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ゴーコン!   作者: 逆霧@ファンタジア文庫よりデビューしました。
第三章 ゴーレムコンテスト(全国大会)
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64.開会式

 選手の入場が終わると、いよいよ開会式が始まる。

 日頃こういった式は退屈な記憶しかないが、会場を振り向けばメディアや観客が多く訪れいつもと違う感じに、少しワクワクする。


「これより、第93回ゴーレムコンテスト全国大会。作業ゴーレム。高等院の部の開会を宣言いたします!」


 開会宣言が行われ、ゲストの紹介が始まる。そう言えば、州大会の時は80台だった気がするんだが、はじめはいきなり全国大会とかやってたのかもしれないな。そんな事を考えていると、タレントらしき可愛い女の子が壇上に呼ばれ上がってきた。


 なんとなく見たことがあるなあ? 位なのだが会場は大いに盛り上がる。人気なのかな? あの子。


「こんにちは! デイジー・バートンです! 今日は私の出身のシーグラス州での大会という事で呼んで頂けて光栄です! みんな! 今日は頑張ってねっ!」


 おおお~


 会場が大いに湧く。デイジーは一通り挨拶を済ますと手を降ってステージの隅の方に行く。


「そして、もう1人。今日はスペシャルなゲストが来ています。そう。我々ゴーレムメイトにはもはや神となった存在! 今。時の人である。第8世代召喚式の生みの親! カーティス・スターン博士がお忙しい時間を縫って来てくれました。さあ。博士。どうぞ!」


 ――え? お……親父?


 デイジーの時より更に大きいどよめきが湧く。


 ……まじか……7年ぶりじゃないのか? いや。もう俺は親父のことなんて割り切っている。大丈夫だ……大丈夫だ……。


 列の前にいる班の仲間たちが、少し俺を気遣うように……というより、不安な顔で俺の方を見る。俺は必死に笑顔を作り大丈夫だと親指を立てる。



 そして壇上に父親が上がってきた。少し……年をとったか。俺の記憶にある父親のイメージと少しだけ違う垢抜けた感じの親父がマイクの前に立った。


 ――大丈夫。大丈夫。


 俺は父親の顔を見てもそこまで気持ちに変化が無いのを確認し安心する。

 壇上に上がったカーティスはしばらく会場を見渡すと、ニヤリと笑い語りだす。


「呼んでくれてありがとうございます。カーティス・スターンです。今日は若きゴーレムメイト達の日頃の研鑽の成果をこれから見れるということで、年甲斐もなくワクワクしています。僕も学院時代はずっとゴーコンに青春の全てを費やしてきたのを今でも大切な思い出として心のなかに残っています。ゴーコンは勝敗を決めるものなので勝つものも負けるものも居るとは思いますが、勝敗関係なく今日この場に居ることが、君たちの青春の証だと思っています」


 オヤジはそう言うと、言葉を切り周りを見渡した。

 世界を代表するゴーレム研究者の言葉に、会場の学生たちは目をキラキラとさせて集中していた。


「実は今日は、私もこんな機会だから息子を連れてきているんだ。初等院に入院したばかりのちびっこだけどね。子供にも君たちの熱意を感じ取ってもらって――」


 ――こ、子供?


 な、何だって??? 子供? 子供だって? ちょっと何言っているか……。


 父親に子供が居たことを知らなかった俺は、突然の事にパニックになる。

 やばい……駄目だ……吐きそうだ……。


「おっおい、リュート? ってなんちゅう顔しとるんや。大丈夫か?」

「だめ……吐きそう……」

「ちょっ。ちょっまてや。我慢や。トイレ行こう。な。こらえろ」


 振り返って俺の顔を見たホイスが慌てて俺をトイレに連れて行こうとする。周りに居たスタッフも俺の様子に気がついたのか近づいて来る。


「君? 大丈夫か?」

「すんまへん。こいつ緊張しすぎて吐きそうらしんですわ。トイレに連れてって良いですか?」

「あ、ああ。さ、こっちだ」


 俺とホイスは列の後ろに居たため、あまり周りに気が付かれないままトイレに連れて行かれる。ホールを背にして、会場では盛り上がる声が聞こえてくる。


 ……くっそ。こんなつもりじゃなかったのに……。





 ジャー。ゴボゴボゴボー。


 はあ……はあ……そうだよな。再婚をしたのなら子供が居るのだって当たり前じゃないか。親父の子供は俺だけだとか……やっぱり。俺のエゴじゃないか……。


 くそう。自己嫌悪に陥りそうだ。これからコンテストだと言うのに……。


「リュート。どうや? 少し落ち着いたか?」


 トイレのドアの向こうからホイスが話しかけてくる。ホイスにしては……妙に優しい声だ。


「ごめん……」

「気にするな。突然離れていた父親が出てきたんや。なんだかんだ言って俺らはまだ15やで。パニックにもなるわな」

「違うんだ……」

「ん?」


 ホイスもなんだかんだ言ってもう仲間だ。ドアを挟んでもその声を聞いていると落ち着く。1人じゃないと言うのが今この場では特にありがたく感じた。


「両親が別れて、親父が再婚して、もう他人だって割り切っていたはずなんだ……」

「ああ……」

「だけど……心のどこかに親父の子供は、俺だけなんだって……そう思ってた……」

「うん……」

「甘ちゃんなんだよな……俺……」

「そんな事ないやろ。情報無かったんやろ? 色々自分に都合よく考えちゃうのは誰だってあるやろ?」

「うん」

「博士の子供のリュートはお前1人やろ? 新しい奥さんの所で子供が居たって、それはそれで別の博士の子だ。気にせんでええと思うで。ん~。何言ってるのよくわからんけど。まあ、なんつうか。博士に他の子が出来たって、お前が博士の子だという事実は変わらんやないか。博士がお前の父親ってのも、お前が博士を他人だって思ったって一生ついて回る事実やろ? 無理して他人だと思う必要はないんやないか? まあ意識しすぎる必要もないけど……って俺は何を言ってるんや?」

「ははは……」

「まあ、なんつうかさ。気にしてもええが。気にせんと」


 ホイスの言ってることがぐちゃぐちゃに成っちゃっているが。ホイスの気持ちはきっちり分かる。……そうだな。今の俺には母親が居るし。班員の仲間もいるし。パメラもいる。シュウやPJだっている……。


 ガチャッ。


 ドアを開けると、心配そうに俺をみるホイスと目があう。


「ありがとう。なんか全部吐いて、愚痴ったらスッキリした」

「お、おお。そうか。良かったわ」

「ホイスの必死な感じがすごい、ありがたかったよ」

「なっ! なに言うてんねん。そんな――」

「優勝しよう」

「へ? あ、ああ……当然や」

「お前の息子はいい仲間に囲まれて元気にやってるぞって、見せつけたい」

「……そうやな」



 トイレを出てホイスがホールの方に行こうとする。


「ごめん、ホールに行ってきてよ。俺吐いてなんかお腹が空になっちゃったから売店でも行ってくる」

「は? 吐いてすぐに食えるのか?」

「うん。ヴィル先輩が食べてたご当地のアイスが食べたくなった。後で合流するから行っておいでよ」

「リュート……大丈夫……そうやな。……分かった。栄養補給してきい。試合の組み合わせは俺が見とくわ」

「うん、よろしく」


 俺は人の居ない通路を、1人売店の方に向かって歩き始めた。


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