召喚したショパール学院が今度は第5世代を召喚してきました! 召喚師はまだ一年生ですよ??? これは、前代未聞ではないでしょうか! まさに賢者のライバルとしてその実力をこの準決勝で見せてきました!』
モニター上では召喚された各チームのゴーレムが樹木にへばりつく害虫を除去し始めていた。だが、明らかに第5世代を召喚したショパール学院の駆除スピードが群を抜いている。
大ホールで観戦している観客たちの中からも歓声が上がる。
「これもしかして、賢者とかなりいい勝負出来るんじゃないか?」
「いや、でも話聞いていただろ。消費魔力がかなり半端ないっていうじゃないか。決勝でも事前詠唱する魔力が残るのか?」
「残るから今使ってるんだろ?」
「いや、だけど……」
◇◇◇
「お、おい……」
「やっぱすごいな」
俺達がゴーレムの作業を固唾を呑んで見つめていると、変化が出てくる。賢者のゴーレムでも見せた第5世代と第4世代の「学習能力」の差だ。はじめ両手で作業していたゴーレムがハサミのユニットや、草むしり用のフォーク状のユニットまで器用に使い出し、次々と毛虫を駆除していく。そのスピードはどんどん上がっていき、終了の時間が来る頃には、2位のツェッペリン学院ともほぼダブルスコアの数字を叩き出す。
これが、世代差というものか……。
「おいリュート……」
「ん?」
「優勝しちゃうな。これ」
「そのつもりだよ、ホイス」
「はははは」
勝利が確定すると、俺達はお互いにハイタッチで祝福し合う。だが、試合が終了するものの会場はシーンと静まり返ったままだ。上空の大型モニターに映し出される各チームの駆除数の数値だ。皆、俺達の圧倒的な数に言葉を失っていた。
「うん、後は決勝だね。とりあえず外に出てゆっくりしようよ」
ケーニヒに促され、俺達は会場から出ていく。出入り口でスタッフの前で魔力計で残りの魔力をチェックされる。俺もその数値を見たが、決勝の分の魔力は問題なさそうだ。
外に出て、少し離れた所で丸くなって芝生の上に座り、俺達はホッとしたように雑談を交わしたりする。自信が有ったとしても一つ一つ確実にステップを上がるのはやはり骨が折れる。1試合ごとの緊張は皆、共通して重くのしかかる。誰か1人術式を誤るだけで、結果が変わってくるのがチームでの召喚だ。
しばらくすると近くを通ったチームの1人が俺達に声を掛けてきた。
「完敗だよ。おめでとう。お前たちなら賢者にも勝てるんじゃないか?」
「ありがとう。まあ試合はやってみないと分からないけど、勝てるものなら勝ちたいね」
「召喚師の意地を見せてくれよ」
「がんばるよ」
ケーニヒが笑顔をむけ、礼を言う。男は手を上げそれに答えると、待機所の方へ向かっていった。
「リュート。あと一つやで」
「おう」
俺達も一度待機所に戻った。