66.全国大会 1
アイスを食べ終わり。何故か一緒にアイスを食べていたエマさんは、同僚から呼び出されて慌てて会場の方に戻っていった。あまり知らない人だったがどうやら俺の心配をしてきてくれたようだ。
これからどうしようかとベンチでボーッとしていると。やがて開会式が終わったのかゾロゾロと選手たちがこっちの方にやってきた。そっか。コレで競技フィールドの方に移動するのか。組み合わせはどんな感じだったんだろう。
そんな事を考えていると、ウチの班員たちもこっちにやってくる。
「リュート。大丈夫か?」
「あ、はい。もう全然大丈夫ですよ。すいません。心配掛けちゃって」
ケーニヒが心配そうにジッと俺を見つめていたが、すぐにホッとしたような顔になる。
「組み合わせは、まあまあかな。雑誌で取り上げられた上位候補が1つあるくらいだ」
「7チームのブロックですか?」
出場チームの数の都合上、予選の4ブロックのうち1ブロックだけ8チームになる。勝ち上がりの率的にはそこは避けたいところだ。
「うん。それもあるし、ちゃんと出来れば1回戦は第4世代で良いと思う」
「あ、すぐに試合ですか?」
「いや。先に他の2ブロックやってからだから、とりあえず俺達は待機所でモニター観戦だな」
話によると、大ホールでは大型モニターで観客は観戦するらしい。例年だと大ホールと小ホールを使って試合が行われ。直で試合を見れたのらしいが、今年は農作業ゴーレムがテーマな為、観戦場所と試合会場が別れる感じになってしまう。
他のチームの試合で空いている選手たちは、試合が行われるフィールドのすぐ近くに選手たちの待機場所が用意されており、そこにもモニターが設置され先に試合をしているのを観戦できるという話だった。
待機場所は、不可視フィールドに囲まれた中に簡単な椅子がたくさん並べられてある。各チームが各々に好きな場所を陣取り座ってモニターを眺めていた。
『さて、いよいよ予選の第1試合が始まりますね。第1ブロックと第2ブロックが同時に始まりますが。やはり注目のチームは第1ブロックのブラッシュ国立高等院でしょうか。それから第2ブロックのツェッペリン国際高等院も優勝候補として注目されていますね』
『賢者のジュール君ですよね! 私も今日は彼の第5世代のゴーレムを楽しみにしているんですよ!』
ふうん。やっぱこのタレントの女の子も賢者が気になるのか。その後も賢者の話が盛り上がっていた。父親もテレビは慣れているのか、無難に技術的な解説などをしている。もうひとりのゴーコン評論家の肩書を持つ男の人と父親が解説を担当している感じだ。
やがてフィールド内に開始前のアナウンスがされ、試合上の空気が変わる。そして不可視カーテンが消えると、フィールドの中央が林のようになっている。木からツルのように垂れ下がった先に赤みのある果樹が垂れ下がっている……マンゴーか。
『わ~。私マンゴー大好きなんですよ。シーグラス州のマンゴーは世界一だと思っています!』
『ははは。デイジーさんはマンゴーがお好きなんですね。後で収穫したマンゴー分けてもらえるかスタッフに聞いてみますよ』
『え~ 本当ですかぁ~! やった~』
モニターの向こうではタレントがどうでもいい話をしていた。たしかマンゴーはかなり高い果物だった気がする。だけど……ゴーコンとは関係ない話は置いておき、俺達が果樹の確認をしていると、次々にゴーレムの召喚が始まる。なんとなくカメラも賢者を追っているようで、打倒賢者に燃える俺達にはいい情報集めになる。
「ん。やっぱ賢者の詠唱は早いな。もう可視化が始まってる。事前詠唱か?」
「モニター上で魔力が確認できるか解らないんですが、感覚的に高速詠唱の様な気がしますね」
「そっちか……さすが優秀なスキルが揃ってるみたいだね」
隣りにいたケーニヒに事前詠唱をしているかの有無を聞かれるが、俺は多分違うという判断をした。可視化した魔法陣へ次々に補助式が書かれていく。高速詠唱ではないが、皆かなりの速さだ。流石に優秀な生徒を集めている大会だけはある。
大型モニターは4分割で色々なチームの召喚風景を次々に写していくが、そのうちの1つは完全に賢者固定だった。
――やはり、速さもある。
最初にゴーレムが召喚されたのは第2ブロックのツェッペリン国際だった。第4世代のゴーレムながらおそらくきっちりアンドリュー次式を重ねている。流石に第4世代の召喚スピードの方が第5世代より早いのは当然だ。他のチームも州予選を勝ち抜いてきたチームだ。しかし、そこまでタイムロス無く、賢者達のゴーレムが立ち上がった。
ゴーレム達は召喚台の近くにあるリアカーを引き、林の方に向かっていく。カゴじゃないのを見ると、時間内の収穫量を競うのだろう。第1第2両ブロックとも同じ果樹で同じ課題のようだ。
……
……
「やっぱ、こう比べると第5世代の動きは全然違ってくるわな」
「うん、始めはそんなに違いが無いように感じたけど、やっぱ学習能力が秀逸なんだろうね。補助式でのサポートも上手かったりするのかな」
結果としては、放送の注目チームは問題なく勝ち上がっていた。賢者のチームも召喚時の遅れは全く影響のない圧倒的な差で勝ち上がっていた。作業をしながら効率を修正していくようで収穫スピードが時間を追うごとに上がってくる。第2ブロックのツェッペリン国際も頑張っては居たが、収穫量は画然とした差が出ていた。
「うん、じゃあそろそろ良いかな。次は俺達の番だ。少し外で頭を切り替えよう」
放送では、放送席で今の試合についてのコメントなどをしていたが、次は俺達だ。あまり引きづられないようにと俺達は待合所の外へ出てウォーミングアップを始める。
「班長。もし円陣するなら今やっちゃいませんか?」
「今か?」
「はい、事前詠唱のタイミングを考えると早めにやっちゃったほうが良いと思うんですよ」
「なるほど。そうだな」
ケーニヒがみんなを集めて円陣を組む。
「良いか。賢者ばっかり意識してると足元すくわれるからね。ちゃんと試合に集中していこう。今回は新型アームもある。直前で召喚をいじるようなことはしなくても良いから、決まったやつをキッチリ頼むよ」
「はい」
「じゃあ……決勝進出くらいにしておく?」
「班長……優勝でたのんますわ」
「そ、そうだね。うん。じゃあ……優勝するぞ!!!」
「オー!!!!」
そして、俺達の試合会場に向かう。
もう既に他のチームも集まって入り口はごちゃごちゃしていた。やがて入場が始まり。次々と会場内に入っていく。入場時は入り口で一人一人魔力計で魔力量のチェックをされる。試合場から出るときも同じ様にチェックをされ、マジックポーションなどでの魔力の補充をしたりと不正を防ぐものなのだろう。
試合場へ入ると、指示された場所へ向かう。
そして俺達の第1試合が始まろうとしていた。




