62.全国大会、缶詰 2
間違えました。63話からアップしてしまった。
修正済みです。
次の日、食堂で朝食を取り、そのまま午前中はキーラの白補助器への刻みを優先させる。
前回と同じ様に、女子部屋で社長がキーラの刻みに付き添い確認もする。出来れば午前中には完成させ、午後には召喚練習で補助器のチェックなどをしたい所だ。
キーラが頑張っている間。俺達は男子部屋で各々の担当術式を紙に書いて、お互いにチェックし合う。あれだけやっただけあり、皆スラスラと書けている。
第5世代の召喚術式はさすがのケーニヒも解らないという事でどうしようかと考えていると、ケーニヒが俺にちゃんとケーニヒの担当術式を覚えられたかと確認してくる。見た感じ元気そうだし今の所問題ないのだが、第5世代への補助式の書き込みに魔力を使うのを警戒しているようだ。
ちゃんと、ケーニヒの術式を書いてみせると、安心したように頼むよと言ってくる。
「それで、一応この術式の確認をして欲しいんだがリュート良いかな?」
確認が終わると、ケーニヒが書き綴った術式を書いた紙を見せてくる。それを見て俺は驚く。いや……コレって……。
「班長……コレは……」
「うん。まあ、一応念の為だよ。使う使わない関係なくね」
「だけど……いや。大丈夫なんですか? こんなの」
「だから念の為だって。ほら、間違いないかチェックしてくれ」
「でも……はい……」
俺は言われるがままに数枚の紙をチェックしてみる。実際よく分かってない部分もあるが多分、完璧だ。「大丈夫だと思います」とケーニヒに返す。
「うん。よし。まあ、とりあえずだ。気にするな」
「は、はあ……」
小さい声でケーニヒが言うと、そのまま他の班員の術式のチェックに回っていた。
お昼近くに社長とキーラが帰ってきたため、白補助器の刻みを皆でチェックしていると、昼飯の用意が出来たと館内放送で知らされる。
一通りチェックをして刻まれた術式に問題がないことを確認すると、皆で食堂に向かった。
食堂前でケーニヒとマルクに練習用フィールドの予約をしてくるから先に食べてるようにと言われる。ああ、確かに予約は直接取りに行かないと駄目だからな。「お願いします」と先輩たちに言って俺達は先に食堂に入って行った。
州大会と同じで食事がテーブルに用意されるのは昨日の夕食の時だけの様だ。俺たちは厨房前のカウンターで並んでいる他所の学院の生徒たちの後ろに並ぶ。
昼飯は三種類の定食から選ぶ感じで、列に並びながら脇に置いてあるメニューを確認してどれにしようか悩む。
きょうの料理は、地元の料理というよりだいぶ一般的なものだな。
「三種類か。リュートは何にするんや?」
「スパラにしようかな……」
スパラとはスパイシーシチューライスの略で、香辛料の効いた辛味の強いシチューだ。元々南国の暑い国のスパイスを調合するような料理で、今ではどこの家庭でも食べられる一般的なものだ。まあ、本国の物をシチューの様にアレンジしてるので、本場のものとはだいぶ違うとは言われているが。確かにコレなら好き嫌いも無いだろうし。毎日食べても飽きない。
後はパスタと、揚げ鶏の定食だ。キーラはパスタを、ホイスは揚げ鶏の定食を頼んでいた。まあ、どちらも一般的なものではある。
今日のキーラはいつかのホットパンツの様な物でなく、前にも見た穴だらけのジーンズを履いていた。それでも真面目系のゴーレムメイト達の中では少し浮いている。
食事をしていると、ケーニヒとマルクがどこか微妙な顔でやってきた。
「う~ん。なんか、皆補助器が出来上がる前提で先に予約してたのかなあ。それとも昨日の夜にもう刻み始めてたりするのかもしれないね。良い時間に予約が取れなくて、ちょっと遅い時間になっちゃったよ」
「遅い時間ってどのくらいですか?」
「んとね、夕食の後だね。あまり魔力使いすぎると明日に戻ってるか分からないからマジックポーション買っておくか」
「そうですね」
ううん。州大会の時はフィールドと別にホールを練習でわりと自由に使えたけど、全国大会では宿泊数も1日少ないし、練習場が少し少なめなのだろうか。でも取れなかったものは仕方がない。食事が終わると再び男子部屋に全員集まり、午前中に確認できなかった社長とキーラの二人の担当する術式の確認などしていく。
「おお。キーラも大分いい感じやないか?」
「うん、ちょっと今回は自信あるよ。全国放送であたしの勇姿が! どうしよう。芸能事務所とかからお誘い貰っちゃったりしたら!」
「まあ、それは大丈夫やろ」
「ん? 大丈夫って何が? あれえ? ちょっとホイス君失礼な事を言ってる予感なんだけど~?」
「はっはっは。リュートパスや」
「ちょっっ! え? おいホイス! いや。大丈夫だと思うよ」
「……だから何がなの?」
「えーと。ちゃんと補助式出来そうだって」
「……」
夕食をとった後、ようやく俺達は練習用の不可視フィールドに向かう。
フィールドは州大会の練習用ホールと同じ感じで何も植えられていない畑が広がっており、植物の種のような物があるだけだった。完全に白補助器の確認の為だけの施設なのだろう。
予約の1枠が1時間半と言う単位で、先に予約をして練習をしてるチームが収穫物を採取しまくると、後からやるチームが練習場に入る頃には丸坊主だったりするんだろう。そこら辺で、練習場は種植とかのデモ位しか出来なくなっているのだと思う。
とりあえずやってみようという事で、事前詠唱を使い第5世代を召喚した。
「うんうん。やっぱりキーラは優秀だね。完璧に動いているよ」
「ありがとうございますっ! 社長先輩が姑の様に私の刻みをチェックしましたからねっ!」
「姑ってなによ!」
「ひひひ」
なにはともあれ無事に白補助器の稼働も確認できる。
俺は今回学校からの補助金で購入した魔力量を計測する装置で確認を取っていると、ケーニヒが聞いてくる。
「リュートは第5世代だとどのくらい召喚できるんだ?」
「えっと……たぶん連続だと8~9回位でしょうか」
「お、結構余裕あるね……事前詠唱をしてもか?」
「いや、事前詠唱だと……3回がやっとこかもしれません。大会だと朝から昼過ぎまであるので、もう少し回復して4回行けるかもしれませんが」
「そうか。失敗した時とか考えるとそこまで余裕は無いんだな」
「そうですね。高速詠唱を出来ればこういう魔力ロスは無かったんですが」
「まあ、そんな高度なスキルは使える高等院生なんて殆ど居ないんだろうし、しょうがないよ」
全国大会では予選は数会場が同時に行われるが、放送の関係上準決勝の2試合は同時におこなわれ無いらしい。時間の問題もあるのだろうか、予選、準決勝、決勝の3試合で全てが決まる。だから一応3回の召喚には魔力は足りる計算ではあるんだ。
ケーニヒはしばらく考え込むと社長と何やら相談を始める。そして第4世代を事前詠唱をした時の魔力消費を見てみようと言うことになり、今度は全員参加での第4世代の召喚をやってみる。キーラは慌ててアンドリュー次式を必死で確認していた。
第4世代の召喚後、再び魔力計で確認をとる。術式の長さが大分短いのもあり事前詠唱を使っても第5世代と比べて半分くらいの消費魔力で済む感じだった。
再び作戦会議を始め、結果として1回戦は事前詠唱を使った第4世代でやってみようと言う話になる。
もともと今回のように賢者が第5世代を使わなければ、第4世代とアンドリュー次式の組み合わせで、高等院の部のレベルでは十分優勝を狙って良い物でもある。実際はそこに補助式の差が反映されてくるのだが、それを差し引いても事前詠唱を組み合わせれば他の学院よりも召喚が早いため時間を競うこの大会にはかなり有利になる。
一回戦を突破する事に関しては、それで行けるんじゃないかと。それに後々の事を考えれば第5世代の補助を少なくしたほうがケーニヒの体調にも良いだろう。
「ただ、一回戦の組み合わせに賢者や他の強豪校が重なって出てきたら最初から第5世代にするかもしれないけど良いね」
「はい」
こうして俺達はゴーコンの事前練習を終えた。